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毎週金曜日は気になる敬語

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敬語は本来、敬意を伝えるツールであり、人間関係を見える化する便利なツール。そんな敬語の有用性を見直し、100%活用するために、ポイントや誤用例を紹介します。毎週金曜日に更新してい…
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敬語を使うには”自分を超えた”ではなく”人智を超えた”何かを想定する

先週は、「敬語は不平等か?」というテーマで、敬語が表す上下と人間としての尊厳は関係ないと書きました。 それならば、何に対して敬意を払うのでしょうか。 それは、人智を超えた”何か”です。 自分には分からないものがある、と考えると自分だけが愚かなような気がしてしまいます。ですので、人間は全知全能ではないのだと広く捉えましょう。かつ、その人間の向こう側に”何か”とのつながりを見て、その”何か”に敬意を払います。 ”お天道様”から見れば、人の善悪は小さい独特な敬語体系が生まれた我

敬語は不平等か?

以前、とある文章を読んで、「やっぱり、今認識されている敬語ってこういうことだよなぁ」と現実を突きつけられました。それが、作家である橘玲氏のこちらの文章です。 いや、私に言わせれば、「ビジネス敬語」には、「部長は平社員よりも人間として尊い」なんて含意はないし、どちらかというとあっては困るんだけど……。 ということで今回の記事をお届けします。 ご高覧くださいませ。 権力を抑制し個人の自由を最大化することを目指すリベラリズムには、万人が平等であり、誰もが等しく人権を持っている

敬語が世界を平和にする『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』〜読書感想文#41の④

この本の著者は金谷武洋。カナダで25年日本語を教え続けた先生です。 先週は、他動詞のSVO構文を基本とする言語が二元論と支配につながるという著者の説を受けて、敬語はそれを否定すると述べました。 自己主張には自己主張を、敬語には共感をそれでは、英語では平和になれないのでしょうか。私はそんなことはないとも思っています。 もし、相手を単に支配することが目的なら、こちらが自己主張をし、相手は自己主張をしないのが最適です。しかし、英語圏では小さい頃から自分の意見を言う場が与えられ、デ

支配は力と正義を欲する『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』〜読書感想文#41の③

この本の著者は金谷武洋。カナダで25年日本語を教え続けた先生です。 先週は、母語の重要性についてご案内しました。 日本語が世界を平和にする理由今回取り上げたいのは、以下の言葉です。 この文章を読んで心が震えました。 私が敬語を広めたい理由が、まさに書かれていたからです。 別に英語であるに限らず、たとえ日本語であっても、SVO構文は「支配」と「力」と「正義」を伴いやすくなります。そして、「支配」や「力」や「正義」と相性がいいのは「物事はこうあるべき」という決めつけで、「愛

日本語で考えるために日本語を知る『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』〜読書感想文#41の②

この本の著者は金谷武洋。カナダで25年日本語を教え続けた先生です。 先週は、日本語に主語はいらないという主張をご紹介しました。 思考は言語に影響されるさて、サピア=ウォーフ仮説なるものをご存知でしょうか。 母語によって、その話者の思考や概念のあり方が影響を受けるという仮説のことです。 人は、母語によってものごとを考え、母語によって世界を把握します。だから、母国外で子どもを産み、自分たちの母語ではない外国語で子育てをしてしまうと、しっかり考えたり感じ取ったりする力が養われな

過ちを繰り返さない『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』〜読書感想文#41の①

この本の著者は金谷武洋。カナダで25年日本語を教え続けた先生です。 私はよく、敬語を使うことで上下関係が明確になり主語を省くことができます、と説明していますが、著者によると、「日本語に主語はいらない(p.143)」のだそうです。 省くことができるというのは、本来必要ということですが、それは英文法を基本に考えるからそういう発想になるのであって、本来の日本語に主語は不要なのであり、主語がないと意味が通りづらいときなど、必要に応じて付けることができるというのです。 このように書く

『お白洲から見る江戸時代』~読書感想文#40の⑤ 「仕来り」から現代へ

表題の本をご紹介しながら、敬語と共通する考え方、現在にも通じる組織運営の在り方を考察しています。 先週は、治者が自らを厳しく裁く自浄作用が、民の信頼を生んでいたであろうこと、治者の目が民を向いていたように思われることなどを書きました。 今回はその最終回です。 「仕来り」とは「仕来り」というと、古めかしく役に立たないもの、打破すべきものと捉えられがちですが、江戸時代は「仕来り」を大事にした時代でした。では、その「仕来り」とはどういったものでしょうか。 今、受け継ぐべき本質を

