押し付けがましくないですか?
はじめに
皆さんは後輩や部下に対して指導するときに「あなたのため」という言葉を使っていませんか?この言葉を親切心のつもりで言っているかもしれませんが、本当に親切心で言っているのでしょうか?言葉では人はどうとでも取り繕うことはできますが、本心はその言葉を免罪符代わりにして余計なことまで言っていないでしょうか?もしくは、自分の価値観を一方的に押し付けていないでしょうか?今回は「あなたのため」という言葉について考えていきたいと思います。
「あなたのため」はあなたを思っていない
「あなたのためだから」と指摘されることはよくありますが、実際、その人のためになっていることはほんの一部でない場合が大半です。最初はその人のためを思って言っていることがありますが、途中から相手への非難や罵声へと変わっていきます。しかし、「あなたのため」という言葉が免罪符として使われており、多少のことは許されているように思われます。会社などで態度が悪い人に対して、「その態度直した方がいいよ」と言い、「別に実害がないんで直す必要ないでしょう」と返されて、「お前みたいな堕落した人間のことを思って言っているんだ。だから直せ」といった具合です。このやり取りからも態度が悪いのは明らかですが、それに対する答えもまた酷いです。堕落した人間と言う必要はありません。「あなたのため」や「あなたを思って」を免罪符として使っている例です。
「あなたのため」という言葉は自分の考えを押し付ける言葉でもあり、使い方には要注意です。間違って使うと単に押しつけがましい人か鬱陶しい人になります。僕が実際に経験したのは、上司がメールで○○社長様と書く人で、僕がメールで○○社長と書いて送ると、「メールの宛名の書き方も知らないのか。メールは○○社長様や△△部長様と書くのが基本だ。こんなことも知らないお前を思って親切に教えている」と言われました。○○社長様は誤用で、人の名前に社長を付ければ、それは「様」と同様で敬称です。肩書として社長を使う場合には様がいります。正しくは「代表取締役社長 ○○様」です。間違っていようがいまいが、20年以上、それを使っているとそれが正しいと思ってしまい、自分より若い人間のやっていることが自分のやり方と違うとそれを指摘したがります。そして、角が立たないように「あなたのため」という言葉を使いますが、単なる押し付けでしかありません。そんな人たちのことを思ってこういう言葉を送ります。「人の振り見て我が振り直せ」と。
“for you”は日本語の「あなたため」ではない
for youを日本語訳すると「あなたのため」と訳す人が多いはずです。その訳自体が間違っているわけではありませんが、for youには日本語の「あなたのため」のような押しつけがましさはありません。どちらかというと対象を表す言葉のように思います。Present for youは「あなたのためのプレゼント」となりますが、単にプレゼントの所有者を示しています。advice for youは「あなたへのアドバイス」となり、日本語の「あなたのため」に近いニュアンスにありますが、こちらも対象を示しているとも言え、完全に一致するものではないでしょう。
ドイツで会った日本人の方がいて、その人はドイツでの生活で何十年も生活されており、日本語が翻訳調でした。その人がしきりに「あなたのため」という言葉を使い、最初は押しつけがましい人なんかなと思っていましたが、それは間違いでした。単にドイツ語のfür dichを日本語にしただけの言葉だということに気付き、そこに押し付ける気持ちがないことにも気づきました。欧米のfor youに当たる言葉は基本的に対象を示す言葉で、あえてfor youを使う場合は対象が誰であるかを強めたいことが多いです。おもちゃなどに書いているfor childrenは「こどものため」と訳すより「子供用」や「子供向け」とする方が望ましいはずです。for youのニュアンスで「あなたのため」と使うと変な齟齬が生まれてしまいます。
外国かぶれをした人はfor youのニュアンスで「あなたのため」を使うことがありますが、ほとんどが押しつけがましさや免罪符的要素が残るものになっています。日本語でわざわざ、「あなたのため」と言う必要はありませんし、仮にそれを強調するのであれば、指摘内容だけに留めるべきです。フォローの言葉と思っているかもしれませんが、実は後ろ向きな意味で捉えられているかもしれません。本当に相手のことを思っていても「あなたのため」と言うと、それで押しつけがましさが残るかもしれません。しかし、そこは行動で示して、相手への押しつけや罵倒をせずに、指摘だけに留めておけば本来の意味として、相手も捉えるはずです。日本語でわざわざ言わなくて済むような言葉をあえて言うときは、それ相応の態度で示すのが、言う側の責任だと思います。相手への敬意があるかどうかで「あなたのため」という言葉の大きな意義が生まれます。
最後に
後輩や部下への指導は難しいものです。言葉一つにしても、捉え方ひとつで関係にひびが入ることがあります。そして、今の時代はパワハラに厳しくなり、言葉狩りのようなことまでされることがあります。コミュニケーションは相手がいることであり、相手を無視したコミュニケーションは成立しません。よく言われる受け手の気持ちに立つということが大事になります。ところが、相手のことを思う言葉が相手ではなく、自分を守る言葉になってしまっては元も子もありません。相手を本当に思う気持ちがあるのであれば、言葉で示すだけでなく、行動にも移すべきだと思います。言葉にする以上、行動が伴わなければ、単なる口先野郎になってしまいます。言葉を使う以上、その言葉に責任を持ち、行動すべきだと思います。他者とのコミュニケーションの取り方や部下への教育ついては遠入さんの記事をご覧になってみてください。
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