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中国での仕事(何を作るかよりそれを使って何をするか)

最近、ハマっているゴルフを通じて知り合った人がいる。
その人と食事していた時。金融業界に勤めていて、家業を継ぐために辞めて勉強し、国家資格を無事取得して、いまは親から徐々に事業を引き継いでいる最中という話を聞いた。
私も銀行にいたことがあるよ、と言ったら「僕は銀行時代には海外にいたんだよ」、「え!?わたしもだよ!いつ?どこ?」という共通点があり、聞いてみたら、いた時期も場所もほとんど近しくて、思わず当時の海外事業の話でもりあがった。
で、ちょっとそのころの話を書いてみようと思った。

海外事業は本当に面白かった。
日本では、金融庁にがんじがらめにされていてスキーム上できないことが多かったけれど、海外、特にアジアでは金融業界に関してさえ国にまだ細かいルールがないことが多い。
ルールがないから、国としても面白そうなビジネスは一旦走らせて、ダメな部分だけを後付けで規制をかけていくというのが東アジア諸国では主流だった。
日本のように、「できない理由やできることを見つけるためのルール」ではなく、「まずやってみてダメな部分はルール化しよう」がこんなに経済を発展させるのだな、と思った。
だから「フィンテック」みたいな言葉だけが流行ってあーだこーだ理論だけ並べてた日本と違って、新しいオンライン金融ビジネスがまず中国やアジア諸国でスタートアップし、Alipay(アリババ)のようにサービスが一気に広がって巨大企業に成長していったのもこの背景からだと私は思っている。
中国によく行っていた5年ほど前にはすでにPayPayみたいな仕組みはあったし、お昼ご飯もスマホ1つ持って出かけてた。
ただ、もともとニセ札の横行や路面店営業における治安の悪さ(泥棒ね)、紙幣インフラと急速に進んだインフレが整合していないなど(中国の紙幣で一番大きなお札は100元。日本円にして2000円強。つまり、家電など高額なものを買う場合、現金を大量にハンドキャリーしなければいけないし、商店はそれをなんと手で数える。偽札も多いため(だから偽札が横行する)ここは中国にとって大きな課題だったので、私たちもカード普及の余白がないか中国で調査したが、中国人のクレジットカード保有率は本当に当時低かった)を課題視していた中国政府にとって、このオンライン決済はその両方を解決できる有効的な手段であったという点でも、国としてその発展を積極的に後押しした背景でもあったと思う。
でもやっぱり色々問題も出たし(個人情報の取り扱いなどは中国ではほぼルールがなかったから後付けで相当厳しくなったりね)、手軽にお金を使える=悪用されるみたいなことで利用時にそこを押さえるルール(本人認証、署名システム)や与信制度と、それを解決するための技術革新が企業に科され、それらの同時進行でさらにマーケットが拡大しビジネスが巨大化していった、という印象だ。

そういう意味でも日本はガラパゴスだと思う。
日本人は、日本人の脳みそがとても進んでいて、「最先端を掴みに行く国」だと思っているけれど(私もそうだった)それは「製品技術」においての姿勢のみかな?と思う。
世の中の仕組みやルールについては、日本は全く持って考え方は後進国だったし、日本だけの独自のガラパゴスルールもとても多い。
まったくグローバル・スタンダードじゃない。
別にそれ自体が悪いことではないけど。
例えば商標だって気づいたら中国にたくさん取られてしまっているし、技術もそう。技術力は高いのに、それを守るルールが島国気質で、のほほんとしている。ように見える。ルールも自国民に課すルールは厳しいくせに、対外ルールに漏れがあるのが日本の特徴な気がしてる。だからこれが技術流出、つまり資産流出を生んでいる背景だと思う。

例えば日本酒。日本酒の定義ってなに?日本で造酒するから日本酒なの?日本で売ってるから?日本のお米とお水を使うから?じゃ海外で作ってもいいの?どこまでが日本酒をかたっていいの?そんな議論もせずに海外に輸出したから、一気に模倣されコピーが作られ商標がとられ、日本の良いものを奪われていく。

