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何が決め手で彼らは結婚したんだろう。



 休憩時間。カバンからスマホを取り出すと、大量の文章で画面が覆われていた。どうやら大学のときの同級生が結婚したらしい。
 性格のあまり良くない僕は、素直におめでとうとは思えなかった。むしろ鬱陶しく思い、グループラインの通知をオフにした。

 大学を卒業してからの2、3年は結婚ラッシュだった。Twitterでもインスタでも開くたびに誰かが結婚を報告していたような気がする。
 大学時代は暇があれば呟いていたのだが、次第に開かなくなった。幸せそうな写真を見るたびに、自分の居場所がなくなったように感じたからだ。
 そんな僕にも結婚願望はある。子供だって欲しい。だけど、現実味がない。僕が結婚をしている未来なんて想像つかない。


結婚したいなって思ってたんだ
でも思っていただけだったんだ

My Hair is Bad『グッバイ・マイマリー』


 この曲を聞くとあの子のことを思い出してしまう。「結婚したいくらい好き!」と言われたことがあった。もう遠い昔のような気もする。
 僕も彼女と結婚したいって思っていた。だけど、それを実現させるには何が足りなかった。


 この間記事にしたが、プライムビデオでレンタルして『花束みたいな恋をした』を観た。

 48時間内に2回も観た。それくらいこの作品に惹き込まれた。絹と麦が結ばれる未来もあったんじゃないかと勝手に妄想した。
 同棲を始めたタイミングで結婚をしたらうまくいったんじゃないだろうか。お互いの生活リズムが少しずつずれていって、愛が薄れていったとしても子供がいれば乗り越えられたんじゃないだろうか。あんなに趣味が合う2人でも結婚するには何かが足りなかったのだろう。そんなことを考えていた。
 
 職場にはママさんが多い。彼女たちは朝5時に起きて、朝ごはんや弁当を作ったり、子供を幼稚園や保育園に連れて行ったりしてから出勤している。帰宅後も晩ごはんを作ったり、掃除をしたりと多忙を極めている。自分の時間なんて僅かしかない。
 それに比べて、僕は朝ギリギリまで布団の中で過ごしている。仕事後はパチンコしたり、ゴルフの打ちっぱなしに行ったりと自分のためだけに時間を使うことができる。
 働く女性はすごいなと心の底から尊敬している。僕にもいつか奥さんができるのだろうか。その時はその負担を一緒に背負いたい。

 後輩から薦められて、『あなたのことはそれほど』という少女マンガを読んだ。ドラマ化もしている。


 作中に出てくる「2番目に好きな人と結婚したほうがいい」という言葉が胸に引っかかった。あの人は何番目に好きな人と結婚したんだろう。何が決め手で結婚したんだろう。そんなことが気になるようになった。
 
 彼女は当時まだ大学生だった。だから大学を卒業したら結婚したいなと思っていた。
 クリスマス一輪のバラと一緒に指輪をプレゼントしたら彼女は泣いて喜んでくれた。
 寝ている彼女の指に針金を巻き付けて指のサイズを測った。しかし、針金の巻き方が甘く、指輪のサイズが少し大きかった。
 サイズ変更をするのに2ヶ月くらいかかったが、「その完璧じゃないところがいいよね」と笑っていた。
 だけどそれが彼女と過ごした最後のクリスマスだった。あのときは永遠に続くと思っていたが、目的地には辿り着かず途中下車してしまった。

 ラインを開くと、例のグループラインの右端に68と表示されていた。タップすると披露宴で流す動画をどうするか話し合っていた。未だにおめでとうという気持ちになれない僕は退会した。

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