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創作#19-1 小さな港町で朝食を<前編>

旅行先で食べる特別な朝ごはん。

それは朝ごはんそのものが特別なのでなく、旅先という時間と空間が特別なのかもしれない。

そんな着想から創作をつくりました。
それでは、どうぞ。


短編小説:小さな港町で食べる朝食<前編>

自家製のグラノーラと溶かしたチョコレートが和えられ、その上にブルーベリーがのせてある。それが今日の朝食だった。

このグラノーラは、糖分が過多に含まれた市販品ではなく、オートミール、ミックスナッツ、そしてドライフルーツをかまどで、薪でオーブンでじっくりと焼き上げた手作りのグラノーラだ。

「こんなの、自分では作れない」と僕はつぶやく。
「そんなに難しくないですよ」とルナが笑いながらそれに答える。

ルナのつくる朝食を食べるようになって半年が経った。もともとは東京で働いていた彼女が、仕事を辞めて突如世界一周の旅に出たのもその頃だ。

その旅の最初の目的地として選んだこの国のこの港町で、その初日にカジノで全財産を失ったみたいだ。

「人生で初めてのカジノでしたから、後先考えずに行動してしまいました」と彼女は笑って語っていた。

そう、ここはユーラシア大陸の東端に位置する小さな港湾国家。人口はわずか70万人だが、大陸を横断する旅人たちが年間で人口の3~4倍にもなるほど流れ込んでくる。

ここで数日過ごし、隣国へのビザを取得する人々の待ち時間ための宿とカジノがある。

僕は、そのいくつかある宿の一つを自分一人で運営している。部屋はドミトリータイプで、二段ベッドが2つあるだけ。食事の提供はなく、ベッドメイキングも客自身が行うスタイルの宿だ。

「お給料はいりません。夜間働かせてもらえたら宿泊料はタダにしてもらえませんか?」半年前の夜に、今日の仕事を終え自宅に帰ろうとしたその直前に、突然現れたルナの提案がそれだった。

この小さな宿でスタッフを雇う?

僕一人でも現状の運営はできる。でも夜9時以降に宿に到着する客を受け入れられる夜間スタッフがいれば、それは新たなビジネスチャンスになるかもしれない。

最近、夜9時以降に到着する船が増えてきたので、彼女の提案を受け入れていいかもしれない。と僕は思い始めていた。

そして、彼女は夜9時から明け方まで宿泊客のチェックインの受付をやってもらい、僕は彼女にベッドをひとつ無料で提供する。お互いに必要としているものを交換し合うことで始まった不思議な共同生活だった。

「朝ごはんです。もしよろしかったら、どうぞ。」

朝6時過ぎに、交代のために宿についた僕に朝食が用意されていた。それがカットされたバナナが添えられたオートミールのグラノーラだった。

それが僕の新しい日常の始まりだった。


旅人で運営される宿屋

ドミトリースタイルの安宿。気軽なひとり旅をする時によく使う安宿。

そういう宿でよく見かけるのが、フリアコで働く旅人。

フリアコとは、Free Accommodationのことで、無料でホテルやゲストハウスなどの宿泊施設に泊まるかわりに、業務の一部を手伝う仕組み、のこと。

宿側としては金銭的なコストなく人を雇えて、一方旅人は旅費を抑えられる、お互いにメリットがある関係性。

そういえば、ベトナムのハノイで、オーナーがいなくなってしまってフリアコのスタッフだけで運営されていた宿屋がありましたね♪

この話は後半へ続きます。

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