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【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(2)

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〈2〉彷徨う少女と猫の滑り台

大きな猫の滑り台。
なんで猫なんだろうと当時も思ったと思う。
その公園に着いたとき、時刻は22時を回っていた。

「あれ?」

昔の記憶では、滑り台の下は空洞でかくれんぼをしたり、内緒の遊び場みたいな感じで入っていたが、入り口がコンクリートで塞がれてしまっていた。
猫の柄のペイントも随分と禿げていたり薄れていたりと、面影がほんのり残っているくらいだった。
思い出は美化されると言うが、ここで大怪我を負った記憶は全く美化されていない。

仕方なく、滑り台に登り、上で三角座りをして、ぼーっと空を見ていた。
雲がちらほら街の明かりに照らされてその輪郭がはっきりわかる。
歩き疲れて落ち着いたせいか、眠い。
学生鞄を枕にして横になる。
暇すぎて、流石にスマホの電源を入れ、SNSを見る。
母からの電話は通知をオフにして着信はするが、鳴らない設定にした。
そういえばなんで美夜子はいなかったのか。
もしかしたらお風呂にでも入っていたのだろうかと考えながらしまったなと思った。
ちょっとでも待ってからまたインターホンを鳴らせば、出てきたんじゃないかと考えたからだ。
また戻るのも体力の限界だ。

芸能界を去ってから、一度も動かしていない子役時代のアカウントを今でも大事に持っている。
ファンの人から貰った温かい言葉の数々。やめないでとか、戻ってきてとかそういったコメントを振り返りながら見る。
よくコメントをくれた人は覚えている。きときとみゃーこさんとか毎回真っ先にいいねを付けてくれたり、コメントをしてくれてた。そう言えば同い年ってコメントが来てたことあったっけな。
ずっと遡って見ていると、間違えていいねを付けてしまう。
慌てて取り消してスマホを閉じた。
もしかしたら通知が行ってしまったかもしれない。
そう思いながらドキドキしていた。

少ししてもう一度スマホを開き、さっきのSNSアプリを立ち上げる。
きときとみゃーこさんのアカウントを見る。
誕生日だけが公開されており、生まれ年は非公開になっていたが、誕生日は先月、4月20日だった。
みゃーこさんの投稿を見てみる。
最新の投稿は私の最後の投稿に対するコメントで、それ以降は投稿はしていないようだ。
スクロールして色んなコメントを読んでいた。
どれもよく覚えている。何故ならば、どれも嬉しいものだったからだ。

すると、新しい投稿があるという表示が出てきた。

『なんでか、ひなちゃんからいいねが来たけどもしかしてアカウント乗っ取られたのかな?』

私のさっきの操作ミスのせいで変に心配させているようだ。
どうしたもんか。勝手に投稿するのもな……。
DMで連絡しても、それもダメな気がする。
とりあえず、無視して今使っている個人のアカウントに切り替えた。
それにしてもみゃーこはわかるけど、きときとってどう言う意味なんだろうと、調べると、富山県の方言らしい。なんでそれを使っているのかよくわからないけど、富山県に住んでいる人なのかなと思い、それ以上は何も考えていなかった。

もう一度アカウントを切り替えてみゃーこさんの投稿をチェックする。

『念の為、DMで聞いてみました』

そう投稿されていた。
私は慌ててDMをチェックすると本当に来ていた。

『もしかしてアカウント乗っ取られてますか?』

それを見て、私は返すべきか悩んだ。

『既読になったってことは誰か、これを見ているんですよね? ひなちゃんですか?』

私は怖くなった。読んだことがバレるなんて聞いてない。
どうしよう。事務所に相談……はできない。
個人で対応するしかないのかな、と考えていた瞬間。追加でメッセージが来た。

『ひなちゃんなら返事をください。私はあなたがよく知ってる人物です』

その言葉に私は背筋が凍りついた。
もしかしたら母かもしれない。
家出した娘のSNSをチェックしていた?
それとも通知が行くようになっていた?

