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【取材記事】日本初・自治体導入を実現。環境に配慮したダイビング・シュノーケリングの国際基準「グリーン・フィンズ」でオーシャンリゾートと環境保存の両立を目指す

沖縄本島の中央部に位置し、豊かなサンゴが広がる恩納村は、ダイビングエリアとしても人気のリゾート地です。2018年には、「サンゴの村宣言」を行い、地球環境に配慮した地域づくりを実施。2019年には内閣府より「SDGs未来都市」に選定され、サンゴ礁を育む豊かな海を守るための持続可能な取り組みを行っています。なかでも注目されるのが、サンゴ礁の保全を目的とする国際的なガイドライン「Green Fins(以下グリーン・フィンズ)」の導入です。今回は恩納村SDGs推進事務局の積田彗加様に、グリーン・フィンズ導入の経緯や具体的な取り組み内容について伺いました。

お話を伺った方

積田彗加(つみたすいか)様
神奈川県出身。早稲田大学卒業。新卒でIT企業に入社するものの、ダイビング好きが高じ、ダイビングの楽しみ方を広げたいという思いで海とダイビングのウェブメディア「ocean+α」に2018年に転職。2020年から恩納村役場に地域活性化企業人として出向し、Green Finsの導入推進を行う。


サンゴ礁の保護と保全を目的とする「グリーン・フィンズ」。環境に配慮しながら海を楽しむための国際的ガイドラインとは?

mySDG編集部:そもそも「グリーン・フィンズ」がどのような取り組みであるのか、教えてください。

積田さん:グリーン・フィンズは、UNEP(国連環境計画)とイギリスのReef World(リーフワールド)財団によるサンゴ礁保全の取り組みです。
サンゴ礁を守りながら、ダイビングやシュノーケリングを楽しむための具体的なガイドラインを作成し、さらにダイビングショップを対象にそれらの取り組みを評価・認定しています。簡単に言えば、グリーン・フィンズの取り組みを事業者が導入し、持続可能な海と観光産業を守っていきましょうという内容です。グリーン・フィンズの環境基準は、海で環境を大切にしながら「遊ぶ」ためにあるんです。

恩納村は、ダイビングショップやダイビングをする時に船を出してくれる漁協の方々、恩納村マリンレジャー協会などに、グリーン・フィンズの取り組みにご協力いただけるようお願いをしてきました。導入することで、環境保全への取り組みをアピールすることにもなり、例えばダイビングショップの場合ならお客様にショップを選んでいただくきっかけにもつながります。現在、認定店は6店舗あり、他17店舗がグリーン・フィンズのガイドラインを導入し、メンバーになる申し込みをいただいており、これから認定をしていく予定です。

mySDG編集部:ちなみにマリンレジャー目的のお客様が村外からいらした場合にはどのように周知していくのでしょうか?

積田さん:恩納村のダイビングショップを利用する場合は、行動規範とその理由について、スタッフから説明を受けていただきます。例えば「サンゴは触らないようにしましょう」「魚に餌付けをしません」といった注意事項です。これらグリーン・フィンズのガイドラインを遵守いただくことで、”サンゴを守る”ことができ、お客様にも”環境保全の意識”を持っていただくことにつながります。

ダイビングショップを利用しない場合も、できるだけ周知をしていきたいと思っています。道の駅や万座毛周辺活性化施設にポスターを貼らせていただき、観光客の目に触れるようにしています。

【動画】2分でわかる海のこと:青い海を守るための「Green Fins」


「SDGs未来都市」にも選定された恩納村。「豊かな自然あふれる社会」と「サステナブルツーリズム」の両軸を目指してグリーン・フィンズを導入

mySDG編集部:グリーン・フィンズの導入経緯について教えてください。

積田さん:2020年に本格的に導入しました。きっかけとしては、恩納村は2018年に「サンゴの村宣言」で、「世界一サンゴにやさしい村」づくりを宣言をしました。翌年には「SDGs未来都市」に選ばれ、どちらも持続可能な村づくりをしていくことが目的でした。具体的な環境アクションとして出たのがグリーン・フィンズの取り組みでした。

恩納村の観光資源のひとつにサンゴ礁があります。恩納村は年間約300万人の観光客が訪れるリゾート地です。ダイビングエリアとしても人気が高く、そのぶん海に負荷がかかっています。そのため、美しい海とサンゴ礁を守るための環境保全策の一環として、ダイビング・シュノーケリングの国際的なガイドラインであるグリーン・フィンズの導入を決めました。

【動画】日本でのグリーン・フィンズの取り組み - 恩納村での環境に優しいダイビング

mySDG編集部:グリーン・フィンズ導入を通して、環境分野だけではなく、経済分野の「サステナブルツーリズムの実現」を掲げていますが、どういった狙いがあるのでしょうか?

