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CDショップ大賞 13年の葛藤と変化と前進について

ミュージックソムリエ協会が運営している、CDショップ大賞。有り難いことに、ご存知でいらっしゃる方も増えてきていますが、その中で、一部の音楽ファンの方からは、”最初の頃は尖っていたけど、最近メジャーな作品ばかり” というようなお言葉を頂戴することがあります。
2009年から開催している、この賞に対し、何かスタンスが変わったとか、大人の事情が絡んでいるということはありません。ただ、変化はしています。
3月23日の第13回CDショップ大賞2021を前に、そのあたりの話を書いてみました。


CDショップ大賞とは

全国のCDショップ店員の投票だけで選ばれる年に一度の賞です。
メジャー、インディーズを問わず、CDショップの現場で培われた目利き耳利きを自負し、選考に際して個人的な嗜好に偏る事なく、賞をきっかけに店頭から全国に向けて発信出来るような本当にお客様にお勧めしたい”作品を“大賞”として選出していきます。CDショップ大賞をはじめ様々な賞を通して、新しい才能、素晴らしい作品、そして誰かの人生を変えてしまうかもしれない作品を、伝え届けることを目指します。
CDショップ店員が「行かなきゃ 会えない 音がある。」というスローガンのもと、一般の音楽ファンの方々に素晴らしい作品やアーティストとの出逢いをもたらすような賞でありたいと考えています。

店舗の様子

大賞は、2019年から2種類になりました。

≪赤≫何回でも聴きたい素晴らしい作品
=#神アルバム(と呼べるような作品)

≪青≫新人の中で素晴らしいアルバム。
店頭から全国に向けて発信出来るような賞をきっかけにブレイクが期待される“本当にお客様にお勧めしたい”作品

投票資格は、新譜を扱うCDショップの店員で、雇用形態は問いません。

2009年に賞を創設した時には、‟この国には過小評価されている音楽が多すぎる”というスローガンのもと、“ネクストブレイク”を標榜する側面もあったのですが、その意識も持ちつつも、10年を越えたところで変化も出てきました。そのキッカケとなったが、2017年に行われた、第9回CDショップ大賞2017でした。

▼第9回CDショップ大賞2017授賞式  準大賞 Aimerさん

Aimerちゃん(宇多田)

2017年大賞 宇多田ヒカル インパクト

過去の大賞受賞者も、お茶の間に浸透している方が多いですが、受賞したタイミングでは、”いよいよ!” という、本当にブレイク手前という印象がありました。
例えば、2016年の星野源さん。受賞前から既にフェスの常連アーティストで、大きなステージにたくさんのお客さんが来る人気者で、俳優としてもご活躍されていました。しかし、2016年当時は、お茶の間まで完全に浸透し、誰もが星野さんの曲を口ずさむ、というところの手前…。そんな感触でしたので、ネクストブレイクという言葉は、本当にギリギリのセーフかなと思っていました。

▼第8回CDショップ大賞2016授賞式 大賞 星野源さん

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しかし、その翌年、第9回CDショップ大賞2017 大賞は、宇多田ヒカルさん「Fantôme」が店員の投票で選ばれました。これは私(ミュージックソムリエ協会理事長/CDショップ事務局長)にとってかなりの衝撃で、お茶の間にこれだけ浸透しているアーティストなのに、なぜ店員が大賞に選んだのかが、最初は分かりませんでした。そのため、宇多田ヒカルさんに投票した店員の中から、数十名に電話して理由を尋ねました。

≪店員に尋ねた結果≫
単に売れたからではなく、作品の良さや素晴らしさについて、かなり熱く語っていました。
また、一部の店員からは、質問の電話をしてくること自体、愚問だとお叱りすら受けました。


店員の推薦コメントにも以下のようなことが書かれていました。

これほどCDショップ大賞の主旨について悩み抜いた年は無かった。 けれどやはり宇多田ヒカルの新作はコレからのシーンにおいて 抜きん出た先進性と圧倒的な存在感、そして音像感を魅せつけてくれた。 何より選んだのは【次作はもっと凄いものになりそう】という 確信をくれたことへの賛辞の証なのです。(フタバ図書サウンドGIGA&TERA福岡 大畑 亨)

楽曲の作りの面白さや、音の良さは勿論ですが、歌詞と歌声に胸が震えました。人生と向き合って向き合って向き合って、生まれたのが伝わってきました。聴いている時間は命の塊を浴びてる様でした。心底感動しました。(TOWER RECORDS苫小牧店 小林 由果)

YouTubeの公式MVや各種サブスクリプション、配信などにより、アルバムの中でも表題曲だけを聴いて、アルバム1枚を通して聴く機会は、15年ほど前と比較しても減っていると思います。
それが良いか悪いかは別として、CDショップ大賞ではアムバム作品に対しての賞を授与していますので、アルバムそのものをもっと評価したい、そして聴いてもらいたい、という想いがあるのではないかと思います。

2017のお店


CDショップ大賞実行委員長である、銀座山野楽器の仲西正代さんの昨年、第12回CDショップ大賞2020の授賞式に際してのコメントの一部です。

CD ショップ大賞がスタートした頃に比べ、選出作品が、「もうすでに売れてるのでは?」という声をいただくこともあります。しかし、売場にいると、(CD という) パッケージを持っていらっしゃらない方もまだまだ多く、毎年の各賞発表後、その情報を もとに、取り上げられたアーティストの作品を購入される方が多数いらっしゃいます。そんな方へのきっかけに CD ショップ大賞がなっていると実感できる嬉しい瞬間です。

