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【取材記事】サステナビリティをブームで終わらせない!企業の未来を見据えた伴走者として持続可能な社会経済を築く

今日、経営や教育でもSDGs(持続可能な開発目標)の17のゴール達成に向けた取り組みが浸透しています。一方、サステナビリティ人材が少なく、SDGsの取り組み自体が持続可能ではない、単なるブームになってしまうという懸念点が挙げられています。今回のインタビューでは、サステナブルファイナンスの研究開発と、その社会実装事業を展開する株式会社Scrumy(スクラミー)代表取締役の笹埜健斗さんに、持続可能な企業経営の真髄についてお話を伺いました。

【お話を伺った方】

株式会社Scrumy代表取締役 笹埜 健斗(ささの・けんと)さん
サステナビリティ学者(慶應義塾大学SFC研究所所員、一般社団法人サステナビリティ総合研究所所長)、SDGs社会起業家(株式会社Scrumy代表取締役)。高校時代に生死の境を彷徨い、哲学に目覚める。国際哲学オリンピック出場、京都大学法学部、東京大学大学院情報学環・学際情報学府を経て、各業界の最高サステナビリティ責任者(CSO: Chief Sustainability Officer)やSDGs戦略顧問を歴任。現在、SDGs(持続可能な開発目標)を経営や教育に応用するための「サステナビリティ学」の第一人者として、持続可能な社会の実現に向けた共同研究やChatGPTを活用したプロンプトエンジニアリングなどの技術開発をリードする。主な単著論文に「持続可能なIoMTセキュリティに向けた法政策―サステイナビリティ学の視座からの政策提言―」など。


■高校時代のターニングポイントが起業する原点だった

mySDG編集部:御社を立ち上げたきっかけと、どのような思いで取り組んでいらっしゃるかをお聞かせください。

笹埜さん:高校時代に生死の境をさまよい、生き続けることについて徹底的に深く考えることによって、立ち直りました。ここが大きなターニングポイントになっています。その後、日本代表として、オーストリアのウィーンで開催された国際哲学オリンピックに出場し、世界中の人たちと「僕たち若者は、これからどういう未来を一緒に作っていけるだろうか」ということを話しました。それ以来、期待や不安が入り混じった未来への想いを胸に、「なぜ世界はこの在りようなのか」というたった一つの問いと向き合ってきました。眠れない日もありました。特に社会の見えない構造を可視化したり言語化したりすることに興味があったので、特定の社会現象の背景にはどんな暗黙の了解や政治があるのかを好んで考えてきました。

私は「受け継がれること」と「廃れてしまうこと」の違いにも関心があります。その中で本当に大切なものは、可視化や言語化を避けながら、言い方を変えれば、可視化や言語化を避けたからこそ、脈々と受け継がれてきているのだと理解したのです。とはいえ、それはもう私の悪い癖ですので、どうしてもそれらを可視化したり言語化したりしてみたいと思ってしまい、今に至ります。「持続可能であること」は、単に身近なテーマだけではなく、地球レベル、社会レベル、経済レベル、個人レベルで、広く一般にも通用するような概念だと思います。

これまでのがむしゃらな活動から、ありがたいことに「サステナビリティ学」の第一人者と紹介されることが増えましたが、これらの活動を通して気づいたことがあります。それはサステナビリティ(持続可能性)の本質を研究するのも大事だけれど、さらにそれを社会実装していかなければ、単なるきれいごとで終わってしまうということです。私たちは、ファイナンスと経済の世界に展開する「サステナブルファイナンス(サステナブル金融)」や「サステナブルマネジメント(サステナブル経営)」の領域を確立することで、持続可能な社会の実現に貢献することを考えています。そのために、教育機関様や地方自治体様に向けた研究成果のアウトリーチとして非営利型の一般社団法人を設立したり、企業様に向けたアウトリーチとして株式会社Scrumyを創業したりしました。

mySDG編集部:日本最大級のアクセラレーションプログラム未来X 2023において「三井住友銀行賞」を受賞されていますが、第三者の方たちからどのような点で評価されたと思いますか? 笹埜さんご自身の見解で構いませんので、教えていただいてもよろしいでしょうか?

笹埜さん:まず、メンバーが素晴らしいという点で評価していただきました。それぞれのメンバーが、環境科学、データサイエンス、人権、ソーシャルワーキング、ウェルビーイング、医療、ガバナンス、コンプライアンス、マネジメント、法制度、ファイナンスといったESGやSDGsを極めているのです。受賞できたのは、私一人の力ではありません。メンバーのおかげです。スタートアップの場合、資金がありません。そうした状況の中で仲間が集まった点を審査員の方たちに非常に高く評価していただきました。私自身、それがすごく自信につながっています。

あとは、研究開発力と業界特化型データベースの大きさです。やはりESGとSDGsをマーケットに落とし込んで、社会に埋め込むことを当たり前のような状態にしなければなりません。特にファイナンスに落とし込んでいくときは、経験がなければ参入できない領域です。一度マーケットを作れば、無限の可能性がある点でも高く評価していただきました。

■SDGs経営に潜む3つの「難所」から「令和の戦国時代」と表現

mySDG編集部:SDGs経営を「令和の戦国時代」といったキャッチフレーズにしていますが、そのエピソードを教えてください。

笹埜さん:私はSDGs経営をする上で避けて通れない障壁を、「乗り遅れの川」「継続コストの谷」「ウォッシュ規制の海」という3つの難所として整理しています。企業の運命が、3つの難所を乗り越えられるどうかで大きく左右される点が、業界内での「下剋上」につながる「戦国時代」なのです。

