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書評  百瀬、こっちを向いて。 中田永一  乙一さんが別ネームで書いた珠玉の恋愛短編集。表題作に思わず「やられた」と呟いてしまった。

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乙一さんと言えば、ホラーの名手ですが
本書は、別のペンネームで書いた恋愛短編集です。

このレベルの高さは驚きです。
普段は恋愛小説は読まないのですが、映画化されているというのもあり
手にとってみました。正直、良い意味で裏切られた感じです。

4つの短編の特徴は3つあり
1つは、主人公が自己評価の低い地味な人であること
もしくは、そうありたいと願っている人です。
だから、読者は簡単に自己投影しやすいので
気がつくと、心揺さぶられ
文字を目でたどりながら
ぶつぶつ独り言とか言ってしまうのです。
共感度がやたらと高い作品なのです。

2つ目のポイントはミステリー的な要素がある点です。
恋愛ものなのにどんでん返しがあったりします。
恋愛小説が苦手な人でも楽しめるのが良いです。

3つ目のポイントは不思議設定の楽しさです。

表題作だと、偽者の恋人になる
「なみうちぎわ」だと、植物人間のまま数年後に目覚める
「キャベツ畑・・・」は、有名なミステリー作家が自分の国語の先生だとわかる
「小梅・・・」は、美人が嫌いで ぶすメイク をして妹の小梅として好きな人を騙す

表題作の「百瀬・・・」は切なくて、切なくて
ラストで一気に伏線を回収し
主な登場人物4人の心情がじわっと外に溢れてくる
これがたまらない。

そして、「キャベツ畑・・・」の少女は、人気作家である国語の先生に手紙を書こうと思う。

言葉を外に出さなくては、どうにもならない気持ちになってしまう。

心のなかでふくらんでいた言葉たちを、紙の上にだしてならべることは、このまま心の中でくさらせていくよりも、よっぽどいいことなのだ。

と思い。勇気を出すのでした。

「小梅・・・」の主人公は美人なのに、ぶすメイクをして学校に通っている。
それは親友にこんなことを言われたからだった。

あなたなんか嫌いだった。死ねよって、いつもおもっていた。

美人の友達でいるのは辛い。
でも、親友に裏切られた彼女もつらい。それで人間不信になるが・・・
山本という同級生の男子に出会い、彼女は変わる。
恋愛をし変わるのでした。でも、架空の妹小梅としノーメイクで会っていたのです。
そのもどかしさが・・・

表題作は映画化もされています。

2020 12/6





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