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実はもう活用している

今回は久しぶりに政治の話題です。政治といえば、永田町や霞が関をイメージされるかもしれませんが、今日は地方政治について取り上げようと思います。以前は都市の理論の政治と地方の理論の政治の観点から地方政治について書きましたが、今回は地方の政治を取り上げたいと思います。地方では都市部のように行政の効率化を図ることは難しいですが、地方は都市部に負けないよう仕組みを持っています。その仕組みについて触れながら話を進めていきたいと思います。その仕組みに触れた後に景観保護について書こうと思います。実はこの2つは遠いようで密接な関りがあります。

民営化の波

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1980年代以降、日本でも新自由主義の影響を受け、国有企業の民営化が行われました。これは民間に任せることで市場の原理に任せることと公金の出費を抑えることを目的としています。JRやNTTのような完全なる民間企業だけでなく、半官半民の独立行政法人も設立されるようになり、国家行政の効率化が図られるようになりました。この流れは国だけでなく、自治体にも伝播し、東京では営団地下鉄を東京メトロにし、大阪では大阪市江地下鉄やバスを大阪メトロにするといった民営化が行われています。以前、地方政治について書いた回では民営化を行うのは効率化を図る都市の政治の理論であると書きました。都市部の自治体でも鉄道事業の民営化を行っています。
それに対して、地方では効率化を図ろうとすると住民生活に支障をきたすため、そういったことすることが非常に難しいです。地方は人口の割に自治体の面積が広いということがよくあります。日本で一番大きい都道府県は北海道ですが、東京都の半分の人口もありません。東京都より北海道のほうが物理的に管理するものが多くなります。地方は非効率の塊のように思われるかもしれません。そういった影響で都市部に人口が流入するのかもしれません。しかし、地方自治体のほうが国に先立ち民間委託をしています。しかも、地方の方が進んでいます。新自由主義の考え方が生まれる前から日本ではそれが行われていました。これを読まれた方は「言っていることがめちゃくちゃだ」と思われたかもしれませんが、その誤解をこれから解いていきたいと思います。

自治会という組織

国家や自治体との関係は法律や制度上では自治体と住民ですが、世界各国の政治を見ても自治体と住民の二者という関係だけで説明されることは非常に少ないです。自治体と住民の間に団体が入ることが多いです。団体が間に入ることによって意見を伝えやすくなり、運営側も一定の意見があると判断することができます。外国でも同様で、欧米の場合は利益団体だけでなく、教会が直接政治的に関与しないにせよその間に入ることがあります。日本の場合、どこが特異で自治体が民間委託をしているのかと思われるかもしれません。日本では特定の地域を管理しているのは自治会です。都市部では自治会が減ってきていますが、地方では健在で、よく活動をしています。自治会が他の団体と比べて特異なのは、特定の利益を追求するような利益団体ではないからです。外国の自治体と住民の間に入る団体は教会のほかに利益団体になります。欧米の教会が自治会に近い役割を担っていますが、教会には宗教が絡んでいるため、信者を対象とし、周辺住民を対象としていません。それに対して自治会は特定の地域の住民を対象としています。日本の場合は利益団体よりも自治会の方が大きな存在感があります。

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自治会は法律に基づき、自治体が特定の地域の管理させるために作り上げた組織ではなく、自発的に発生した組織です。都市部でみられるような一部の事業を委託し実質的な運営を行っている指定管理者とも異なります。自治会は法律上、認可地縁団体となるか、権利なき社団として扱われ、認可地縁団体は法人として権利を有していますが、権利なき社団は法人としての権利も有していますが、登記をする場合は法人ではなく代表者名義になるため、法人と自然人の要素を合わせ持つ組織となります。自治会は日本の地方政治の一つの特徴です。自治会が特定の地域を管理していたため、自治体が自治体に任せるような形になっています。しかし、この両者に委受託の関係がなく、自然と成り立っているのも特徴です。前述の指定管理者は自治体と委受託契約を結び、委受託の関係が成立しています。
自治体が新しい施設を建設するときには自治会の説得から始まります。周辺住民への説明会と報道されることが多いですが、基本的には自治会への説明です。自治体が周辺住民全員を説得し、了承を得ることは非常に難しいことですし、効率が悪いですが、意見を一本化できる自治会を説得し了承が得られれば非常にスムーズにことが進みます。自治会も住民生活を維持するために組織されているもので、ごみ集積所や公民館の管理も自治会が行うといった自治体的な役割もあれば、住民の意見をまとめる住民団体という側面も持っています。地方自治は官庁だけが自治体を管理しているのではなくて、自治体といった民間組織を活用して、自治が行われています。自治体が行う事業について民間活用が叫ばれていますが、住民自治に関しては昔から自治体という民間組織を活用していることになります。

景観は誰が守る?

