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【経営者・人事向け】心理学的経営を読んでみて 後編

この記事では、大沢武志著の「心理学的経営」という本のまとめと経営者ではなく人事目線で読んだ感想を記載します。

結論からいうと、この本は経営者は勿論、社内での人材活用・適材適所を担う人事担当者にこそぜひ読んでもらいたい内容でした。まずは、各章ごとに簡単な要約をお見せし、そのあと各章毎に感じた事を記載していきます。
(長くなったので前後編に分割しました。この記事は後編となります。1−3章については前編をご覧ください。)

【4章:リーダーシップと管理能力】

この章ではリーダーシップとマネージャーシップを分けたうえで、リーダーシップはパーソナリティ特性(性格等)と相関関係がないという主張から始まる。性格ではないのであれば、どういう能力が管理職に求められるのか。筆者自身の実証的研究から、リーダーシップには4つの機能(要望性・共感性・通意性・信頼性)が求められると結論付けている。詳細は割愛するが、要望性は管理職として、メンバーに何を求めるかをちゃんと伝える事ができるか。共感性はメンバーをどれだけ理解して信頼できるか。通意性は業務進行上、必要不可欠な情報を伝える事ができるか。信頼性は部下から見た時に能力的・人間的に信任に値するかどうか。をそれぞれ示している。

この章は非常に現在の自分の立ち位置を考えさせられた。自分は最近チーフという立場になり、いわゆるリーダーとしての立場にいるのだが、信頼性が欠けているように感じた。これは自分だけ、というより初めてリーダーという立場に立った人間の多くが感じるかもしれない事だが、リーダーになったからといって信頼が急に蓄積される訳ではないからだと思った。リーダーとなり、戸惑いながらも実績を重ね、それを持ってメンバーからの信頼を積み上げていかなければリーダーとして機能しないのだろうと改めて認識した。

【5章:適性と人事】

欧米では職務適性(職務要件に応じて能力の有無で判断)、日本では社員適性(人柄をトータルで判断)に基づいた人の採用を行う。つまり、まず人柄を先に置いて、チーム内でパフォーマンスを発揮できる仕事を与えて能力が後からついてくるという考えで採用が行われます。(大企業での総合職などがその一例)筆者はこれが悪であると指摘しておらず、社員適性で採用をするとしても、”どの業務に就くにしても、基本的に求められる知的適応能力”があると主張しています。その知的能力とは、
1.新しい知識を学習し、応用する能力
2.複雑な事態から問題を分析・把握し判断する能力
3.論理的に推理・洞察する能力
であり、職務分掌規定が柔軟だからこそ重要であると述べています。
さらに筆者は企業の求める人物像についても触れており、筆者自身がおこなった追跡研究の例(入社時実施のSPI試験を、入社後も定期的に実施し、その結果と人事評価の相関を調査)から"基礎能力"がどの部門においても重要とされ、更に部門ごとに適性とされる性格に差異があると主張しています。

自分が採用で主に関わっている研究組織ではその専門性の高さから、この章で言う所の職務適性に基づいた採用が出来ているように思う。一方でグループ会社全体でどうかと考えた時には面接のウェイトは非常に高い事やそのFBからも社員適性を重視していると判断できる。
また、この章の最後で新卒採用において"タイプ別採用"という手法の結果について言及しており、これは就活生がSPIテストを受ける際にペルソナを被る事を上手くスルーできると思われたので、非常に示唆に飛んでいた。
たとえば、タイプ別採用を実施している事を明記した上で、SPI試験の案内を送付する事で、全員がいわゆる模範的回答をして個性が埋没する事を防ぐことができるのではないだろうか。

【6章:個性化を求めて】

この章では個性化を企業経営の中に理解せず持ち込む事は危険と前置きをした上で、個性化とは何かについて紐解いていきます。
はじめに個性の分類についてです。個性分類ではまずユングの性格タイプ論について説明しています。ユングは感覚・直感・思考・感情の4つの心理的機能による分類が可能である事に触れ、そこに内向的・外向的というエネルギーの方向性分類を加えて8つの個性に分類できると主張しています。
(外向的感覚型、内向的感覚型、外向的直感型…(割愛)…内向的感情型)
筆者もこのユングの性格タイプ論について同意した上で、これらの心理的機能の中にはそれぞれ得意・不得意が存在し、それぞれを支配的機能補助的機能と呼んでいる。(ここで補助的という文言を使用している事に注意。概ね支配的機能が軸となる一方で相対的に不得意とされる補助的機能が支配的機能の穴を補っているのである。)
また、4つの心理的機能は問題解決のプロセスにおいても当てはめる事ができ、感覚→直感→思考→感情の順で人々は問題解決を試みている。この時に不得意とされる機能についてはあまり時間をかけない事が多く、それが適性へと繋がっていく。どの個性分類が管理者に適しているか、という考え方は無いとする一方で筆者は過去の研究から”管理職にはあるタイプが多い傾向がある”点を指摘しており、そのタイプとは外向的感覚or思考型であった。それがポジションによる後天的なものかについてまで言及はされていない。
最後に筆者は、適応によって本来の個性タイプに蓋をし、外向的感覚or思考型の仮面を被ってしまった中年世代への危惧について触れたうえで、個性の自己開示の重要性について問を投げかけて文章を締めくくっている。

この章では、ユングとマイヤーズによる個性分類の話が非常に大部分をしめていた。今回のまとめの中ではあえてマイヤーズのMBTIについては書かずに、そのベースとなったユングの性格タイプ論をベースに著者の主張をまとめたが、気になる方はMBTIについて調べてみても良いかもしれない。
自分自身はISTPと呼ばれる分類が自分に最適と考えていて、チームメンバーがそれぞれどのタイプに属していると感じているかを知る事は、今後チームを運営していく上で重要な鍵になると思った。
この章に限った話ではないのだが、この本の中でいくつもの実証的研究の事例が出され、そこから導出される結果が近代に至るまででどう変遷し、現在の日本ではどう受け入れられているについて述べてくれるので非常に理解がしやすい一冊だった。これから人事・経営に携わる方は、この自粛の間に読んでみても良いかもしれない。
このまとめがそういった人たちの契機になれば幸いです。ここまでお読み頂きましてありがとうございました。

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