書評 吉宗の星 谷津矢車 徳川吉宗を描いた時代小説、権力の頂点の孤独さがよくわかりました。
谷津さんの文章が心地良い。
これは力作だと思います。
徳川吉宗というと享保の改革
ケチ将軍
徳川家の中興の祖というイメージと
暴れん坊将軍ですが・・・
ですね・・・
紀州出身で将軍になったので、色々とあったことはわかるのですが、ここまで波乱万丈だったなんて知りませんでした。
母親は身分が低く3男。父親からまともに息子として扱われたこともない人でした。
僧侶になるのが決定していたのですが、将軍にひょんなことから気にいられ
どうにか3万石の大名に、その後、英明な兄の死、父と次兄の死
そこで藩主となったのですが、その経緯が凄まじい。
あえて書きませんが凄いことになってます。
そして、ライバル尾張の自滅もあり将軍になるというサクセスストーリー
中盤までの怒濤の展開はかなりおもしろい
親友であり部下でもあった草の者伊織の存在が光ります。
伊織は、策士諸葛孔明のようであり、岡田以蔵のようでもある吉宗の乳母の子なのです。
天下をとってからは、物語は中だるみになり
事実を列挙していく展開。
尾張の徳川宗春の失脚のところで少し盛り上がりますが
何も間違ってない彼を助けられなかった無力さが、よく伝わってきました。
将軍は絶対的な権力者と思っていたのですが、そうではなかったようで
門閥大名たちの合議制によって、物事は決まっていきます。
そして、世継ぎの問題。
門閥大名たちは英明な次男を推すも、吉宗はひきこもり系の長男を
自分たちの意見が通らぬと知った大名たちは吉宗を包囲・・・
ラストで老中たちの陰謀を見抜き逆転
ここの最後の流れはかなり激しくて見所ありでした。
せっかく将軍にしてやった長男とは心の溝ができ
晩年はコメの値段。相場に悪戦苦闘の日々。
政治に忙殺し、働きまくった。そして、孤独だった。
絶対的な権力者として将軍を見ていたのですが
実は、大奥1つを動かすにも配慮し
実の母親を大奥に招くこともできなかった
部下たちとの関係性も希薄で
お庭番を置いて疑心暗鬼
大岡越前にも最後のほうは冷たく扱われるという
権力の極みに立つことの辛さがよくわかる作品でした。
2021 6/6
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