ワインにおける濾過の種類(デプスフィルター)
今回から数回に分けて濾過についてのレポートを記事にしていこうと思います。
濾過って実務を経てないとほんとに理解しにくいトピックなんです。
そのため私も理解する、情報を取ってくる、まとめるのにかなり時間がかかりました。
そのため今回は科学の話というよりは実務的にややこしい話という形になるかと思います。
また引用で動画や画像も多々お借りして、なるべくわかりやすいようにという最善は尽くしたのですが、もし理解しにくいところがあれば遠慮なく言っていただければと思います。
それでは。
濾過
発酵前濾過と発酵後濾過の2種類がある。
発酵前濾過は、発酵前に濁度を下げることで果汁中のS(硫黄)含量やN(窒素)含量を減らす。
これを適度に行うことは発酵を円滑に、そして酵母にストレスなく進ませるために重要である。
白ワインでは一般的にデブルバージュとして行われ、赤ワインでは行われないことも多い。
一方で過剰な濾過はNだけでなく、栄養素を減らすことになるので、発酵の停滞や遅延などを招く恐れがある。
一方の発酵後の濾過は微生物的な安定や、コロイド粒子の除去、化学的な安定といった意味合いがある。
こちらも行わずに自然清澄だけでボトリングを行うことは可能だが、ボトリング後に欠陥が生じるリスクを低減するために、広く普及している技術であると言える。
今回はこの発酵後の濾過についてみていく。
濾過に関する単語とその扱い
発酵後の濾過に関する「単語」は多岐に渡る。
ある切り口ではCoarse(粗濾過)と呼ばれるもの、Polish(仕上げ濾過)と呼ばれるもの、そしてSterile(無菌濾過)と呼ばれるものに分かれる。
先のものから順に粗い濾過になっている。
目の粗さはつまり流量の差にもなり、かけることの出来る圧力の差にもなる。
もちろんCoarseの目が一番粗く、時間当たりの流量が多い。そしてかけることの出来る圧力も大きくなる。
下の図でいえば右の2つがCoarse、真ん中がPolish、左の2つがSterileに分類され、それぞれ取り除けるとされている物質のサイズが異なる(Gusmer社のCrystalline Silica Free (CSF) filter series)。
他にもSurface(Absolute)とDepth (Nominal)という分類もあり、この場合のSurfaceは保証サイズ(記載の孔サイズ)より大きいものをほぼ全て取り除くことができ、一方でDepthいうのはだいたいこれぐらいのサイズの分子は取り除けるといったフィルターの分類である。
この違いはフィルターの構造によるもので、目の大きさが均一でないものは基本的にDepthに分類され、それゆえ瓶詰前の濾過としては不十分なものになる。
一方で濾過を行うシート型のフィルターはSurfaceであり、あるサイズ以上の分子のほぼ全てを取り除くことができる。そして先に挙げたSterileは常にSurfaceの方に分類される。
下の図でこの構造の違いを見ることができる。
この写真からわかることは、Depth(英語で深さという意味)は複雑に何層にもなっているが目のサイズが一定でない。
一方でSurface(ここではMembrane)である膜フィルターは比較的一定の孔のサイズになっている。
つまりフィルターには目の大きさの分類の3種類、濾過の特性の違いによる分類が2種類存在するということであり、濾過の特性と目の大きさは関係することも多い。
そして目の粗さで見ると
Depth≧Coarse & Polish>Sterile (Sterileは常にSurface構造) といったイメージになるだろう。
DepthとCoarseやPolishに=がついているのは、この2つの分類は質とサイズの話なので、一概に大小を決めれない場合があるという部分を考慮した。
DepthでもPolishレベルの孔サイズのものもあるし、Polishレベルの孔サイズでSurfaceのものもあるということである。
一方でDepthはCoarseよりももっと粗く濾過できるものもあるので、結果として≧を使っている。
ということではじめに一番粗い濾過であるDepthフィルターから見ていく。
Depthフィルターの種類と仕組み
ロータリーとPAD式
Depthフィルターには珪藻土が用いられることが多い。
この濾過には3種類あり、ロータリー式、PAD式、Lenticularカートリッジと言われるものである。写真は上がロータリー式、下がPAD式である。
PAD式の方はワインが通り抜けるときに濾過されるというイメージがつきやすいと思う。
下からワインが入ってきて上側に抜けていくまでに層状の珪藻土フィルターを通過し、濾過されるというシステムだ。
一方のロータリー式は外側からワインが内側へと通過する。その通過するのに用いられる圧力は内側を真空状態にすることによって作り出される。
またPAD式は中に用いるフィルターの目の粗さを調節できるので汎用性が高いが、ロータリーの方はかなり粗い濾過しかできない。
そのためこの濾過のあとに目の細かいSterileのような濾過を直接行うこともできず、酸化のリスクもあるが、かなり濁りのあるワインや、滓自身からワインの画分を取り出したいときなどには用いることができる。
またその他の利点として安価であること、連続的に使用できることといったことも挙げられる。
一方のPAD式であればこういった使い方もできる。この場合は先の濾過の構造とは少し違う。これはCoarseとPolishingを同時に行うことの出来るシステムだ。
上記の例とは違い、1回に両方のフィルターを入れない場合でも、時と場合に応じて使うフィルターを変えることができるのが強みであり、このフィルターが広く用いられている理由である。
しかし、あくまでもこのフィルター自身はDepthに分類されるため、孔のサイズの保証があるわけではない。
ただそれでも仕上げ濾過(Polish)に用いることぐらいは可能で、そのまま瓶詰にもっていくこともでき、また無菌濾過(Sterile)の前濾過として用いることもできる。
またこのフィルターはセルロースで造られることもある。
利点は珪藻土と同様に安価であること、シンプルであることなどが挙げられる。
また利用に際しての危険性が低く、環境という側面でも廃棄物が少ないといったことが挙げられている。
一方で、珪藻土にも見られるワインの透過時に漏れ出てくるので量的なロス、目詰まりといった課題の他、セルロースの場合はセルロース由来の異臭という課題もある。
ただ総じてこのフィルターは汎用性が高く、便利なので広く普及している。
そしてそのPAD式の進化系とも言えるのがLenticularカートリッジと言われるものである。
Lenticularカートリッジフィルター
ここにあるように、これはワインの漏れもなく、酸化のリスクも低い。それに準備もかなり容易なのだが、コスト面や廃棄物自体が多くなることが難点である。
こういった利点と欠点をLenticularと先のPAD式で比較したまとめもあったので切り取っておく。
と初回の今回はここまでです。
孔サイズによる分類とその仕組みによる分類。
そしてその孔サイズが一定ではないDepthの代表格であるPad式、ロータリー式、そしてLanticular式という3種類を見てきました。
次回は孔のサイズベースでの分類を詳しく見ていきます。
これからもワインに関する記事をuploadしていきます! 面白かったよという方はぜひサポートしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします。