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暗号資産にトレンド転換の兆し ~しかし、未だ燻る火種

注:本レポート内では 1ドル = 130円で換算してあります。

はじめに

2022年はインフレを食い止めるというのが世界的な流れでしたが、2023年に入ってからは景気後退を見込み始めました。これによって金(ゴールド)が買われるなど安全資産に資金が流入しています。
また、かつて“デジタルゴールド”とも呼ばれていたビットコイン(BTC)も2か月ぶりに2万ドルを突破するなど価格が上昇しています。

暗号資産に関しては昨年一年を通して下落が続いたので、ここにきてやっと上昇トレンドへ転換したと思いたいところですが、この上昇が一過性のものである可能性も大いにあります。
FTXの破綻で悪材料が出尽くしたかのように見えますが、まだ暴落を引き起こしかねないリスクがいくつも残っています。
以下にいくつかリストアップしましたので、どんな下落リスクがあるか今一度見直してみていただければと思います。

業界に燻る火種

1.デジタルカレンシーグループ(DCG)

デジタルカレンシーグループ

DCGは2015年にバリー・シルバート氏が設立した、暗号資産やブロックチェーン市場に特化したベンチャーキャピタル(VC)です。
投資先に、米大手取引所CoinbaseやステーブルコインUSDCを発行しているCircle社、イーサリアムブロックエクスプローラーEtherscan、日本の取引所bitFlyerなどがあり、暗号資産関連のVCとしては最大級と言えます。

2021年末には企業価値が100億ドル(1兆3000億円)を突破するなど、破竹の勢いで規模を拡大していきました。DCGの傘下には暗号資産専門メディアのCoinDesk、暗号資産レンディング企業Genesis、暗号資産運用会社Grayscaleなどがあり、各分野で最大級の企業の親会社ということでDCGがどれほどの規模かというのがお分かりいただけるかと思います。

そんな盤石に見えたDCGですが、2022年7月に暗号資産大手VCのThree Arrows Capital(3AC)が破綻したことをきっかけに、完全子会社であるGenesisが12億ドル(1560億円)の損失を出すという事件が起こりました。

Genesisは親会社であるDCGから資金を借りることで一時は破産を免れましたが、2022年11月のFTX破綻の影響を受け、債権者に対して30億ドル以上の債務を抱えている状態で顧客資産の出金は停止されていましたが、ついに2023年1月に破産申請しました。

さらに、このGenesisの件をきっかけに親会社のDCGも危ないのではという憶測が広まったことで、同じくDCG傘下であるGrayscaleが提供するビットコイン投資信託「GBTC」の価格が急落し、2022年12月にはディスカウント率が50%に到達しました。
GBTCは2021年以前にはしばしば数十%のプレミアムがついて取引されていたことを考えるとかなり価値が棄損している状態です。

また、Genesisの件に関してはこれだけに留まらず、ウィンクルボス兄弟が運営する暗号資産大手取引所Geminiに対し1000億円超の債務があるとのことで揉めています。

GeminiとGenesisは、2020年から顧客がGeminiを介してGenesisに暗号資産のレンディングをすることで金利を得るというサービス「Gemini Earn」を提供しており、2022年11月にGenesisが出金や償還を停止した当時Gemini Earnを利用していた約34万人の顧客の資産約9億ドル相当が凍結されました。

2023年1月現在はGeminiの共同創設者であるキャメロン・ウィンクルボス氏を中心にGenesisおよびDCGに対して資金の償還を求めたり、DCGのCEOであるバリー・シルバート氏の解任要求を求めるなど争っている状況で、さらにSEC(米国証券取引委員会)が「Gemini Earn」は未登録有価証券の募集・販売にあたるとしてGeminiとGenesisを提訴するなど事態は混迷を極めています。

バリー・シルバート氏(左)とウィンクルボス兄弟(右) Bloombergの記事より

これに対してDCGは保有する銘柄を売りに出して資金をかき集めている段階だと考えられますが、もしDCGが破綻するようなことになれば、Terraや
3AC、FTXに引き続き、暗号資産市場にかなりのダメージを与えることになりそうです。

2.Binance

Binanceは、2017年にチャンポン・ジャオ氏(CZ)によって設立された、言わずと知れた世界最大の暗号資産取引所です。

BinanceのCEO CZ氏 日経新聞より

FTXが破綻して以降、その発端となったBinanceのCEO CZに対して「FTXから多くの献金を受けていた米国議員達の怒りが向くのでは?」と懸念する声も出始めました。

