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書評 破局 遠野遥  恋愛の中心思想が何かが、その行動を決定するのかもしれない。芥川賞受賞作。

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芥川賞受賞作。
これには驚いた。でも、わかる気がする。

遠野さんは、文藝賞を受賞している。
本作品は、2作目の小説だ。
実は、サイン本も持っている。今、私が一番に注目している作家さんだ。
そして、今回芥川賞をとった。

新人賞受賞から半年以内に、これだけのクオリティの作品が書けるのは相当な潜在能力がないとできるものではない。

今回も性の臭いがプンプンする純文学だ。
まるで収穫したての青梅のようで、齧り付きたいが、齧り付くと即死
という青酸カリに似た毒性を含んでいる

性欲の強い元ラガーマンの大学生の彼は、ストイックな真面目な男で自意識過剰気味
性欲が強く、いつも自慰行為ばかりしている。
恋人は、政治活動に夢中でやらしてくれない。
そんな時に、やぼったい。やらせてくれそうな女と出会い、そういう関係になる。
真面目だから、二股はできんから、恋人と別れて付き合うが
彼女は少し神経質で、かなり変。
彼の性欲に応えているうちに淫乱になっていき、彼は体力的に無理になっていく
元カノの陰謀で、いきなり別れるようになる
これがタイトルの「破局」に繋がるのだが、彼は見知らぬ男にタックルをして死なせた?
見知らぬ女を追いかける・・・、という狂った行動に出るという終わり方

先ほど、作品を青梅に例えたが、青春の青々しい気分の裏側には、未熟さゆえに愚挙が隠れていて
それは嫉妬や我儘や自意識過剰からくるのであり
彼女に捨てられたから、彼は変になったのではなく、その前から、元カノと別れた直後から
もう、すでに何かの変調があって、そこに新しい女が IN してきたことで 変てこな化学反応が生じて有毒ガスが体内に蓄積し、最後は仕掛けで爆発したという展開なのである。

疾走感のある文章と、主人公の「私」のリアルな内面描写により、その変質というのか狂気ぶりが滑稽で、本人は真剣なのだろうが、読者のように一歩引いてみるとヤバい。まともじゃない。禍々しさみたいなものが伝わってくる。
すべてのノイズが、自分の悪口に聞こえたり、弱い人間をイジメて良しという感覚
そいう若者特有のエゴイズム。いや人間の中にあるエゴイズムなのかもしれない。
彼の恋愛の核には、たぶん性欲があり、その思想が彼の運命を決定していたとも思える。
彼女が別れを切り出した時、元カノを泊めたのを非難した。でも、彼女は何を非難したかと言うと彼が自分以外の人間とセックスをしたことを非難したのだ。自分も本当は誰とでもやりたい。禁欲している。我慢している。彼氏に遠慮してた。なのに、あなたは好き放題。やってられないというのである。
何なんだろう、この理屈。
意味不明の言語で語られているようで理解不能。
まさに迷宮のラビリンス状態である。
彼女の恋愛の核も性欲なのだ。
彼女とのセックスに辟易していたのに、それが永遠にできないとわかると、執着に変わり追いかけ。でも、男に阻止され暴力をふるい、それを目撃した女を追いかける。何で、見知らぬ女を追いかけるのか意味がわからない。
この女を追いかける行為の延長戦上に性欲が存在しているのではないかと思ってしまう。

この作品は中毒性のある作品だった。
もっと、この人の作品を読んでみたいと思う。
今年、読んだ中でも、たぶん、ベスト10に入ると思う。



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