以前は、CD といえば音楽を聴くためのツールでしたが、今は配信など様々なスタイルが選べることにより、CD 自体「ALBUM」と呼ばれている通り、写真のアルバムを見るように、音を聴いて、ジャケットを見て、あの頃はこうだったなあと思いを馳せる本来のアルバムという言葉の由来であるように、手元に残しておきたい、まさに眼で見る「ALBUM」としても存在しているのではと思います。

今回も大賞はもちろん、入賞した作品、入賞に至らなかったけれど素晴らしい作品がたくさんありました。第 1 回からのテーマである、この賞をきっかけに本当にオススメしたい、ネクストブレイクを作品をピックアップする。という主旨は変わりません。

▼第12回CDショップ大賞2020 大賞≪赤≫  Official髭男dism

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賞を分けてみた

宇多田ヒカルさんの一件で、音楽の聴かれ方や、作品やアーティストに対する店員の想いを改めて知ることになりました。
CDショップ大賞の大賞アーティストが既に一定の認知度のある方になったとしても、入賞アーティストには、ネクストブレイクと呼べるような方もたくさんいます。

第9回CDショップ大賞2017 入賞アーティスト
『EXIST!』 [Alexandros]
『D.A.N.』 D.A.N.
『fam fam』 never young beach
『woman’s』 My Hair is Bad
『君の名は。』 RADWIMPS

しかしながら、大賞アーティストに注目が集まるのも当然のこと。有名な方だけではなく、今後もっと活躍が期待出来る方たちの名前も、各種メディアなどで扱われるようにしたい。そこで、2018年から大賞を2つに分けました。それが、≪赤≫と≪青≫です。

≪赤≫ 何回でも聴きたい素晴らしい作品
=#神アルバム(と呼べるような作品)

≪青≫ 新人の中で素晴らしいアルバム。
店頭から全国に向けて発信出来るような賞をきっかけにブレイクが期待される“本当にお客様にお勧めしたい”作品

どちらの賞にも、キャリア●年などの厳密な規定は作っていません。
そのため、デビュー1年目の作品が≪赤≫になることもあります。確かなことは、ショップ店員が、自信を持ってお客さまにお勧めしたい、もっと知ってもらいたい作品が、これからも受賞していきます。

▼第11回CDショップ大賞2019 大賞≪青≫ 折坂悠太さん

折坂くん

ちなみに、赤と青の由来についてですが、最初に賞の名前を考える時に、金や銀などの順位を彷彿とさせるものや、無味乾燥なものは避けたいなと思いました。そのため、季節と色を想起させる、古代中国の陰陽五行思想を参考にしてみました。陰陽五行思想では、四季の呼び名に色をつけて表現します。日本でもよく知られている‟青春”という言葉も、ここから来ています。

陰陽五行思想を参考にし、これからブレークが期待されるアーティストに贈る賞には、フレッシュな春のイメージを持たせる≪青≫と命名。
≪赤≫は、春の次の季節、夏を表す言葉‟朱夏”に由来しています。夏は、人生の盛り上がりをイメージさせます。何度でも聴きたいような、気持ちを盛り上げてくれる作品を作ったアーティストには、夏のイメージが相応しいのではないかと思いました。本来は、朱色ですが、青と対にした時の分かりやすさなども加味して、命名しました。

お店の様子3


微力ではありますが、各アーティストに対する我々の出来る精一杯の援護射撃はこのくらいですが、世の中の流れなどを見ながら、少しずつ変えてはいます。

▼第12回CDショップ大賞2020 大賞≪青≫  カネコアヤノさん
授賞式の際にインタビューを受けている様子

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これからの話

毎年、賞を運営するだけで手一杯ですので、ここ10年以上のことを振り返って、お話することがありませんでした。ミュージックソムリエ協会は、音楽ジャンルを問わず、楽しむ機会を作ることを目指して活動しております。
レコード会社からは、フリーペーパーに載せる広告宣伝費は頂いていますが、運営のための資金は頂戴していません。

私(ミュージックソムリエ協会理事長/CDショップ事務局長)は、レコード会社に長く在籍をしていたのですが、会社員時代から営業で行くCDショップには、現場ならではの視点での考え方やプロモーションなど、教えて頂くことがたくさんありました。リアルの中で、ひとと触れ合いながら音楽を知ることが出来る場所の一つがCDショップかと思います。今後も、続けていきたいと思いますので、温かく見守っていただければ幸いです。

▼第10回CDショップ大賞2018 準大賞 台風クラブ/PUNPEEさん

台風クラブとPUNPEE

最後になりますが、インディーズアーティストの方から、「CDショップ大賞対策できる」という感じのコンサルが存在するという話を時折、聞きます。我々は、そのようなコンサルには一切関与しておりません。
また、賞レースには、一切関係ありませんが、もしも何か困っているアーティストの方は、ミュージックソムリエ協会にも相談してください。

いよいよ、3月23日に第13回CDショップ大賞授賞式が行われます。大賞発表は、式で発表されます。こちらは、YouTubeで配信いたしますので、みなさまご覧いただければ幸いです。


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