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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第69回「北海道道南飲み歩き 前編・江差の夜」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第69回「北海道道南飲み歩き 前編・江差の夜」である。


はじめに

北海道道南を巡る旅が実現した。函館には過去2回訪れているが、函館市内の観光に終始していたため、道南をしっかり巡ったことはない。今回はレンタカーを借りて渡島半島をぐるりと走り、途中の江差町で一夜を過ごす計画を立てた。

レンタカーなので昼飲みはできない。したがって、夜飲みに全力投球しなければならない。2日目の函館市は大都市なので心配なかろう。問題は1日目の江差町。果たして、旅人を楽しませてくれそうな酒場があるのだろうか?

おっと、江差町の方に失礼だったな。早速、飲み歩きにでかけよう。

函館市「回転寿司新村」~活イカで一杯・・・はダメだよ

江差での夜飲み話の前に、函館でのお昼にもちょっと触れておこう。上野駅から列車を乗り継いで函館駅に到着したのが昼過ぎ。何はともあれ腹ごしらえをしたい。観光名所の函館朝市をぶらついていると、海鮮丼の店などいろいろあって目移りする。

店先にいたオヤジさんの手招きで、つられて来店したのが回転寿司新村。いつものパターンだと、真っ先に日本酒を頂戴するところだが、このあとレンタカーで移動するため、アルコールは厳禁。まあ、軽く寿司をつまんでいくか。

そうはいっても欠かせないのが函館名物の活イカ。

店員が生け簀の中から真イカをつかみ出すと、手早く捌いてくれる。まさに活イカそのままで、ゲソがくねくねと動いているのが少々キモイ。鮮度抜群なイカはシャキッとしているし、ゴロ(内臓)も美味い。酒が飲めないのがつくづく残念でならない。

江差「鮨紋」~北の海の幸で、やっと飲めた酒

江差入りしたのは夕方よりやや早い時間帯だった。早々と夜酒かと思ったら大間違い。北海道新幹線開業に伴い、廃線が噂されていたローカル鉄道・江差線に乗って木古内駅まで往復してくる。酒も好きだが、鉄道も好きなので、これは外せない。

江差駅に戻ってきた時はすっかり暗くなり、飲み歩きスタートの時間が夜のピークに重なってしまった。よもや、どの酒場も満席、ということはあるまいな。

そんなわけで1軒目に訪れたのは「鮨紋」。

海沿いのまちに来たのだから、やはり海の幸は外せない。それには寿司屋が一番いい。店内にはお客が1組。満席の心配は取り越し苦労だった。カウンターに座り、旭川市の男山純米「くーる」をいただき、親方におまかせで握ってもらおう。

ヒラメ、トロ、アワビ、アオヤギ、ボタンエビ、ホタテ、ホッキ、カニ、イクラ、ムラサキウニと、いずれ劣らぬ近海ものばかり。とくにアワビはエゾアワビで、小ぶりで引き締まった身と濃厚な肝のコンビネーション抜群。これは美味い。

昼のリベンジを果たすべく、イカのゴロも注文。やっぱり日本酒にはピッタリの肴じゃないか。活イカもと思ったが、昼間たっぷり食べたので遠慮しておこう。

江差「やまもと」~江差追分の名手がいる酒場

寿司を食べてお腹が膨れたが、酒の方はまだまだこれから。次は居酒屋がいいな。街中を歩いていても、人通りがかなり少ない。果たして酒場が見つかるだろうか・・・と、そこは抜かりの無い私のことだけに、しっかり下調べはしてあるのだ。

続いて訪れたのが酒処「やまもと」。路地を少し入ったところにある酒場で、一見客がやって来るのは珍しいらしい。カウンターに座るやいなや、切り盛りをしているご夫婦から「どこでうちの店を知ったの?」と聞かれてしまうほど。

餅は餅屋なんですよ。

和食がメインなので日本酒でいこう。北海道の地酒は置いていないが、全国の名酒が揃っており、まずは新潟の〆張鶴から。おちょこはたくさんの器のなかから選べる仕組み。

付き出し代わりに出していただいた女将特製のコーンスープが胃に優しくてありがたい。これはなかなか、こだわりあふれる酒場だぞ。盛り合わせでイカ、アマエビ、トロなどを切ってもらい、チビリと飲みながらくつろぐ。

ふと見ると、壁には江差追分セミナーの受講者の名札が並んでいる。そうか、江差町といえば江差追分の本家本元。聞けば、女将は江差追分の名手らしい。

江差町では江差追分全国大会やセミナーを通して、伝統文化の普及・継承に努めている。セミナーの受講者が打ち上げでやってくる酒場でもあったのだ。そこまでは下調べの段階では分からなかった。見知らぬ酒場は予想外ばかりで面白いな。

江差「OVER.DRINKスタッフ」~町で唯一?のショットバーへ

書き忘れたが、酒処やまもとでは菊姫先一杯もお代わりでいただいており、たいぶご機嫌になっている。3軒目はショットバーがいいな。でも江差にあるだろうか。女の子がいるスナックっぽい店は見かけるが、そんな気分じゃないしな。

界隈を歩いていて見つけたのが「OVER.DRINKスタッフ」。中年のマスターが一人でやっている店で、ほかにお客はいない。カウンターの真ん中に座り、まずはいつも通りジントニックから。このエッセイで再三書いているが、太田和彦氏の受け売りだ。

客1人だったので自然とマスターとの会話が弾む。マスター曰く「人口の多くない江差町でショットバーを始めることに不安があった」そうだが、地元の方だけでなく、私のような旅行者もフラリと立ち寄ってくれてありがたいという。

「旅人のニーズがあるんですよ」と思わずニヤリ。

最近の江差の様子など、あれこれと話をする。つい先日も、映画のロケーション帰りのスタッフがやって来て、俳優のことなどをしゃべっていったそうだ。確かに江差は観光スポットも多い。映画のロケにもうってつけなのだろう。

帰り際「明日の夜は函館に泊まります」と言うと、マスターから「杉の子へぜひ行ってください」というナイスな情報が。杉の子は老舗のバーで、ちょうど初代マスターがやって来る日なのだとか。これは楽しみ。スタッフのマスター、ありがとう。(つづく)

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2007年8月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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