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日本では景観保護を包括的に規定した法律は景観法と呼ばれる法律だけで外国に比べるとその規制は非常に弱いです。規制の厳しい京都市であっても、ヨーロッパの足元にも及びません。ヨーロッパでは景観規制区域で違反するような建築物を建てると、非常に重い罰則が科せられ、事業者と持ち主の両方が罰せられます。厳しい罰則で景観を守るのが、ヨーロッパです。日本の場合は景観保護条例が各地で制定され、国で法律を定めるようになりました。条例からスタートしているので、罰則も弱く、効果的なものでないという批判があります。そのため、日本の景観は壊されていくと言われることがあります。
しかし、景観保護についても日本はヨーロッパに比べて非常に弱いですが、守られている地域は守られています。この差は罰則の厳しさではなく、民間団体、すなわち自治会のような地域団体の力の強弱が景観保護を左右しています。ヨーロッパのように罰則が厳しくない場合は地域団体の力の強さがカギを握ります。景観保護団体がしっかりしている地域では景観保護に力を入れ、自治体と協議し補助金をもらっています。自治体もそういった団体に景観保護を任せています。さらに、景観保護区域の近く(保護対象区域外)に新しい大型施設の建設をする場合には、そういった地域団体が反対し、景観保護活動に努めています。自治体は法令や条例に違反をしていなければ、許可を出さざるを得ません。しかし、自治会のような団体であれば、法令や条例だけで判断することはなく、住民の利益等を主張することも可能です。そういった観点から自治体もそういった団体に協力をすることが多いです。法に頼らない統治が自治会のような団体によって行われていると言えます。

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自治会のような地域団体による景観保護にはやはり限界があり、法整備が必要だとは思います。地方の方が地域団体の力は強いですが、そういった団体は高齢化が大きな課題となり、担い手がいないといった問題を抱えています。地域団体と自治体のパワーバランスが今後も続くかと言えば、非常に怪しいですし、そのパワーバランスが崩れると景観保護から景観反故になってしまいます。地域団体と自治体の関係もいいですが、今後のリスクを考えるとさらなる法整備が必要だと思います。景観保護も新型コロナ対策と似ていることがあり、緩くなっています。法がない状態で何かを行い、うまくいくこともありますが、その状態が未来永劫続く保障はありません。非常に不安定な状態を法律で規定することによって、未来永劫安定的な状態を作り出すべきです。地域団体の力を借りつつ、法整備を行い、景観保護を進めていくことがいいのではないかと思います。
景観保護のそういったプロセスから地方創世のカギがあるかもしれませんし、ある分野に対する法整備のヒントになるかもしれません。日本の一極集中を解消するために地方創世は必要な課題で、その手掛かりとして自治会や地域団体の高齢化や後継者不在といった課題を解決することが地方創世を成功させる方法なのではないかと思います。民間活用は非常に重要ですが、その枠組みとしての法整備も同時に行う必要があると考えます。


最後に

行政運営の効率化が叫ばれて久しいですが、いまだに非効率な部分は多いと思います。テレワークを要請している行政が全くできていなければ国民に示しは付きませんし、単なる他人事として片付けられてしまいます。結局プレミアムフライデーのように空虚なものになってしまうかもしれません。地方自治も同様に非効率な部分は多いです。役所特有の紙と判子からそう簡単に抜け出せないそうです。行政の効率化はこれからもっと進めていかなければならないでしょうし、こういったときに民間活用を行えばいいのかもしれません。住民自治を自治体が直接行うのではなく、自治会を介して行っているので、他の分野でも応用できると思います。日本特有の自治会という組織を使った自治が行われているのでこういった方法をもう一度考えなすのもいいかもしれません。


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