『さっき、うちに来ましたか?』

その質問に私は気づく。
きときとみゃーこさん、もしかして……。
富山県について調べると、富山の名峰立山があることを確認した。
みゃーこ……美夜子をもじった名前なのか?
つまり、立山美夜子である。

「すみません。間違えていいねを押してしまいました」

『インターホンのカメラに映ってたからびっくりした。今どこにいるの?』

「猫の滑り台の上」

『わかった。すぐ行くから、そこ動かないでね』

「うん」

私のメッセージに既読がついて、それから返信はなかった。
コンビニで買った飲み物を飲みながら、美夜子を待っていた。
どうしてだろう。今日初めてまともに話したのに、こんなに待ち遠しいのは。
他の友達とは違う。昔の記憶の欠片がそうさせているのか?
あれは夢みたいなものだ。
あの時の男の子が美夜子だった。私の勘違い。でも、好きになってしまった。だから、こんなに切ない気持ちなのか。
今日何度目かわからないため息を吐いた。
車が数台通り過ぎる。幸い、お巡りさんは来ていない。確か近くに交番があったはずだ。もしかしたらそろそろ巡回に出るのかもしれない。
そう思うと、身を隠したくなったが、それよりも美夜子からの言いつけが私をその場に縛り付けた。
まるでよく躾けられた犬の様だなと、自分の事なのに自分で笑ってしまった。
一台の水色と白のカブがエンジン音を立てて通り過ぎようとする。
カブか……私も原付の免許取ろうかなと考えていたら、そのカブは止まり、ヘルメットの中から、癖のある長い黒い髪と、乳白色の肌色のとても美しい顔が月明かりに照らされていた。

「美夜子……」

「陽菜!」

私は滑り台を滑り落ち、そばに置いておいたキャリーケースを手に取り、美夜子の元へ駆け寄った。

「何してるのよ」

「こっちのセリフ……」

「とにかく、帰るよ」

美夜子は私の学生鞄をカブのカゴに入れて、キャリーケースを持とうとしたが、それは断った。

「原付バイク乗れるんだ」

「先月免許取った。これはお母さんのお下がり。この辺、コンビニ行ったりするのちょっと距離あるし、坂道多いから」

「アシスト自転車って選択肢はなかったの?」

「お母さん、昔はバイク乗りだったか、あんなちゃっちいモーターより、小さくてもエンジンを感じたいんだって。それに、カブは燃費いいし」

カブを涼しい顔で押す美夜子。
それを挟んで必死にキャリーケースを引っ張る私。

「やっぱり持とうか?」

「いい。バイクの方が重いでしょ?」

「別に押さなくていいよ」

「ちょっと君達」

振り返ると、警官がそこに立っていた。
しまった、普通に交番の前を通ってしまった。

「君たち……中学生ではないか。高校生? 今何時かわかってる?」

「あら、お久しぶりです。西田さん」

「あ、お嬢さんじゃないですか!どうされたんですか? ってそれ奥さんのバイクですよね」

「先月免許を取ったんです」

美夜子はその西田という警官に免許証を見せた。

「そうかー、お嬢さんも免許取れる年齢に……じゃなくて、どうしてこんな時間に?」

「こちらの友人がうちにお泊まりをする約束をしていて、ここの公園でずっとお喋りしていたらこんな時間になってしまって」

「平日で明日も学校じゃないんですか? まあそういうこともあるか……本当はダメですけど、今回はお嬢さんに免じて見なかったことにします。くれぐれもお気をつけてお帰りください」

「はい。ありがとうございます」

西田は美夜子に向かって敬礼をすると、美夜子はそれに丁寧なお辞儀で返した。

「知り合い?」

「うちの道場の門下生。高校生くらいから通ってたから、結構顔馴染みで……どこか昔気質なのは変わってないようね」

「だから、お嬢さんか」

「なんだと思ったの?」

「べ、別になんでも……」

私は私の知らない美夜子の顔を見るのが嫌だった。だなんて、言えるわけない。
コンビニで食べるものを買って、美夜子の家に向かう。
本日3度目の立山邸は相変わらず大きな門が立派すぎで少したじろぐ。

「先にお風呂にしよう」

「わかった」

私は替えの下着と着替えをキャリーケースから取り出し、美夜子にお風呂場へ案内してもらう。

「あの……」

服を脱ぎ始めた美夜子に私は訊く。

「え、私もお風呂。さっき陽菜がインターホン鳴らしてた頃に入ったんだけど、汗かいたし」

「ってことは一緒に入るの?」

「当たり前」

その美しい肌と、整った体型に私は同性ながら息を呑んだ。
私なんかより、芸能界にいたことがあるんじゃないかってオーラがある。
服を脱ぐ最中私は良からぬ事を思い付いてしまう。

「ってことは、湯船に美夜子の出汁がたっぷり……」

私は美夜子にお尻を叩かれた。
素肌同士、その甲高い音が脱衣場に響き渡った。

「バカなこと言ってないでさっさと入るわよ」

湯煙が美夜子を包み込み、その魅力的な裸体を隠す。
私は懸命に息を吹き、湯煙を追っ払おうとするも
酸欠でクラクラしかけたのでやめた。


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