日本酒というのは、島国の中だけで限られた季節に消費されてきたお酒で、そもそも大陸のように長期流通・保存を目的・前提としたワインとは醸造方法が違う。
アウトバウンドで販売できるモノではそもそもないから、海外に売り出すインフラが整っていない。それは物流上では鮮度を保って流通させることが技術的にできるようになっても、「ルール」という部分の想像が働かないのだ。あくまで、島国ルールという自分たちの定義の上でしかビジネス展開上での想像ができない。
結果、越乃寒梅やら八海山やらという名前は今や中国では使えない。国際商標を中国に取られてしまっているから。使うなら買い戻すしかない。
空瓶が売られている。ここにコピー酒を入れて販売されてしまっている。海外で日本のリソースベースでビジネスをするとはそういうことになる。結果ブランドは棄損される。そもそもブランドも取られてしまっているけれど。
結果、流通管理を整えようとすると間にヒトがたくさん入る。卸とか管理仲介とか版元とか販売とか。一つ入るごとに本来のお酒の金額が大幅に上がって販売される。これは作った当人の日本のメーカーの利益が上がるわけじゃない。
と、いうようなことを日本酒に限らず、海外でたくさん知った。
日本製品もそう。高品質な日本製品を買う?買うくらいなら自分で作ってしまえ。技術を学ぶ?いやいや、会社ごと、人ごと買っちゃえばいいじゃん。が、海外のスタンダード。日本製品のアウトバウンドをもくろんでいたはずが人材流出してて技術はすっかり他国企業のものになっているなんて普通になってしまっている。

っていう海外事業はとても面白かった。
もちろん私の仕事は日本酒でも製品でもなく金融の仕事だったから、金融の仕組みも作った。
「与信」というのは金融業界ではお金を貸す重要な個人指標であり、日本においてはそれは「就職先」であったり「職種」「貯蓄」「給与」であったりする。ここがまず個人の信用のベースとなり、そこにβ値として借入経験や借金などの指標が付加されて個人の与信となる(つまりいくら貸せるか)これは企業も同じ。日本は「実績と経験」を見る。だからレバレッジが大きい方がリスク高、という考え方になってしまうから日本人は自己投資に対して非常に慎重だ。(企業の設備投資もしかり)
でもこの与信基準は日本独自の考えかた。
アメリカを含め金融先進国のヨーロッパ諸国、そして中国においては、この与信基準は少し理解しがたい。日本とは異なり、人口も多いし人種も仕事も多種多様で様々だから平均値が取れない大国にとって、単一民族で限られた国土の中で生きている日本の与信基準とは違って当たり前なんだけど。
海外の与信は、「この人はなにに投資するのか」の行動を見る。
もちろん返済能力は見なければいけないから、日本と同じく職業や収入、実績や経験も見るけれども、融資基準はもっとアグレッシブだ。

中国もアメリカも与信は「スコア」ではかる。
ちょっと前に日本でもスコアリング与信が出てきたような気がするけれども、なんだかあまり定着しているイメージはないな。
日本人も日本の信用情報センターに問い合わせれば自分の与信点数を知ることができる。でも米国や中国のスコアリング与信とは、常に自分自身でそのスコアを認識して行動しているということが大きく違う。
すごーくわかりやすく言うと、スコアが良ければ日々良いことが起きる、というようなもの。
例えばホテルに泊まった時に「アップグレードしておきました」っていうアレ。あれは誰にでも平等にやってくるものではないですよね。
OTA(一休とか楽天とか)の利用実績からスコアリングでグレードが設定されていて、このグレードのこういう人にはアップグレードする、みたいな基準があるわけです。
金融の与信スコアリングも同じ。良いスコアを取ればいいことがあるから、みんな行動には気を付ける。ローンの返済もしっかりやる。スマホ料金などの延滞もしない。お金の使い方も気を付けるし、日々の行動、仕事もしっかり頑張る。そういう行動が個々の信用に繋がりスコアという形で反映されて、個人の与信となっていく。
中国はこれで治安もだいぶ良くなった、と聞いたことがある。
なにごとも何を作るかではなく、どう使うか、なんだと思う。

4年前に転職して金融業界&海外を離れてしまったので、今はどうなっているのかな?
久々にまた当時のメンバーと会って、今の中国ビジネスの状況など聞いてみたいな、と思った今日このごろ。

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