<ショート版>発表、俺の芥川賞
もっとも優れた文学が決まるまであと1日
明日19日に芥川賞が発表されます。
今回も候補作を全部読んで、一番好きな作品を受賞予想作を発表してきます。
(昨日投稿した版を短くまとめたショート版です)
千葉雅也さんの「エレクリック」が一番エモくて一番好きなのでこれが受賞作。
このエレクリックが単独受賞と予想ですが、もしダブル受賞となればそれは児玉雨子さんの「##NAME##」。そして3番手は乗代祐介さんの「それは誠」です。
この3冊を簡単に振り返ってみます。
受賞予想作「エレクリック」
今回の受賞作はこの1冊。悩むことなく、これを読んだ時点でこれと確信した。
みんながわかること、いったいそれの何が面白い?マウンティングがものすごい一冊。明確な答えを与えてくれない難しい小説だけど、一周廻ってシンプルに考えてみるとエモいことに気づく。これぞまさに純文学という1冊。
・舞台は1995年、本格的にインターネットが登場した年
・主人公達也は高校二年、身体と心に変化が起きて、性に目覚める
・達也はネットを通じてゲイコミュニティに恐る恐る接触を図っていく。
その二人だけがわかる世界とコミュニケーション。みんながわかることが重視される現代でこの世界はとても贅沢だ。
世界観とそれを成立させている構造の凄さがひとつ抜けている。
「##NAME##」
パワーをあまり感じないとても今っぽい1冊。ハンチバックとは正反対の作品。こういう作風のが好み。
主人公せつなは小学生の頃にジュニアアイドルをしていた。アイスキャンディを舐めながらカメラに向かって笑顔を見せる。そのことの意味を後から知ってももうどうしようもない。
・10年後にそれがデジタルタトゥーのようにのしかかってくる。
・いつも前に立ちふさがっているアイツ、知った顔で後から寄ってくるアイツ、まとまじゃない傷付き方は教えてくれないアイツ、いろんなアイツが出てくる
・現代のダリィ感、めんどくせぇ感にリアリティがある。
主人公から感じるダリィ感がとても今っぽい、オシャレ。世界観と技量でエレクトリックには及ばず。
「それは誠」
とても面白い1冊。読んでいる間、ワクワクして次の展開が気になる1冊。
主人公誠は高校の修学旅行でなぜかおじさんに会いに行こうとする。主人公が、旅行が終わってからその旅行を振り返りながらパソコンにテキストで入力していく内容。リアルタイムの場で起きる口頭でのコミュニケーションと、後から書き言葉でゆっくり綴る物語のギャップがいい文学的なテーマとなっている。
・ひとりでいく、ついていこなくていい、という誠に対し、なぜか同じグループの同級生がついてくる
・人生も、人間関係も思ったとおりにはいかない。偶然の連鎖の結果。
・「ライ麦畑でつかまえて」と「スタンド・バイ・ミー」のような作品。
読み手を無条件に楽しませる小説。故に芥川賞っぽくないという理由で受賞しないと予想。人を楽しませる力量は抜けている。
何がどう書かれているか < 書かれていることをどうとらえるか?
読んだその小説に何が、どう書かれているか?それよりも、書かれていることを読んで、読み手である自分がそれをどうとらえたか。芥川賞、純文学ではそっちの方が重要で面白い。
そしてそれをどう自分で言葉にするか?
それによって起こる時間差のある非同期コミュニケーション、それが純文学という営み。
エレクトリックは、読んだ後にこれが一番好き、これが芥川賞と確信したものの、それを言葉に全くできず、何度も読み返す。
その結果、これって登場人物がただイチャイチャしているだけ、というシンプルなことでは?と、世の中にあるもの、考え方やルールはそのためにある?、とてもエモくなった。純文学的な読書体験を味わえた。
それは誠にも、書き言葉による時間差のある非同期コミュニケーションの醍醐味を楽しめる1冊。でもそれよりも読み手を無条件に楽しませてしまうエンタメ要素が目立ったためエレクリックには及ばず。作り手のテクニックが純文学的なところを殺してしまっている。
##NAME##は、現代を過ごしている私たちがなんとなく感じていること、言葉にはできないないけど確実に感じているものを、言葉に物語に落とし込んでいる。そのひとつが、自分ではどうしようもなかったことに対して、周りがいろいろと言ってくる、ダリィ、めんどくせぇなってところ。
ただ構成や小説をつくるという点ではエレクリックやそれは誠には及ばず、パワーがある小説ではいないためそれが特に目立ってしまう。
以上、第169回芥川賞の予想でした。次は半年後の170回です。これも楽しでいきます。
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AIを使えばクリエイターになれる。 AIを使って、クリエイティブができる、小説が書ける時代の文芸誌をつくっていきたい。noteで小説を書いたり、読んだりしながら、つくり手によるつくり手のための文芸誌「ヴォト(VUOTO)」の創刊を目指しています。