書評 天空の蜂 東野圭吾 犯人の一人の動機が弱く少しすっきりしないがエンタメとしては楽しい作品でした。
久しぶりの東野作品。やはり充実の安定感だ。この人の作品は大きなハズレがないのがいい。
昔は本格ミステリーをたくさん書いていたが、最近は少し違う感じがする。
いつも思うのだが理系知識が少しあると、東野作品はすごく楽しめるのだ。
本作は600ページの大作だ。
映画化もされている。
エンタメ要素たっぷりの作品である。
だいたい10時間くらいのことを描いている。
読むのにも10時間かかった。
簡単に話しをまとめると、自衛隊に納入するはずの最新鋭のヘリが奪われた
コンピューター制御のため、リモコンみたいにジャックされたのだ。
ヘリには、爆薬が仕掛けられていた。間違って子供を載せたまま飛び立ってしまうのがツボである。
そのヘリは自動運転で原子力発電所の上空で飛び続けている。
犯人の要求は、全国の原発を破壊することだった・・・。
でないとヘリを原発に落とすと脅す。
まずは、子供を救助する。
自衛隊員の活躍があり、この場面の描写は楽しい。
その方法は単純だが、ヘリの中に救助員が入ることを認めないという犯人からのリクエストがあり
ドキドキハラハラの展開になってしまうのだ。
犯人は二人なのだが、具体的には述べないが
そのうちの一人の動機が曖昧なのだ。
切実な何かがソコに存在しないから作り物の話しという感じが出てくる。
これが唯一の本書の欠点だ。
ミステリーなのでネタバレをさけるため詳しいことは述べない。
これはテロである。子供の生命だけでなく原発を攻撃しようとするものだ。被害はどんなことになるかわかったもんじゃない。
メディアは、こういう時、人道的という観点から
犯人の要求を聞くべきだ・・・という意見が多くなる
本書では原発に関する細かい裏事情なども出てくる。
ようするに、色んな観点から光りを当てて原発について読者に考えさせようという意図である。
誘致に賛成すると補助金が出る。
だが、それは永久に払い続けられるものではなく20年という期限があるそうなのだ。
つまり、特典はいつかなくなる。
すると地方議会はどうする?
ここが大切だ。
交付金が欲しいばっかりに、もう一基作ってくれとなるわけです・・・
これが原発銀座と言われる地域
原発がある地域に集まる裏事情である。
さて、国はどうかというと・・・
ヘリが落ちても原発はびくともしない。問題ない。
だからテロには屈しないのである。
「もしもってことは考えないのか?」
・・・
「そんな風に考えてたら、原発なんか作れない」
この原発の技術者の発言は怖い。
この三島という人は、本書の主人公であるヘリの技術者に対してこんなことを言う
絶対に落ちない飛行機があるかい?。・・・お前たちのできることは・・・落ちる確率を下げていくことだろ・・・。だけど・・・ゼロにはできない・・・
それは原発も同じなのだという。
絶対の正義が存在しないのと同じで、絶対の安全など、この世界には存在しないのだ。
じゃあ原発って何なのか?
世の中には、ないと困るがまともに目にするのは嫌だというものがある。原発もそういうものの1つだってことだ。
それは自衛隊と似ていた。原発は必要かもしれない。でも、その存在には皆、あまり関心がなく肯定的ではないのだ。
ほとんどの人間はその問題について無関心だ。何か事が起こった時だけヒステリックになる。批判し攻撃の対象とする。
最後に犯人の声明文を紹介する。
沈黙する群衆に、原子炉のことを忘れさせてはならない。常に、意識させ、そして自らの道を選択させるのだ。
子供は刺されてはじめて蜂の怖さを知る。今度の事が教訓になることを祈る。
ダイナマイトはいつも10本とは限らないのだ。
私たちは当たり前のように電気を使っている。だが、それにはリスクが伴っているのだが、それを誰も見ようとはしない。その沈黙する民衆に、そのリスクを思い出させるため、この犯人の一人はこの事件を起こしたのだった。
言わば沈黙する民衆を啓蒙しようとしていたのだ。
しかし、これは犯罪である。原子炉はそれくらいのダイナマイトではびくともしない。たとえ、そうだとしても犯罪である。
2020 9/
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