何の変哲もない日常を外国でやること
20代のうちに、3度海外に住んだ。
20代がひとつの物語だとして、前半・中盤・後半に分けると、前半はアメリカ編、中盤はカナダ編、後半はオーストラリア編になる。
アメリカ編はドラマチックだった。
外国でのキャンパスライフ、友達とのフライデーナイト、ルームメイトとの絆、フットボールの試合、大恋愛、刺激的な青春時代のようだった。
カナダ編では家族のような存在と親しい友達ができた。レールに沿った人生にウンザリしていた頃で、色んな人生があるはずだと証明したい時期でもあり、ミッションでもあった。
コロナ渦の一部をカナダで過ごしたが、家に幽閉されている間もあらゆる方面に可能性の種を撒こうと英語の勉強をしたり、動画編集を学んだり、本を読んだりした。時間を無駄にすることを恐れていたのだ。
そして後半のオーストラリア編はというと….
何の変哲もない日常を送ることを楽しんでいる。
朝起きて、仕事をして、カフェでコーヒーを飲んで、散歩をして、花を買って、マーケットで買い物をして、自炊をして、頭の中で考え事を繰り広げて、ネットフリックス鑑賞をする。
オーストラリアに来たからといって、実はそんなに特別なことはしていない。
何の変哲もない日常を外国でやる
それもまた、いいなぁと思っている。
オーストラリアは大きい国だから、建物もそれに比例して大きい。
大きな窓から見える広い空はまるでグラデーションの絵画のようで、特にブルーアワーは美しい。青とオレンジが混ざった空を、綺麗だなぁとぼーっと眺める。そんな時間が好きだ。
照明を落として、街で買ったキャンドルを灯す。
オーストラリアはネットフリックスでジブリを鑑賞できる。ここぞとばかりにアリエッティを流し見する。
ビンテージショップで買った2ドルの小さなワイングラスにアクセサリーを投下して、花屋で買った花をワインボトルに入れて、英字新聞の絨毯を引けば、ささやかなインテリアが完成した。
仮住まいとはいえ、自分の城。お気に入りのスペースを設置することを躊躇ってはいけない。
大きなオーブンとたくさんのコンロがあるうちに、新しい料理に一品でも多く挑戦したい。
熱々のグラタンを作ったり、カレーのルウを手作りしたり、ハンバーグのタネを仕込んだり。
ポッドキャストを聴きながらゆっくり料理を作る時間はなんて幸せなんだろう。
カフェで集めたお気に入りの曲を流しながら散歩をするのもいい。
メルボルンは自然と都会が融合した街。
気分に応じて、ビルのある場所にも緑のある場所にも行ける自由さが好きだ。
ビクトリア図書館ほど作業が捗る場所はない。
ハリーポッターのような部屋で作業するのは気分が上がるが、観光客が多くてカメラの音にちょっぴりソワソワしてしまう。
実は作業をするためのベストスポットはここじゃなくて他の部屋にある。
階段を登った先にある広々とした勉強机だ。
何度訪れてもこの図書館が無料で使えることが不思議でならない。
壮大なコーワーキングスペースのような場所で作業できることをありがたく思う。
ゆったりとしたライフスタイルは、リラックスして考え事をしたり本を読むのにうってつけ。
午前中のカフェは前向きな気持ちになる。今感じていることを綴ったり、これからやりたいことを綴る。自分と向き合うための時間をこれでもかというくらい取っている。
気になる本を電子書籍で買って夜にベッドの上で読むのも至福のひとときだ。
最近、ワーキングホリデーについての記事をよく書いているからか、おすすめ欄に関連記事がよく表示される。
『ワーキングホリデーに行くなら目的とゴールを明確にしよう』
『ワーキングホリデーに行くにはテーマを決めて臨むべき』
『ワーキングホリデーでスキルアップするには』
そんな内容をよく目にする。
でも、私は言いたいよ。
何の変哲もない日常を送るだけでも十分に価値があると。
東京に住んでいた頃、暇を埋めるために近所の小さな劇場に行って一人で映画を見た。
驚くべきことに、その映画は起承転結もなければこれといったオチもなかった。
映画といえば大画面にダイナミックで刺激的なシーンが繰り広げられるものとばかり思っていた。なのにそのストーリーは、あまりにも何の変哲もなかった。
なのに、観終わった後につまらなかったとは思わず、なぜか心に残った。それどころか、この映画を観てよかったなぁと思った。
せっかく外国に行ったのだから
何かを成し遂げなきゃ
目標を達成しなきゃ
挑戦しなきゃ
じゃないと期間限定のひとときが無駄になってしまう…
私も今まではそう感じていた。
でも、肩の力を抜いて何の変哲もない日常を外国で送ることも悪くないと思っている今日この頃である。
今までとは違う舞台で、日常を淡々と運営する。その中から小さな喜びや小さな発見を見出す。
そういうのも選択肢のひとつ。
いつかこの日々を振り返ったとき、小さな劇場で見たあの映画のように、心に残る気がする。
そしてきっと思う。
ここで日常を送ることができてよかったなぁと。
サポートはその日一日が一瞬でハッピーになるくらいめちゃくちゃ嬉しいです♡届いたんだ...!!書いてよかった...!!って喜びを噛み締めます。