救急で出会った女子高生
救急では、自殺未遂の患者さんを受け持つことがある。
飛び降り
焼身
腹刺し
オーバードーズ
家庭用洗剤の服毒など
いろいろあるけれど
生命の危機におちいった場合は、精神科の前にまず救命センターとかに搬送されるので、精神科の知識も技術も0%の、私みたいな普通のナースが受け持ったりする。
自殺未遂を繰り返す女子高生の話
「今回は死のうと思ったんだけどな。」
彼女はサラリと言った。
彼女的に、本気の時とそうじゃない時があるらしく、今回はマジだったらしい。
でも運悪くいい感じにクッションが効いたところに落ちてしまった。
こういうことはよくある。
ノーバウンドで転落するつもりが、自転車置き場の屋根にワンバン、敷地内の大きめの木にワンバン、みたいなことが起こると、当たりどころがよければ骨折やかすり傷くらいで済んでしまう。
都会では、そんなもんじゃ死ねない。
飛び降りる階数を間違えて、ノーバウンドで転落したのに致命的な事態には至らない、というケースもある。
いずれにせよ、「今回も」助かってしまった彼女。
状態が安定して、もうすぐ精神科単科の病院に転院になるということで、屋上へ散歩に誘ってみた。
※「救急は忙しい」というイメージがあるかもしれないけど、鬼のように忙しい時と、平均してずーっと忙しいときと、鬼のようにヒマな時がある。
空床次第。
死にたかった少女の心が解ける
屋上で空を見上げながら語る。
公園の木を見下ろしながら黙る。
恋愛の話とか、お母さんとの話とか、将来の話をした。
どうやら彼氏がいるらしい。
(最近の高校生はマセてんな〜)
そんなことを思いながら、そこそこひやかした。
「空が綺麗だねぇ。」と私が言うと(←仕事中)
「こんなに話を聞いてくれて、こんなにもわかってくれる人がいると思わなかった」と彼女が言った。
私はハッとして、ホッとした。
「たった15分くらいの会話の中で
初めて会話した相手にそんな温かい言葉をかけられるあなたは
もう私の心を救ってるよ。
世の中思い通りにいかないことだらけだけど
こうして何気ない会話をしてみるだけで
誰かに救われたり、誰かを救ったりできるから。
きっと大丈夫。」
なんの根拠もないのに「大丈夫」だと言ってしまった私。
今思えば、プロとしてどうなの?っていうそんな言葉を聞いて、彼女はポロポロと泣いていた。
当時の私は、救急に来てみたはいいけど全然うまくいかなくて、周りと比べては落ち込んで、こんなはずはない、こんなもんじゃない、ともがいていた。
そんな私も、彼女の言葉にしっかり包まれて
涙する彼女の肩をポンポンしながら、しっかりもらい泣き。(←仕事中)
「え、やめてやめて。泣かさないで。私そういうキャラじゃないからさ。」
私が言うと、今度は泣きながら爆笑している。
忙しい情緒だな。
会話することの意味
「まともに会話したことがなかったお母さんとも、何かしゃべってみようかな。」
病棟への帰り道に、彼女は小声で言った。
「ずっと心配してくれてる彼にも、連絡してみたらいいじゃんね 。」
私が言った。
「喋るのってめんどくさいけど、なんかイイことなのかも。」
これは彼女のセリフだけど、私も同じことを考えていた。
喋るのは面倒で、「言葉にしなくてもわかってよ」って思うこともある。
なんなら「言葉なしで通じ合えるのがイイ」みたいな風潮もある。
でも人間と人間は、言葉を交わさないと必ずすれ違うし、言葉を交わすと分かり合える。
人を救うことだってできる。
元気に生きてるといいなぁ。
あなたに教えてもらった大切なことは、今も色褪せずに、現役ナースに語りかけるエネルギーになっています。
今日も、Nバクとして頑張ります。
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