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感想 君と夏が鉄塔の上  賽助  三人の少年少女が、鉄塔の上に生息する着物姿の少年の謎を解明する夏の物語。

ダウンロード - 2022-02-25T154644.269

ある夏、彼らは鉄塔の上に着物姿の少年を見つけた。
鳥人間のように空を飛びたい少女
幽霊が見えるため不登校になった優等生
鉄塔オタクなまじめな学生
この三人が、夏休みを利用し謎解きをする、冒険ファンタジー。

少年たちの好奇心は面白い

知ってるから行く意味なんてない。確かに僕は、どこかでそう思っているかも知れない。 「それは知ってるなんて言わない。行ったことも、やったこともない奴が意味ないなんて言っちゃ駄目よ。やってみて初めて〝ああ、これは意味なかったな〟って分かるんだから」

これだよね、大切なのは興味の赴くまま行動すること。

やってみて初めて〝ああ、これは意味なかったな〟って分かる

彼らの興味は、鉄塔の上に座っている少年だ。

見上げた鉄塔の先には、着物姿の子供が座っていた。子供は兎のお面を後頭部に被っていて、相変わらず足をパタパタとさせている。

たぶん、幽霊だ。
見たい、会いたい、何者か知りたい。

鳥人間になりたがっている帆月
彼女はどうして、そんな無謀なことをするのか、その理由が興味深い。

「……どうして帆月は、そんなに危ないことばかりするの?」 自転車で空を飛ぼうとしてみたり、鉄塔に登ろうとしてみたり、およそ普通の女子中学生がやるようなことじゃない。生き急いでいると言うか、死にたがっていると言うか、危うい信念を感じずにはいられない。 正直、怖いのだ。 「何か、その、焦ってるみたいだ」

「私には時間がないの」と静かに言った。 「え? 時間がないって……まさか、不治の病とか──」 「そんなわけないでしょ」帆月はほんの一瞬だけ薄らと笑い、再び真剣な表情に戻る。 「私ね、夏休みが終わったら引っ越しするんだ」 「え?」 心臓が、どく、と動いた。 「言ってなかったっけ」

「うち、離婚するんだ。二度目の離婚。お父さんが転勤するから、私はそれに付いて行く感じ」

彼女は転校するんだ。

みんなに忘れられたくない。
爪痕を残したい。
それが彼女の奇行の原因

幽霊の少年と遭遇してからが面白い。
ファンタジー色が濃くなる。

鉄塔の子供──椚彦は水羊羹を食べながら、こくんと頷く。

鳥居を潜り抜けた途端、パッと視界が開ける。 「えっ?」 僕らの目の前にあったのは、茶色のマンションの屋上と、その向こうにある広大な荒川の土手──。 鳥居を潜り抜けた先は、京北線94号鉄塔の天辺だった。 「うわっ!」

僕らの真下には154キロボルトの送電線が前後に伸びていて、連なる碍子連からはジジジと放電する音が聞こえ、はたしてここに座っていて大丈夫なのかと不安が過る。

神社の先に、いきなり鉄塔の上の世界が存在する

そこで彼らは付喪神、いらなくなった物たちの行列を見つける。

「私、何となく分かっちゃった」 帆月が小さな声で言った。 「みんな、忘れられるために歩いてるの」 「忘れられるって、どういうこと?」

「記憶は、一杯になると、古い物、大事じゃない物は忘れていかなきゃいけないでしょ? そうしないと、頭の中が溢れちゃうから」

「あれは……もういらないって判断された物たちなんだ」 「もう、いらない?」 「うん。神様なのか、人間なのか、誰が決めたのかは分からないけど……覚えておく必要はないって判断された物たちなんだよ。それをこうして川に流して、海に返して、忘れさせるってことなんじゃないかな」

「私ね」と帆月は言った。 「私ね、忘れられたくないと思ってた。でもみんな、私のことを忘れちゃう。私はそれが……嫌だったの」

「……でもね、あの人たちのことを見てたら、やっぱりそれは仕方ないんだなって思えちゃった。忘れるものなんだね。忘れられるのが、普通なんだね」

転校し引っ越していく帆月
彼女は友達に忘れられたくなかった。

というのも、父の転勤が決まってすぐ
実母に会いにいったら忘れられていたのだった。

この3人の冒険は、この帆月という少女の引っ越しても忘れないでねという
そういう気持ち、自己主張というのかな
そういう感情がベースになり
引っ込み思案な鉄塔オタクの主人公と、幽霊の見える少し人との付き合いの下手な少年を巻き込んだ冒険なのだ。

彼らは冒険を通して、自分たちにはない
ちょっとした勇気とか、思いやりとか
そういう感情に気づきつつ
鉄塔を好きになるのでした。

というか、作者の鉄塔愛が半端ない。
どれだけ鉄塔が好きなんだという作品。
そのウンチクも魅力の一つです。

2022 3 8



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