SDGs経営に向けた旅立ちと同時に直面する1つ目の難所が、「乗り遅れの川」です。この川は非常に厄介で、渡り遅れてしまうと2度と渡ることのできない川です。日本の企業の株式時価総額比は、アメリカに次いで2位です。世界の投資残高が伸びていますし、日本も世界には負けていません。日本の企業は正しく情報をもっと開示することで、必ずや海外の投資家に注目してもらえます。しかし、そこを間違えてしまうと、ずっとくすぶったままです。これは日本の国益をも左右しかねない大問題であり、どうすれば日本の企業の魅力を海外にもっとアピールできるのかということを常に考えている私は、やはり絶対に乗り遅れるわけにはいかないと思います。

2つ目は、「継続コストの谷」です。色々なコンサルティングの企業様がいらっしゃるので、そこに頼んできれいなものを仕上げる企業様も増えています。ただ、企業のサステナビリティ担当者は、常に忙しく、毎月何らかのスケジュールが重たく詰まっている状態です。サステナビリティ業務は部署をまたぐようなデータを必要としており、情報収集に苦労しています。しかも、最近では国際的な開示基準の標準化が進んでいますので、目が離せません。色々なことを勉強する必要があるのがサステナビリティ業務であり、いかに効率的に回していくのかというのが「継続コストの谷」の落とし穴です。

3つ目は、「ウォッシュ規制の海」です。「乗り遅れの川」と「継続コストの谷」を乗り越えてきたにもかかわらず、イギリスやドイツ、フランス、シンガポール、そしてアメリカも「ウォッシュ規制(=表向きの場でサステナブルな取り組みを装っていることに対する規制)」が加速しており、日本でもサステナビリティ情報に対する保証制度の検討が始まりました。さらに、2022年に金融庁が調査した情報によりますと、国内において「ESGファンド」「グリーンファンド」と銘打っておきながら、専属の専門家がいない機関投資家は約4割にも上りました。機関投資家も含めて日本全体でしっかり取り組まなければならない状況です。

ESGやSDGsは「ブーム」だと言われることも多いですが、それが落ち着いたとき、真のSDGs経営とは何かが見えてきます。それはすなわち、正しく乗り越えられていた人たちと、途中で落とし穴にはまっていった人たちがあぶり出されるということです。現時点で業界の一番手であったとしても余裕を持ち続けることは望ましくなく、業界の二番手・三番手であっても、SDGs経営の3つの難所を乗り超えていくことによって、組織として十分に上がれることも踏まえ、「戦国時代」として表現させていただきました。

■「SDGs白熱教室」を通して、サステナビリティの専門人材を増やしたい

笹埜さん:「SDGs白熱教室」は、サステナビリティ学という領域が国際的な政治経済動向が複雑な絡み合いを対象とすることから、研究すればするほど、すぐにでも共有したくてうずうずしてしまう面白い発見が毎日あります。そこで、サステナビリティ学の楽しさを体系的に共有できる場を作ってみたいという想いから、私が毎日約2時間、内部向けに解説動画を撮り続けた奇行(昨年度実績:365日中350日開催)として始まりました。当社の事業開発メンバーが中心となって運営しており、最新の社会動向から歴史的背景まで楽しく学べるプログラムとして驚くスピードで拡大しています。

最近の受講者の方々は、サステナビリティ業務に関わっている管理職と役員、これから企業のサステナビリティ責任者になられる方、CHOやCFOの方でサステナビリティ人材を育成したい方、自分自身がサステナビリティ人材になることを希望している方が中心です。さらに一般的な従業員の方や現場の従業員の方もSDGs白熱教室に興味を持ってくださっています。実際にワークショップなどを通して、具体的に自分たちの会社に理論を落とし込む方法を自分目線での認識と組織目線での認識をスパイラルのように転換していきます。ダイナミックな認知の変換まで意識した構成にしており、とても人気です。

笹埜さん:ESGの頭文字、例えばEの「Environment」、Sの「Social」、Gの「Governance」といった、それぞれのサービスが登場しています。それをアカデミアの観点から統合していくようなレポート——Integrated Reportをいかに出していくかといった経済との両立を考えていく時期に入っているのではないかと思います。当社は創業当初から、それぞれの分野で活躍されている人たちとのエンゲージメントを大切にしています。これからもっと加速していく必要があるので、サステナビリティ業界のプラットフォーマーになろうと思います。

また、サステナビリティの本質を追い求めていく中で、きれいごとで終わらせたくない、ブームで終わらせたくないという気持ちを持ち続けています。国家も企業も新時代におけるSDGs経営やESG投資について正しく理解するだけでなく、サステナブルガバナンスを考える必要があります。そのためにまず着手すべきは「サステナビリティ人材」、すなわちサステナビリティ領域における専門人材の育成です。やはり組織を動かすのは人ですので、サステナビリティ人材をどう育てるか、どう増やすかという課題が、私たちの次なるチャレンジです。このチャレンジは、皆さまと一緒にサステナビリティ人材として求められるスキルの定義や効果的な教育プログラムを考えていきたいです。先進的な好事例を集め、ベストプラクティスを分析することによって、皆さまと侃々諤々(かんかんがくがく)お話しながら進めていきたいと思っています。

私たちは、外部からサステナビリティ業界にエールを送り続けるだけの存在ではなく、「サステナビリティ学界のマイケル・サンデル教授」のような存在を目指して、これからも頑張っていきます。

株式会社Scrumy公式ホームページ


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