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【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(21)
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〈21〉彼女を壊してしまうもの全てから、守ろうとしていて僕が壊していた
私は居ても立ってもいられず、教室を飛び出した。
「陽菜ちゃん、どこ行くの!」
健斗の声などお構いなく、私は鞄片手に出ていった。
校門近くに人集りができており、その中に沙友理と紗季がいた。
「陽菜……美夜子ちゃんが!」
「知ってる、美夜子のお母さんから電話あったから」
「あ、陽菜の番号、私が教えたの」
「そっか……ありがとね、沙友理」
私はそのまま大通りに出てタクシーを捕まえた。
「ほんと奇遇ですね……」
「ですね……」
いつものお姉さんに母も入院している市民病院へ向かうようにお願いすると、母に何かあったのかと勘違いされた。
病院に着くと、とりあえず受付で美夜子について訊ねた。
「あの……」
「あら陽菜ちゃん。学校はどうしたの?」
奥から顔見知りのベテラン看護師が顔を出した。
「あの、救急で搬送されて来た、立山美夜子さんは」
「あ、もしかして制服も同じだしお友達? 処置室にいるけど……前の待ち合いで待っててくれる? 多分、向こうのお母様もいらっしゃるから」
「ありがとうございます!」
私は急いで処置室前へ向かった。
待ち合いの長椅子に玖美子さんが座っており、こちらに気付くとすぐに駆け寄って来た。
「陽菜ちゃん!」
「玖美子さん……で、美夜子は?」
「頭打って気を失ってるの……ほんと家を出てすぐだったんだけど」
「ごめんなさい。私が先に出てなければ……」
「いいのよ。警察も100対0で向こうの過失って言ってるし」
「そうなんですね」
私は玖美子さんに座るように促して、私も隣へ座った。
なんとも言えない、落ち着かない雰囲気。
処置中のランプを眺めながら、ずっと同じ時間が流れていた。
「そういえば陽菜ちゃんのお母さんも、ここに入院してるんでしょ? ちょっと会って来たら?」
「え、そんな悪いです」
「いいのよ。何かあったらすぐに知らせるから」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
私は母の病室に向かった。
事の経緯も説明しようと思ったからだ。
「あら、学校は?」
「お祖母ちゃん。ちょっと色々あって……」
祖母と丁度、エレベーター乗り場で鉢合わせた。
エレベーター内で、美夜子のことを話すと、祖母も美夜子のことを知っていた。
「だって、先代とお祖父ちゃん古い友人だったんだから」
「そうなんだ……世間って狭いね」
病室に入ると母は朝食を食べていた。
「あ、お母さんいらっしゃい……って陽菜?」
「うん。ちょっと……ね」
私は母にも美夜子のことについて話す。
「そう……それじゃあ玖美子さん1人で?」
「うん。みんな忙しいからって」
「気の毒ね……」
「あ、そうだ。ミュジークの話があったんだけど、一応名前だけ在籍って形になるようにしてくれるって」
「え、戻るの?」
母は驚きの表情で私を見たが、私の顔を見て少し何かを悟ったようだった。
「そうよね。元々、陽菜が好きで始めたことだものね。私がどうこう言うものではないわ」
「またちゃんとした契約書を書かないといけないかもだけど、その時はよろしくね」
「わかったわ」
母は残りの朝食を食べ終えて、食器回収のワゴンに運びに行った。
「陽菜ちゃんがまたテレビに出たらお祖父ちゃんも喜ぶよ」
「……すぐには出ないと思う。あくまでも名前だけだから、今はまだ普通の高校生をやっていたい」
「そうかい……」
「陽菜、玖美子さんがいらしたわよ」