積田さん:恩納村のみならず沖縄本土の課題としてあるのが、客数が多くても、客単価が上がらないということです。この件に関して付加価値をつけていくには長期滞在をする観光客を誘致したいと考えています。そのためにも、「環境に配慮したレジャー」という付加価値をつけたいという背景があります。グリーン・フィンズは、国際基準のガイドラインであるため、海外のお客様からも選ばれる基準になると思います。

mySDG編集部:ダイビングの価格は地域や海の豊かさなどで決まるのでしょうか?

積田さん:価格はショップ次第です。一つのエリアにお客様が集中すると事業者も増えるため、結果として価格競争に陥っているような場所も、恩納村には存在します。現在は「安い」ことが価値になってしまっているので、安さではない別の価値を見出さなければならないと感じています。

特に富裕層のお客様は、サービスや商品を選ぶ基準の一つとして「環境への配慮」も重んじる傾向にあります。環境に配慮しながら、サービスを提供することは恩納村の観光価値にもなると思い、グリーン・フィンズを導入し、恩納村の海を楽しんでいただこうと考えました。


コロナ禍でグリーン・フィンズ認定が停滞。導入後も強制ではないルールにさまざまな意見も

mySDG編集部:恩納村内の事業者には、グリーン・フィンズの取り組みをどのように促進されたのでしょうか?

積田さん:SDGsの取り組みの一つとして、ホテル事業者や漁業関係者などに説明会を行いました。多くの方々にわかりやすく伝えるために、動画も制作しました。特にダイビングショップさん向けに定期的に勉強会を行いました。認定ショップをいち早く増やしたかったのですが、「アセサー」と呼ばれる認定人を育てるところから始めなければなりませんでした。アセサー育成のためには、海外からトレーナーを呼んでトレーニングを実施する必要があるのですが、コロナの影響で2020年〜2022年までアセサーのトレーニングが滞る時期がありました。認定自体は2022年5月にやっと始められた状況です。

mySDG編集部:グリーン・フィンズ導入にあたり、難しさを感じた場面はありましたか?

積田さん:一番はコロナの影響で、認定が停滞してしまったことでしたね。それ以外の課題としては、グリーン・フィンズは法律が定めるものではなく、強制ではないので、なかには考えに共感していただけない事業者さんもおられます。環境基準を守っている事業者さんと、そうでない事業者さんがいる中で、周りからも「このショップは守っているのに、あのショップは守っていない」と、疑問を寄せられることもありますね。

mySDG編集部:グリーン・フィンズのガイドラインを守りたくないのはなぜなのでしょう?

積田さん:一例としては、餌付けをしたいからという理由があります。ダイビングツアーのサービスとして、魚に餌付けをすることを売りにしている事業者さんがいます。餌付けをやめてお客様が減ってしまうことを懸念して、取り組みに賛同いただけないケースもあります。

mySDG編集部:なるほど。ダイビング未経験者として、餌付けがNG行動だという認識はまったくありませんでした。

積田さん:本来なら、ダイビングを案内するスタッフから餌付けによって悪影響が生じることをお客様に伝えなければならないはずなんです。逆にサービスとして売りにしてしまっている状況が少なからずあるようです。

mySDG編集部:ちなみにガイドラインではグローブの着用を禁止していますが、グローブはなぜダメなのですか?

積田さん:グローブをしていると、安心して海の中にある植物や生物をあれこれ触ってしまうからです。基本的に海中の生き物や植物は触らないでいただきたいです。触れることで、生き物や植物を傷つけてしまいますし、自分が怪我をしてしまう恐れがあります。

mySDG編集部:特にダイビング初心者は海の知識がないので、ダイビングの技術はもちろんですが、環境に関するルールについてもショップの方に教わることが一般的なのですか?