実際に「米国司法省がBinanceをマネーロンダリングと刑事制裁違反で告発することを検討している」などのニュースも出回り、Binanceが破綻するのではないかという憶測が広まりました。これによって12月13日には60億ドル(7800億円)相当の顧客資産が引き出される事態に発展しました。

1月に入ってからもBinanceが独自に発行するステーブルコインBUSD(※ステーブルコインに関しては後述)について、担保の完全な裏付けがないとの報道などがあり、1か月で55億ドル(7150億円)相当のBUSDが換金されました。これに対してBinanceは「タイミングの不一致で確かに過去に運用の遅れが生じた可能性はあるが、いかなる時点でもユーザーに対する償還の影響はなく、ペッグは修正されてきている」との弁明をしています。

Binanceに対しては何年も前からこういった噂が流れますが、だいたい噂止まりで終わっていました。しかし、FTXの件によって顧客の間でも不安が広がっており、マネーロンダリング(資金洗浄)への関与など悪いニュースが出ればそれが引き金となって取り付け騒ぎが起こり、“Binanceショック”を招く可能性もあるので気を付けなければなりません。

3.USDTなどステーブルコイン

ステーブルコインは、価格が法定通貨や金や原油といったコモディティなどと連動するように設計されている暗号資産で、特に米ドルに連動するステーブルコインが多く、米Tether社が発行するUSDT、米Circle社が発行するUSDC、Binanceが発行するBUSD、MakerDAOが発行するDAIなどが有名です。

ステーブルコイン(時価総額が高い順)一覧

Binance独自のステーブルコインBSUDに関して担保の裏付けが怪しいとの報道がありましたが、他のステーブルコインに関しても時価総額と同等の担保がないのではないかという噂が出ています。

特に以前から言われているのはUSDTで、暗号資産の中では一番使われているステーブルコインです。
2022年5月に暴落したUSTは、アルゴリズム型で担保がないステーブルコインでしたが、一般的に普及しているステーブルコインは担保型のUSDTやUSDCなどがあります。
このうち、特に担保がしっかりなされていないのではと度々話題に上がるのがUSDTです。

USDTの準備金内訳 (USDTの公式HPより)

USDTの準備金に関しては何年も前から裏付けがされていないのではないかと何度も疑惑があり、2021年から4半期ごとに準備金の内訳についてのレポートを出すようになりました。

直近ではUSDTの準備金からコマーシャルペーパー(企業が発行する無担保の短期債務証券)の割合をゼロにしたとの発表がありました。
それでも100%現金というわけでもないので、今後もことあるごとに準備金については指摘をされることが予想されます。

もしも投資家の間で発行元のTether社に対する不安が広がって、取り付け騒ぎが起きてドルペッグが外れるようなことがあれば、ステーブルコインのシェア1位であるだけに暗号資産に大打撃を与えることは間違いないでしょう。

4.米国の債務上限問題(デフォルト懸念)

米国の債務上限とは、米連邦政府が国債発行などで借金できる債務残高の上限のことです。債務上限に達した場合は、政府は議会の承認を得ることで上限を引き上げることができますが、もし承認を得られなければ国債の新規発行ができず、政府が債務不履行(デフォルト)に陥ります。

米国の国債発行残高の推移(三井住友DSアセットマネジメントの資料より)

米国では、現在までに何度もこの債務上限の引き上げが政治問題となってきました。それでもここ数年間は米国の上下院ともに民主党が過半数を占めており、債務上限の引き上げに関しての承認申請が否決されるというようなことはありませんでした。

しかし、2022年11月8日に実施された米中間選挙の結果、下院の過半数の議席を野党である共和党が占めたことにより、上下両院で多数派政党が異なる「ねじれ議会」となりました。
これによって、これまで当たり前のように可決されてきた債務上限の引き上げが通らなくなる可能性があるという“デフォルトを人質にした政権争い”が始まりそうです。

おわりに

2023年が始まってから、BTCの価格は2万ドル台に復帰するなど暗号資産全体が堅調な値動きを見せているものの、上記のように暗号資産業界に潜在するリスクはまだまだありますし、米国をはじめとして世界的にも景気後退が現実味を帯びてきています。
また、新型コロナやロシアのウクライナ侵攻も解決しておらず、まだまだ気が抜けない状況が続きます。市場は上向きではあるものの、まだ長期的な上昇トレンドに入ったか判断できないので、上記のようなリスクがあることを念頭におきつつ相場を見ていただければと思います。

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