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つれづれ短編集

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『月・帰路・Lost Days』不定期連載
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月・帰路・Lost Days -4-

月・帰路・Lost Days -4-

窓を見上げる昼下がり。
差し込む光が、怠惰を撫でて暖めている。

照らされる右足の更に下方、机の上に置いた携帯が、時おり振動して音を立てる。

わかったわかった。起きてるよ。
でも今日は振替休日だ。残念だったな。

誰にともなく呟き、また窓を見上げた。

空の色とは、こんな色であったか。
ついこの間までの空は、暴力的なまでに青く、そして白かった。
今見上げる空がこうも穏やかなのは、既に日が傾き始め

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月・帰路・Lost days -3-

月・帰路・Lost days -3-

拝啓

遠雷の下のあなたへ

こちらでは今、星が見えます。
見えると言っても、少しだけです。

街の灯りというのは、僕らが思うよりずっと明るいようです。僕の住む郊外の住宅街でさえ、目を凝らしてやっと星を数えられるほどです。

だんだん目が慣れて、5つ、6つと数えるうちに、黒い背景が一瞬、白く染まります。まるでリセットするように、カシャッと光って、僕はまた、星を数え直さなければなりません。

イヤホ

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月・帰路・Lost days -2-

月・帰路・Lost days -2-

改札の向こうが眩しい。

瞼が重いのは、朝日が眼球を刺すからではない。

ぼやける視界に目を凝らす。黒い集団は僕に当たるスレスレで上手に避けて、光に背を向けて階段へ流れ込む。僕はただ一人、流れに逆らって光を目指す。

光の世界に到達したとき、青い風が頬をなでた。太陽は、真下に潜り込んでジャンプすれば手が届きそうな高さで左手にあった。

僕は立ち止まって、そして思いきり伸びをした。あくびもした。新芽

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月・帰路・Lost Days

月・帰路・Lost Days

「…っくしゅん!」
ああ、この季節が来てしまったか。スマホを閉じてコートの右ポケットに手ごと突っ込み、私は空を仰ぐ。電線の間からぼやけた月が照らしている。
「串刺しムーンだな…」
自分の発した言葉の滑稽さに呆れながら、私は歩みを再開する。頭に浮かんだのは、串揚げのうずら卵。左手に提げたビニール袋の中身は串揚げはなく、先程コンビニで買った麻婆豆腐丼とツナサラダである。まあ、なんでも美味しく食えるくら

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