『お白洲から見る江戸時代』~読書感想文#40の④ 組織の自浄作用

表題の本をご紹介しながら、敬語と共通する考え方、現在にも通じる組織運営の在り方を考察しています。 先週は、身分の上下に応じて席を決めるが、それは責任の重さをも表し、罰は重くなるという話をしました。ふさわしくない行動をしたとお裁きがくだされた治者は高いところから文字通り引きずり降ろされ、そして、それによって被治者である民は納得したろうと書きました。 今回はその4回目です。 本書は私に、新たな江戸時代のイメージを与えてくれました。そして265年もの間、平和に統治ができた理由を垣

『お白洲から見る江戸時代』~読書感想文#40の③ 引きずり降ろされる為政者 

表題の本をご紹介しながら、敬語と共通する考え方、現在にも通じる組織運営の在り方を考察しています。 先週は、上下関係を正しく可視化してお白州に表現することで、天皇や神仏の権威に頼ることなく現実の秩序を守ろうとしたと書きました。 今回はその3回目です。 権威に頼らずとは言っても、斬り捨て御免の武士においそれとは逆らえないし、江戸時代は非常に罰が厳しくて、すぐに死罪や流刑になったとも聞きますから、やはり民衆は怖くて逆らえなかっただけなのではないでしょうか。本心は虐げられて不満が溢

『お白洲から見る江戸時代』~読書感想文#40の② 4段階で上下を可視化

表題の本をご紹介しながら、現在にも通じる組織運営の在り方を考察しています。 先週は、刻々と変わるその時々の上下を正しくお白州に可視化することで、お上がいかに民を正確に見ているかを知らしめる場になっていたのではないか、そのために目下が目上の顔色をうかがう必要がなく、生産的な社会になっていたのではないかと推察しました。 今回はその2回目です。 上下を正しく可視化する江戸時代、その人の出自によって尊卑を決めることはなく、その時々の役割によってお白州のどこに座るかという席次が決まり

『お白洲から見る江戸時代』~読書感想文#40の①その人が偉いのではない

尊いのは人ではなく公務それは、侍の家に生まれたから偉いということではないということです。「士」の仕事を一部担う庶民も、その業務に携わるうえでは同様に尊ばれなければならない、そのように考えられていたのです。これはまさに相対敬語、いや、この本は席次の話であり言葉について書かれているわけではないので敬語とは言えませんが、とはいえ、言葉遣いもこれに準じていたことでしょう。ならばこれはやはり相対敬語であり、相互尊重ではありませんか。 現在に置き換えて考えてみましょう。例えば「年下の上

「ないでございます」「あるでございます」

最近の敬語は、とかく過剰になりがちで、不要な「お」の乱用や「いただく」依存症など目に余ります。 特にお客さまが相手だと、「ですます調」ではなく「ございます調」で話しましょうと指導している職場もあるかもしれません。 「ですます調」を使うのか「ございます調」でいくのかはもちろん会社側が決めることですが、指導したあと、実際にどのような話し方をしているかを見る必要があるかもしれません。もしかしたら、「ないでございます」「あるでございます」と言っている部下はいませんか? 例えば、あ

「申し訳ありません」は正しい敬語?

「とんでもございません」が本来は間違いであるということをご存知の方は多いのではないでしょうか。「とんでもない」という形容詞なので、「きたない」を「きたございません」とは言わないように「とんでもございません」も(本来は)間違いです。 一方でこちらはあまり知られていませんが、同様に「申し訳ございません」も本来間違いです。しかし、「申し訳ございません」という言葉を禁じられたら困る職業人は大勢いるのではないでしょうか。 逆にいえば、間違っていようといまいと「申し訳ございません」が浸

敬語を使うために必要なもの~「俯瞰する目」を持つ

以前の記事で、ネーミングを募集しました。 何人かの方からコメントを寄せていただきました。ありがとうございます。 kojuro先輩の「リトル」はまさしく、他者への敬意を忘れず和を貴ぶ姿勢が形を取ったものであり、私がやろうと必死こいているものを飄々と実戦されています。(そこに至るまでの紆余曲折はあったのだろうと推察いたします) また、「BIG I」をカッコイイと言ってくださったMa-hi-roさま、ありがとうございました。 そして、ChatGPTの活用をご提案くださったリ