「え?」
「陽菜ちゃん、美夜子の意識が戻ったそうよ。だから一緒に来てくれない?」
私は玖美子さんの後を追い、処置室に向かった。
ベッドに横たわる美夜子を見て私は泣きそうになっていた。
「美夜子、陽菜ちゃんわざわざ学校抜けて来てくれたわよ」
「美夜子……」
美夜子は首を固定された状態で目線だけをこちらに向けた。
「陽菜……」
先生から聞いたところ、脳に異常はないが、首を鞭打ちしてしまっているので、暫くコルセットで固定しなければならないとのことだ。
「私は大丈夫だから、学校行って」
「でも……」
「大丈夫だから。ね?」
「わかった」
私はそう言われて学校へと向かった。
学校に戻ると、皆んなから話を聞かれ、意識は戻ったことを伝えると、安堵の声が上がった。
私は美夜子の分の板書をとった。忙しい一日だったが、それにより色んな雑念を取り除けたので、有り難かった。
「陽菜、私もお見舞い一緒に行っていい?」
「あ、私もええかな?」
沙友理と紗季が私の元へ駆け寄ってきて、そう言った。
私はもちろんと言い、二人もお見舞いに行くと、玖美子さんにメールで伝えた。
返信が来て、一般病棟に移ったという事と、部屋番号が送られてきた。
二人は断ったが、私はタクシーで向かうことを提案した。
タクシーが病院に到着し、院内に入ると、私は慣れた手付きで面会受付を済ませて病棟へ入った。
伝えられていた病室へと向かい、少し緊張した面持ちで部屋の前で立ち止まる。
軽くノックをすると玖美子さんの声がし、ドアが開いた。
「みんなありがとうね。さ、入って」
私達が部屋に入ると、美夜子はメガネをかけてスマホを見ていた。
「ああ、あの子ったら、下が向けないからスマホホルダー使って仰向けのまま電子書籍って言うので本読んでるんだって」
「だからメガネ掛けてるのか」
「え、なんで?」
沙友理がそう訪ねてきたので、美夜子のメガネの秘密を教えた。
「そんなん、知らんかったわ。でも、あんなに美人さんやのになんで隠す必要あるん?」
「まあ恥ずかしいからでしょ。それに目立ちたくないからってのもあるだろうし」
「でも、やっぱりメガネの美夜子ちゃんもいいね」
「わかる!なんかメガネちゃうのもええねんけどね」
美夜子はイヤホンをして本の世界に没入しているので、私達の存在に気づいていなかった。
私は率先して声を掛けに行った。
「美夜子、来たよー」
「陽菜……ごめん、気づかなくて」
美夜子はイヤホンを外し、私達を見てそう言った。
ベッドを起こして座った状態にするも、絶対安静の首だけは動かせないという。
「これ、不便なのよね」
「そうだね。それじゃキスもできない」
「み、皆んなの前で何言ってるのよ!」
「陽菜、たまにキツイ冗談言うよね」
「そうなん? うちはてっきりそういう関係て思てたけど、ちゃうん?」
「紗季って意外とそう言うところ鋭いな」
沙友理は私に抱きついて美夜子を睨むようにした。
「今は私が恋人だからいっぱいキスしようね」
「何言ってるのよ。沙友理はノーマルなんでしょ?」
「今さっき女の子もいけるようになった」
「それありなん?」
「それで言えば紗季なんて、柔らかそうでいいよね」
私は紗季を見ながらそう言うと、紗季は蛇に見込まれた蛙のように縮こまった。
それを見て笑っていると、ドアがノックされ、それを聞いた玖美子さんがドアを開けると、健一郎さんが立っていた。
その威厳のある風格に、沙友理も紗季も少し萎縮してた。
「ん、ご友人か。これはどうも、いつも美夜子がお世話になっております」
「い、いえ!私達こそ美夜子さんには、いつもお世話になってます!」
「ます!」
紗季が続いて言うと、それを見た健一郎さんは笑いだした。
「そんな固くならなくてもいいよ」
「え、はい……」
二人は気をつけの状態を解いて楽な姿勢になった。
「健一郎さん、道場はいいんですか?」
