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「カメラを止めるな!」ネタバレあらすじ感想


0,基本情報

・公開年:2018年(2017年に先行公開)

・製作・配給:ENBUゼミナール=アスミック・エース

・時間:1時間37分

・監督:上田 慎一郎


1,予告編


2,あらすじ

とある郊外の廃墟で、ゾンビものの自主映画の撮影が行われていた。その建物には、かつて日本軍が死体を蘇らせる実験をしていたという、忌まわしい都市伝説があった。
クライマックスシーンの撮影中、監督はヒロイン役の女優の演技に本物の恐怖が足りないと苛立ち、建物の屋上に血糊で禁忌のサインを描く。すると、カメラマンが血まみれのゾンビと化して、ほかの撮影スタッフも次々と犠牲になっていく。狂気に取りつかれた監督は、逃げ惑う女優たちを追いかけ、ハンディカメラで撮り続ける。
屋上に追いつめられた女優は、ゾンビ化した恋人の首を斧ではね、ついには生身の監督にも刃を振り下ろす。生き残った彼女は屋上に描かれた五芒星のサインの上で立ち止まり、惨劇の余韻に浸るように、返り血に濡れた顔で空を見上げる。


3,感想・批評

なんだろう、この芸術的な映画は。

昨日見た「ビューティフルワールド」に続いてこれまたドンデン返しがすごい作品を鑑賞した。


架空の物語だとわかる前できちんと私の意見として述べられることは「光量が少なく人物の表情がよくみえない点は、廃墟の中に残された三人の今後がゾンビによって不確かで暗いものになることのメタファーとなっている」だとか「すぐ車に戻れば良いものの遠回りしてゾンビを巻こうとした秋山ゆずき演じるヒロインの​逢花は、その道のり通り右往左往しながら人生の道筋を決めていくのだろう」などと鑑賞中に感じたことくらいだろうか?そのような感覚はすぐに粉砕された。


私が本作から一番感じたのは「映画という芸術作品の多面性」である。本作は1時間半をかけて2度同じ映像を繰り返すことで映画は多面的な解釈ができる芸術であるという大前提をやっているのだ。冒頭に流された「one cut of the dead」と、製作の裏側を垣間見ながら見せられる「one cut of the dead」はどこか感じ方が違わなかっただろうか?少なくとも私は、1度目はホラーでありながら脚本的な違和感が拭えない作品、2度目はチープで一部作品にかける思いが見られない役者の存在、制作陣が目指す方向性がバラバラ、だがそれがかえって面白おかしいコメディ作品という感想を持った。似たようなストーリーでもそれを創る人間が異なれば、カメラワークや役者の演技、セットや小物の見せ方が大きく変わり、受け手の捉え方も違ったものとなる。映画に限らず絵画や音楽なども同様、他の芸術も含めて表現されたより多くを楽しむためのポイントを本作は提示した。1度目の脚本上の違和感やチープさ、ほぼ無名のキャスト達や実際そこまでかかっていない製作費も演出だと思うと、多額の製作費をかけて演出にはこだわっているが脚本に不整合がある下手な作品よりも遙かに芸術的だ。


タイトルが「カメラを止めるな!」であるから、カメラワークについても言及しよう。本作内で展開される架空のゾンビドラマ「one cut of the dead」は全編ワンカットであるため、焦点距離や被写体が移り変わること以外は特に工夫はされず、生放送であるという設定も組み合わさって、リアルなドキュメンタリー作品のようにも見える。カメラーワーク以外の点も挙げると、本作は役者に役者役をやらせるという矛盾を生み出している。上田慎一郎監督のインタビューによると、これは役者に演じさせるのではなく生身の人間を出すための工夫だと語っている。物語自体はフィクションであるから、そもそも画面の向こう側の世界にリアリティを追求することもまた矛盾している。しかし、このような形式を取ることで鑑賞者は作品の中へと没入し、彼らを”芸術”鑑賞の入り口へと導くことに成功している。芸術の多くは生まれながらの天才によって突然変異的に生まれるものではなく、我々と同じ人間の手によって生み出されるものなのである。


心理的な側面からは、濱津隆之演じる隆之に興味深い点が隠されている。「one cut of the dead」を取る前の隆之は安いギャラで再現ドラマを取る気弱な人物で、他人の押しや役者のオーダーに負け、自身の主張を表に出さない人物であった。だが、「one cut of the dead」では自身が監督役として熱い演技をする内に自己を開示し、最後にはプロデューサーに対して作品に対するこだわり、芸術家としての側面を前面に示して見せた。人間という生き物はそれこそゾンビパニックのような切迫した場面で初めてリアルで本音・本性を開示するものだと強く感じた。よく就活で自己分析というが、自己を分析するためにはまずは緊迫・切迫した場面に身を投じる必要がある。私個人的にも、自分自身の隠された本音や本性を理解するために、これからそのような環境に入り込んで真の意味で自分を理解したいと思う。



引用・画像元:「カメラを止めるな!」公式

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