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異神千夜 恒川光太郎   異能力者を絡めた4つのショートストーリーが、私たちを異世界の先端へと導いてくれる。

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恒川さんを語るのに、日本ホラー小説大賞の受賞者という経歴を忘れてはいけない。
しかしながら、本作は単なるホラーではなくファンタジー要素もあり、土俗の宗教やら異能力っぽいものも出てきて、実に楽しいエンタメ小説になっている。

本作は短編集である。収録されている4つの作品は・・・

冒頭の「異神千夜」だけが元寇の時代を描いたホラーもので、他は現代を描いている。
「異神千夜」は、大陸生まれの女巫術師と、日本人の若者の愛憎を描いた物語だ。
ラストシーンで若者が彼女を殺すのだが、彼女の特質である他人を自由に操作できるという能力は消えていたと思われる。若者との間にできた娘に継承されていて、それは窮奇(中国の霊獣)というものである。彼女が鼬を飼っていたのだが、これが後の物語にも出てくる。

「風天孔参り」は、山奥の寂れたレストランに現れた若い女と自殺志願者の集う雷獣の棲まう穴の物語で、その穴に入ると消えてしまう。レストランの主人と若い女の関係性を見事に描写していて、恋愛に近いのような淡い感情を浮き彫りにすることで、この不思議の穴の存在が余計に印象に残る構成となっていた。

人間に憑依する優しい森の霊「森の神、夢に還る」にも、鼬行者なる占い師が出てくる。

「金色の獣、彼方に向かう」は、金色の鼬を飼うことになった少年の視線で、知り合いになった殺人犯の娘と猫の墓掘り人との不思議な世界を描くモノなのだが、この猫の死体を埋めるために墓を彫り続けている男が、少女が殺した義父をそこに埋めるのである。少年は鼬に憑依し鼬の目線で世界を外側から観察する。

物語には独特の世界観が存在していて、1つ1つが独立しているようであり、繋がっているようでもあった。
最初の元寇の話しが始まりで、あの女巫術師の子孫と、彼女が連れていた鼬が関係しているのかもしれない。異能力の使い方が秀逸で、思わず物語世界に引き込まれていく。ハリーポッターよりも、個人的には面白いと思うのでした。

2020 6/7


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