積田さん:一般的にライセンスと呼ばれている資格を取得する場合、プログラムの中に環境に関する知識やルールも組み込まれていますが、どれだけ重点的に伝えるかはやはりショップによるところはあるかもしれません。体験ダイビングの場合でも、ショップスタッフから海にまつわる基本知識を教えてもらえます。しかし、短い時間の中で教えなければならないため、環境に配慮したルールを教えることはショップによるようです。やはり技術的な部分や安全面が中心になりますね。


日本と海外のダイビング環境マナーの違いは、「捉え方」の違い?

mySDG編集部:積田さんは海外のさまざまな場所でダイビングを経験されていらっしゃるようですが、日本と海外の意識の違いはありますか?

積田さん:一概には言えませんが、違いはあると思います。私がダイビング初心者だった当時、フィリピンでダイビングをするときに初めて「グローブをしないでね」と言われました。「サンゴの保護区だから入ってはいけない」など、はっきりとした口調で言われたことも覚えています。

メキシコのダイブクルーズでは、海に害がない備え付けのシャンプーを使用するように言われました。それぞれ、私は環境に対する配慮や何をしたらよいかを知らなかったので、教えてくれたことに対して、とてもありがたいと思いました。

ある海外の日系ダイビングショップでは、「日本のお客様に、サンゴを守るために触らないようにといくら教えても、そのあと日本で潜ると、また触ってしまうなどマナーが悪くなって戻ってくる」なんてことも話していましたね(笑)。

mySDG編集部:日本ではお客様に制限をかけることをあまりしない印象ですよね。なぜ、海外では、お客様にはっきりと禁止事項などを伝えられるのでしょうか?

積田さん:個人的に感じているのは、海外のショップでは環境を守るために、そのエリアやショップが何をしているか、またゲストである私たちが何をしたらよいのかを”教えてくれる”というイメージがあります。一方、日本では、例えば「環境を守るために生き物を触らないで」と伝えることを、”教える” というよりお客様に "我慢させる” と捉えてしまい、なかなか伝えづらく感じている事業者も多いのではないかなと思います。

それは、日本のホスピタリティの高さというか、お客様の意思を優先しすぎるような文化が背景にあるかもしれません。くわえて、日本人は良くも悪くも自然を身近なものとして捉える傾向があるのも一因かもしれません。その感覚で海中でも、気にせず生き物や植物を触ってしまい、意図せずして自然環境を傷付けてしまうことがあります。

mySDG編集部:確かに、幼少の頃から「危ない」からさわるな。とは言われましたが、「環境を壊す」からさわるなとは、言われたことがないかもしれません。私も触ることで環境を壊すなどとは、言われて初めて気が付くかもしれません。
日本のダイビング業界では、環境に関する取り組みは進んでいるのですか?

積田さん:そうですね。日本でしっかり取り組みがなされていることもたくさんあります。例えば、ダイビング中に船を固定するアンカー(いかり)はサンゴの上に落とすとサンゴをひどく傷つけてしまうので、代わりに固定ブイを使おうとか、ダイビング器材や船を洗う際に洗剤を使用しないとか。こういった取り組みは当たり前に守られています。むしろこれはお客様にその場でもっと伝えていくと良いと思います。
さらに最近では、海中でごみを拾う用のメッシュバッグを持つダイバーが増えてきたり、伊豆を中心にダイビングポイントの入口に拾ってきたごみを捨てる用のごみ箱が設置されていたり、日本のダイバーの環境意識は高くなってきたと感じています。

mySDG編集部:意識の向上や、実際に行動に移せているのはとても良いことですね。 最後に今後の展望を教えて下さい。

積田さん:まずは恩納村にある認定店を増やし、さらに沖縄県全体での取り組みを目指しています。もっと言うと日本全国の取り組みとして広めていければと考えています。

基本的に他国では、グリーン・フィンズは国主導で行われています。日本でいう環境省のようなところが主体となって動いています。日本でも行政の協力は不可欠ですので、恩納村から沖縄県へ、そして国へと、行政とともにグリーン・フィンズ導入に取り組んでいきたいです。

mySDG編集部:貴重なサンゴを守るためにも、日本のあらゆる場所で取り組みが広まることを期待しています。積田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!


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