闇の図書館の番人

 成人しか出入りできない、闇の図書館。優れた戦闘能力を持つ番人によって、この図書館は厳重に守られていた。

 しかしある日、見習い戦士の少年が裏口から図書館へ侵入を試みた。

 少年は戦士として日々訓練をしていることもあり、他の同年代の子供に比べて戦闘能力が高い。それゆえ、少年は自分を優秀な子供だと思いこむようになり、時に他者を見下す癖がついていた。

 ところが、闇の図書館には、少年の想像もしなかった侵入対策が備えられていた。少年の侵入が感知され、警告音が館内に響き、異変に気づいた番人は素早く駆けつける。

 慌てた少年は図書館を出ようとするも、あっという間に番人に捕らえられてしまう。

 相手は、数多くの経験と訓練を積んだ立派な大人。当然、少年に勝ち目はなく、侵入は失敗に終わる。

 しかし、番人はただ強いだけでなく、優しさも持ち合わせていた。

「なぜ図書館に侵入しようと思ったんだ」

 番人からの問いを受け、少年は正直に本当のことを話した。

「ここには子供は入ってはいけないから、どんな本が置いてあるのか気になったから」

 少年の話を最後まで聞いた番人は、ここには子供は絶対に入ってはならないこと、その理由を誤魔化すことなく丁寧に教える。

 この図書館は、この世界の様々な残酷な現実、事実、生々しい歴史を未来まで保存し語り継ぐための場所である。

 この図書館の本に書かれてあることは事実であり、どれも未来に語り継いでいくべき貴重な物語である。誇張やはぐらかし、ごまかし等は一切なく、ただ現実に起こった事実をありのままに、正確に伝えているだけなのだ。

 しかし、現実はとにかく残酷だ。その残酷な現実をそのまま起こった通りに忠実に描けば描くほど当然、残酷性が増す。

 特に生命にまつわる現実ほど残酷なことはない。それらの代表的なものとして、性、死、血がある。

 残酷な現実を知るのはとても勇気のいることで、幼い子供ほど、より衝撃を受けるだろう。

 それでも現実に起こってしまった悲しい歴史は未来まで語り継がなければならないし、大人も子供もしっかり学ぶべきということには変わりない。

 だからこそ番人は政府に対して、子供にもこの図書館を解放すべきだ、と何度も訴えたが、政府は聞き入れなかった。

「子供たちにはまだ早い。子供が残酷な本を読んだら人格の形成に影響が出る。子供のうちは、とにかく明るい未来の物語を見せるべきだ」

 これが政府の言い分だったが、番人は屈することなく反論した。

「その明るい未来を作るためには、暗い過去も知らなければならない」

 しかし結局、番人の必死な訴えは聞き入れられなかった。

「子供たちにも、この図書館を利用してもらいたい」

 番人は本当はそう考えていたが、反対に政府は、子供たちに残酷な内容を見せることを厳しく禁じた。流石の番人も政府の命令には逆らえず、子供たちが図書館を利用することを禁じざるを得なかった。

 番人との戦いを通じ、少年は楽しいことだけでなく、苦しいことや悪いことにも向き合う必要があることを思い知る。そして自分もこの図書館で学び、それを未来にも受け継いでいきたい、と番人に語る。

 少年の熱意を受け止め、番人は助言する。

「その調子だ。いつか大人になった時のためにも、今学べることはしっかりと学べ。お前の稽古にも付き合ってやってもいい」

 それから、少年は番人の下で稽古をつけてもらうようになった。少年もやがて、闇の図書館の番人となり、暗い過去の教訓も、そしてその延長線にある明るい未来の可能性も守っていくのだろう。

おわり

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