見出し画像

奈良の大仏様はどう教えられてきたのか?(19)オールジャパン・プロジェクト③ー歴史授業の進化史・古代編

もくじ
(1)はじめにーならの大仏さま
(2)天皇はいばってる?ー金沢嘉市氏の授業
(3)民衆を苦しめた?ー山下國幸氏の授業
(4)壮大な無駄?ー向山洋一氏の授業
(5)大仏よりも薬・病院?ー米山和男氏の授業
(6)オールジャパン・プロジェクトー安達弘の授業
(7)日本人と天皇と王女クラリス
(8)三島由紀夫と歴史教育 

(6)オールジャパン・プロジェクトー安達弘の授業③「詔」を読む

 次の年表を子どもたちに読み取らせる。

神亀元(七二四)年  聖武天皇が位につく
天平二(七三○)年  雨が降らず日照りが続き、作物が実らない
役所に落雷・雷雨及び火災
天平四(七三二)年  雨が降らず日照りが続き、作物が実らない
 *政府から使者を出して雨乞いのために神に祈る
 *お年寄・身寄りのない人に食料を援助する
七月一五日 地震発生
八月四日  台風襲来
八月二七日   台風襲来  人家・寺が多数倒壊
天平五(七三三)年  飢饉が全国にひろがる
 *稲を無利息で貸し出す
 *食料などの緊急支援物資を送る
天平六(七三四)年  四月七日 大地震発生 家屋倒壊・死傷者多数
 *被害状況を調査する
 *稲を無利息で貸し出す
 *税金を納めるのを延期する
天平七(七三五)年 伝染病(天然痘)が流行  死者多数  作物が実らず凶作
 *災害がなくなるように各寺で仏に祈る
 *お年寄・障害者・身寄りのない人に食料を援助する
天平八(七三六)年 作物が実らず凶作
天平九(七三七)年 伝染病(天然痘)が再び流行 死者一○○万人以上 全人口の約三○%が死亡 朝廷の大臣たちも伝染病で死亡者多数
天平一三(七四一)年
 *国分寺を全国に建てるように詔を出す


 まず気づくのは自然災害の多さだ。
 地震、台風、日照りによる凶作が頻発している。こうした自然災害によって現代でさえ多くの生活上の問題が生じている。千年以上前の人たちにどれほどの脅威を与えていたのか想像に難くない。さらに、伝染病の流行が目にとまる。とくに天平九年は当時の全人口の三分の一に当たる百万人が亡くなった。もし、現代の日本で全人口の三分の一が亡くなってしまったら、あらゆる産業、行政機関がストップして国そのものが立ち行かなくなるだろう。
聖武天皇はこのような危機的な状況を十七年間に渡って経験していた。ひ弱なリーダーならとっくにリタイアしている。

 次に気づくのは政府の救援策だ。とくにお年寄り・障害者・身寄りのない人への食料援助には驚く。千三百年前でもこのような社会的弱者への救援策が行われていたことに感動すら覚える。もうひとつは神仏への祈願、そして国分寺の建立である。神様・仏様を本気で信じていた当時のことであるからこれも重要な救援策の一つである。

 大仏建立の動機・目的を当時のこのような社会情勢に照らして考えさせることが大事である。それにしても、この当時の災害ついて調べてみると現代の日本人が経験した東日本大震災などの大災害と重なって見えてくる。当時の状況をつかめたところで、以下のような前書きを含めて聖武天皇の「大仏建立の詔」を読ませる。じつはこの前書きが重要である。

◆災害が続き、悩んでいた聖武天皇は河内(いまの大阪)にある知識寺というお寺に立ち寄り、一体の仏像と出会いました。
 聞くところよれば、この寺と仏像は貴族や豪族がお金を出して作ったのではなく、この周辺に住む民たちがそれぞれわずかなお金を持ち寄ったり、みんなで仕事を分担して建てたものだというのです。
 聖武天皇は感動しました。
「これだ!これと同じように大きな仏像を全国の民と一緒に作ろう。そうすれば・・・」
◆天平十五(七四三)年十月十五日に大仏建立の詔
 わたしは天皇の位についてからというもの、この世に生きているものすべてを助けようと心がけ、慈しみの心をもって民を治めてきた。そのわたしの心は国中に伝わっていると思う。しかし、仏の教えのありがたさはまだまだ国中に行き渡っているとは言えない。そこで、仏の教えの力で天地が安らかになり、この国の未来にも残るりっぱなことを成しとげて、生きるものすべてが栄えるようにしたいのだ。
 わたしは、金と銅で大きな仏像をつくろうと思う。国中の銅を集めて大仏をつくり、山を削ってお堂を建てるのである。この大仕事のことを広く国中に呼びかけて、賛成してくれる者を仲間とし、最後には全員が仏の教えで救われるようにしたい。
 いまの世の中の富と力を持っているのはわたしだから、わたしが大仏をつくろうとすれば簡単にできるだろう。しかし、それでは大仏をつくる本当の意味が成しとげられたとは言えない。魂の入っていないただの形だけの仏をつくることになってしまう。
 また、この大仕事を行うにあたって心配していることがある。それは、この国の民に苦労をさせるだけになってしまい、仏の教えもわからないままに終わってしまうのではないかということである。
 そこで、わたしの仲間として大仏づくりに参加する者は、誠実な心で仕事をして、幸せをつかみ、一日に三回は心の中で仏を拝んでほしいのだ。
 これに自分からすすんで賛成する者は、その気持ちを大事にして大仏づくりに参加してほしい。もし、一本の枝、ひとつまみの土などのわずかなことでもすすんで仕事に参加したいという者がいれば喜んで受け入れたい。
 なお、役人たちに言っておく。この仕事を理由にして民の財産を取ろうとしたり、税金を高くしようとしてはならない。このことは国中すべてに伝えるようにしなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?