「ああ、少し清隆に任せてきた」
「へぇ……」
私と健一郎さんの会話を見て、二人は少し驚いていた。
健一郎さんは手土産に近所の和菓子屋のみたらし団子を買ってきてくれていた。
「陽菜ちゃんにと思って選んできた。昔、インタビューで好きって言ってたから」
「ありがとうございます。私、みたらし団子大好きなんですよね」
「なあ、美夜子ちゃんのお父さんと陽菜ちゃんの関係ってなんなん?」
「ファンと、タレントみたいな? まあ私は今活動休止状態なんだけど」
「へ、へぇ……それで言うたら、うちもせやし、皆んなそうなるんやけどなぁ」
「そこは気にしちゃ駄目だよ。これ、温かいうちが美味しいから早く食べよ」
私は早速一本、頬張っていた。
甘じょっぱいタレと団子の組み合わせがとても良く、私はぺろりと一本平らげた。
「これ喜八洲のに似てるなぁ」
「あ、十三のみたらし団子屋さんでしょ? 私、撮影の時行ったんだ。めちゃくちゃ美味しかったなぁ」
「流石、芸能人だなぁ。私も大阪行きたいなぁ。修学旅行、大阪にしようかな」
「うちが大阪行ったら、ただの里帰りになるからなぁ。どうせなら京都か奈良がええわ。近いからこそあんまり行く機会なかったし」
「私は広島行きたいなぁ。映画撮影した因島にまた行きたい」
「ええなぁ、瀬戸内。食べるもんも美味しいし、なんか穏やかなイメージやわ」
「美夜子はどこ行きたい? 修学旅行」
「陽菜と一緒ならどこでもいい」
「愛だね」
「愛やな」
沙友理と紗季は、顔を見合わせて言った。
修学旅行は二年の夏と少し早めに行く。
行き先はなんと自由。まさかの集団行動無視の修学旅行である。ある意味、学校が企画する卒業旅行だ。
「じゃあとりあえず早く治さないとだね」
「そうだね」
「……なんかうちらお邪魔かもしれへんな」
「うん、なんか私達の距離感と違う気がする」
二人は一歩後退りながら言う。
「まあでもあんまり長居してもあれだから、そろそろお暇するね」
「え、帰っちゃうの?」
「何、寂しいの?」
「……」
美夜子には珍しく、子供っぽい態度を見せる。
「なにこれ、尊いんですけど」
「なあ……お金払ったほうがええんちゃう?」
「いらないよ」
「だって、まるでドラマのワンシーンやん。タダで見てええもんなん?」
「そうだぞ陽菜ちゃん、今のはわしもお金を出したい」
「お父さん、恥ずかしいから止めて」
美夜子が一喝すると、健一郎さんは引き下がった。
「でも、そろそろお母さんの方も行かなきゃだし」
「うん……じゃあね」
「また学校でね。美夜子ちゃん」
「ほなな、美夜子ちゃん」
美夜子の病室を後にすると、私は母の病室へと向かい、二人は先に帰った。
病室に入ると母はスマホを見ており、何やら険しい表情をしていた。
「お母さん?」
「あ、陽菜……」
「どうかしたの?」
「数独のアプリいれてみたんだけど、なかなか難しくてね」
「それでしかめ面してたのか」
私は笑いながらソファーに腰掛けた。
祖母が持ってきていたバナナを頬張りながら、母と他愛もない話をする。
明後日の土曜日の午前中にに退院が決まり、それに向けての当日のスケジュールを打ち合わせした。
「折角の退院なんだから、何かお祝いするべきなのかな」
「別にいいわよ。家に帰れるだけでもいいんだから。まあ、ここだと楽だけど、なんだか自分が駄目になっていきそうで、逆に怖いわ」
私は窓の外を見遣った。夕日が今にも遠くの山の稜線に掛かろうとしていた。
「なんだかんだ、美夜子のところに長居しちゃったし、そろそろ帰るね」
私は病室を出て、美夜子の病室へ再度向かった。
立山邸にある荷物を取りに行こうと思ったからだ。
美夜子の病室をノックすると美夜子の声がしたので入っると、玖美子さんも健一郎さんも姿は無く、既に帰ったようだった。
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