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感想 チワワ・シンドローム 大前粟生 強者は叩かれる、故に弱くなりたい。こんな思想が蔓延していたの知らなかった。

たぶん、この小説は万人受けしないと思う。
でも、着眼点は斬新だ。だから惹きつけられるものがある。

恋人が消えた。彼の服にチワワのバッチがついていた。
それを指摘すると態度が急変した。

これは彼の消息を探す物語であり、彼が消えた理由を明らかにするというミステリー形式の物語ですが、何かそれだけではないラインが複雑骨折しているような純文学でもあります。

ある日、知らない間に “チワワのピンバッジ” が付けられていたという呟きがネットに溢れた。その数、なんと800人以上!主人公・琴美の想い人も、被害者のひとりだった。そして、〈チワワテロ〉と呼ばれるこの奇妙な事件の直後、彼は姿を消してしまった。「僕のことはもう信じないでくれ」とメッセージを残して――。

そのラインを辿っていくと暴露系YouTuberの起こしたある事件が出てくる。

それはチワワの事件だ。
ミステリーの部分は隠して話すと、このYouTuberはある動画を発表した。
それはチワワを追いかけて少年が道に飛び出し車に跳ねられた動画だった。ひき逃げ事件である。
問題は、この撮影者の行動だ。興奮した彼は撮影に夢中になり、少年のことを考えなかった。救急車に通報することもしなかったのだ。少年は死んだ。それが問題になった。

それで、このYouTuberは叩かれた。
このYouTuberに対立するのが傷の会の人たちだ、彼らがやっている活動がチワワテロ。

さて、本書のモチーフに戻るとします。

「今の時代、強者は叩かれるべき存在なんですよ。だから誰もがチワワのように弱い存在になりたがっているんです」

強者は叩かれる、故に弱くなりたい。こんな思想がZ世代に蔓延していたのか知らなかった。

『そのままの弱くて可愛い琴美で良いんだよ』

と親友は言う。

確かに、弱者はみんなに守ってもらえる。チワワみたいにかわいく生きていたら何の苦痛も感じなくていいのかもしれない。

でも、それは対等なのかと感じてしまう。
昭和世代の先輩に、好きな女性像を聞くと、かわいくて少しぼんやりしている女性などと言う人が多い。

男も女も この時代の人の恋愛は 守ってあげたい というのがベースになっているように最近感じる。
それは対等ではない。
母親が子に対する感情である母性とかと同じだ。

チワワのような弱弱しい存在でいたい。
何て軟弱なと中年になった僕は思う。
確かに、強者は少しでもミスをすると揚げ足取りをされて叩かれる。潰される。
出る杭は打たれると言うことわざがリアルに、この世界に存在している。

ならいっそのこと、チワワみたいな弱者になりたい。弱者にやさしい日本社会なので、チワワは大切にされる責められない。その発想はわからぬでもないが、でも、それは形だけであり、実際はこの世界は弱肉強食の世界だ。少しでも気を抜くと潰される。弱者を食い物にする輩は無数にいる。

チワワになりたいなんて言うな、ライオンになれと僕はZ世代に言いたい。
と主張する僕は、よく鳴くスピッツ程度の人間なんだが・・・・

2024 3 27
++++



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