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内面を描くから小説は面白い。〜「同志少女よ、敵を撃て」を読みました〜

逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」を読んだ。

戦争をテーマに取り扱った小説。
アニメや映画では戦争の悲惨さや残酷さを映像で派手に表現するが、そこに存在する人間一人一人の心のうちを微細に表すことはできない。
小説にできないことはもちろんあるけど、本書は小説の特徴をふんだんに活かして、一個人の内面の動きから戦争の醜さや憎むべき部分を見事に表現している。

戦地に赴く少女。
最初は戸惑いながらも、その環境に適応して、人の死に慣れてしまう。そんな自分に気づいて苦しむシーンなど、とても印象的だ。

たった一人の内面。
これが戦争に関わる人の分だけ存在している。それぞれに物語がある。

戦うことに生きがいを感じる人もいた。
大切な人を失った悲しみに打ちひしがれる人もいた。
たくさんの感情が交錯しているが、結論、やはり争いなんてないに越したことはないのだろう。

戦争という大きなテーマに、一人の小さな心の動きからアプローチしていく。その世界にまるで自分が降り立ったように感じるからこそ、その問題を真剣に考えてみようと思える。

内面を描くからこそ、小説は美しいし、存在し続ける。
文学の素晴らしさを改めて感じさせてくれた、素晴らしい一冊だった。

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