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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第70回「北海道道南飲み歩き 後編・函館の夜」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第70回「北海道道南飲み歩き 後編・函館の夜」である。


はじめに

第69回「前編・江差の夜」のつづき。江差町の夜は静かで落ち着いて飲めた。2日目は渡島半島をぐるりと回るドライブで、土方歳三が戦いで活躍した松前城、北海道最南端の白神岬、横綱千代の山・千代の富士記念館などを見学した。

函館に戻り、レンタカーを返して人心地ついた。これで心置きなく酒が飲める。函館は観光都市なので、酒場には事欠かない。函館山ロープウエイで函館の夜景を眺める・・・というようなロマンチストになるつもりもない。

さあ、腰を据えて函館で飲むぞ!

函館「根ぼっけ」~こだわりマスターのいる店

函館飲み歩きを前に強力な助っ人を入手した。「地域一番のごちそう」という小冊子だ。イラストレーターのながせ義孝さんが独自取材をしたお店のガイドブックで、函館市内の店もいくつか紹介されている。これは参考になるぞ。

口開けに訪れた居酒屋「根ぼっけ」も、小冊子で紹介された店の一つ。スキンヘッドのマスターが描かれていたのが印象的だったが、店に入ると、そのまんまの姿のマスターが居たので思わず微笑んでしまった。

注文は何を置いてもホッケの刺身を頼むしかない。ホッケは居酒屋メニューの代表的な焼き魚として定番だが、刺身ではなかなか食べられない。この店では岩礁に根付いたホッケを看板メニューにしており、屋号の「根ぼっけ」の由来にもなっている。

刺身には日本酒を合わせたい。マスターに二世古酒造の純米酒をお願いする。銘柄は二世古だが、ニセコ町ではなく隣の倶知安町の酒蔵という。マスターは「北海道の店だから、北海道の酒を飲んでもらいたい」という主義。全く同感だ。

さあ、お目当てのホッケの刺身をいただこう。

感想は「これは美味い」の一言。なぜ美味いと思ったのか白状しよう。以前函館に来た時、別の酒場でホッケの刺身を食べたが、その時の印象があまり良くなかったからだ。脂が乗っているのに脂っぽくなく、濃厚な味わいが絶品だった。見直したぞ、ホッケ。

追加注文はイカのゴロ焼き。新鮮な真イカの身をゴロと合わせてオーブンで焼いた料理で、これも日本酒にはピッタリ。イカの身が柔らかかったのは、新鮮な証拠なのだろう。酒がどんどん進んでしまうぞ。

今度はマスターにおススメの魚を裁いてもらう。出してもらったのは「メヌケ」。これも高級魚として知られている。かなり淡泊な身で、ほかに例えようのない味である。

北海道の地酒を推すように、マスターは食材にもかなりのこだわりがある。屋号とともに「地物産品御料理処」を看板に掲げているほどだ。まだまだたくさんの根ぼっけ料理が出来ると言うが、一軒完結というわけにもいかないからな。ごちそうさま。

函館「きみよし」~おまかせ料理ゆえのバッティング!

昨夜、江差のバー「スタッフ」のマスターから聞いた老舗バー「杉の子」が最終目的であるが、行くにはちょっと早い。もう一軒だけ酒場に寄ろう。田舎料理という看板が気になり、思わず入ったのが「きみよし」という小料理屋である。

女性2人で切り盛りしている店で、どちらかが女将さんということになる。この店にはメニューがなく、その日の食材を使った家庭料理を出してもらえる。

田舎料理という看板はご謙遜なのだろうな。

日本酒と一緒に出てきたのはタラの三平汁。三平汁というと鮭を思い浮かべるが、塩蔵タラもなかなか美味い。何よりも胃にやさしいのがありがたい。

続いて出てきたのは・・・イカのゴロ焼き! ありゃりゃ、バッティングしてしまったぞ。さっき根ぼっけでも食べたなあ。まあ、酒の肴にピッタリなのだからいいか。

この店のご常連さんは品の良さそうな方たちばかり。なかには「先生」と呼ばれている老紳士もいる。大衆酒場馴れした私には少々場違いだったかもしれないな。

函館「バー杉の子」~二代目と新選組談義に花が咲く

さあ腹ごしらえは終えた。いよいよ老舗バー「杉の子」へ行こう。バータイムには少し早いが、人気店なので入れるかどうか。何とかカウンターの片隅に滑り込めたぞ。

昨日聞いていた初代マスターは出勤前らしく、若いバーテンが切り盛りしている。まずは定番のジントニックを飲み干し、次いでラムベースのオリジナルカクテル「海峡」をいただく。バーテンは次々と入る注文をてきぱきとこなす。その姿を見ているだけでも楽しい。

しばらくしてドアが開き、年配と女性のバーテンが連れ立って入ってきた。どうやら年配の方が初代マスターらしい。初代は80歳を過ぎているようだが、バーテンとしてもまだまだ現役。女性の方はママさん・・・ではなく、二代目マスターである。

初代と二代目がカウンターに入り、店内がガラリと華やぐ。

とくに二代目は雰囲気づくりがとても上手で、お客さん一人一人に話しかけながら、次々と会話の花を咲かせてくれる。それは私に対しても同じだった。旅の者だと言えば、旅の目的を聞かれる。ならば言おう、目的は「新選組」だよ。

しばし二代目と新選組談義に花が咲く。

函館で新選組といえば、土方歳三をおいて他にはない。2004年に大河ドラマ「新選組!」、2006年には続編の「土方歳三最後の一日」が放送された。二代目は「山本耕史の土方歳三は似合っていましたね」と笑みを浮かべる。もちろん私も同感だ。

会話をしているうちに、ふと五稜郭タワーの話になった。タワーには2004年のひとり旅で訪れていたので、今回はパスしてもいいやと思っていた。ところが、タワーが昨年建て替えられ、高さも倍近くになったという。これは外せないぞ。

会話が弾んでいるうちに、何杯かおかわりしていたらしく、すっかり酔っ払ってしまった。ボチボチお開きとするか。五稜郭タワーの情報が入手でき、良かったよ。次に函館に行く時も老舗バー「杉の子」に寄りたいな。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2007年8月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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