「ぼくは悪い子だって、先生がゆったんだ!」広汎性発達障害の男の子との出会い
ある日、保育園に通う男の子のお母さんから、
体験レッスン申し込みのお電話がかかってきました。
「うちの子は広汎性発達障害です。
とにかく頑固で言うことを聞きません。」
なるほど・・・
🌼 🌼 🌼 🌼 🌼
数日後、こうくんが初めて来てくれた日。
こうくん⇒ドンドン!と大きな音を立てながら部屋に入り、
私に背中を向けて腕組みして、あぐらをかいて床に座り込む。
お母さんが声をかけても、知らん顔。
ここでまず優先すべきは、お母さんの気持ちです。
どんな展開になっても、ピアノをスタートさせたいのかどうか?
お母さんは、
・ピアノをスタートさせたい。
・ピアノを通して、辛抱してがんばる力をつけてほしい。
・大人になった時の趣味にしてあげたい。
そんなことをおっしゃいました。
私はお母さんに了承を得るために、お話をしました。
「今からこうくんに、この態度は間違っていることを伝えます。」
・泣くかもしれないけど最初が肝心なこと。
・最初は許されて、もし通うことになった時、
2回目に違う対応をされたら子どもは混乱すること。
を説明しました。
こうくんには、
・教室に来たらちゃんと座ること。
・私の話をよく聞くこと。
・立ってウロウロしないこと。
・そうじゃないとピアノも弾けるようにならないし、
お勉強もできるようにならないこと、を少し大きな声で言いました。
「よそのおうちに来て、ご挨拶もしないで知らん顔は失礼です!」
とはっきり伝えました。
他のことならともかく、ピアノを習いに来て、先生の話が聞けない、
指示に従えないのでは、何も進みません。
子どもは叱られたと思うでしょう。
かわいそうだし、自分も辛くなる。
でも正しいことを、初対面だから、良く思われたいから、と、
言えない先生はダメだと思うのです。
子どもについていくのではだめです。
ついてきてもらわないと。
それは相手を理解しないで、力で押さえこむことではありません。
ずっとひとつのことを長く続けていくためには、
お互いに尊重し合える関係を作って行くことがとても大切です。
お母さんのご希望に添うためにも。
でも叱りっぱなしはダメです。
なぜ叱られたのか、どうしていくことが良いことなのか、
ちゃーんとわかるまで説明します。
子どもたちは、みんな納得してくれます。
音楽だけじゃなく、マナーも集中力も思いやる心も身につけてほしい。
ゴメンね、こうくん。
・・でも、こんな風に涙を流すのは、心を一度洗うことにもなるのです。
案の定、号泣しました。
そして泣きながら、
「ボクはいい子じゃないもん。〇〇保育園の先生が、
ボクは悪い子だ、ってゆったもん。」
と言いながら、泣きました。
それを聞いたとき、私は胸が締め付けられそうになりました。
こうくんはお母さんに抱きついて泣きました。
今度は私は静かに話しました。
「違うよ、それはその先生が間違えたんだよ。
こうくんはとてもいい子だよ。」と言うと、
今度は私に抱きついて、また泣きました。
しばらく泣き止むのを待ちました。
だいぶ泣いてスッキリしたのか、笑顔が戻ってきました。
そして、お母さんにも促されて椅子に座りました。
🎈 🎈 🎈 🎈 🎈
さあ、これでスタートが切れるのです。
こうくんには、私の真剣さが伝わった手ごたえがありました。
その日はピアノにさわったり、歌を歌ったり、
いろんな体験レッスンをしてサヨナラしました。
そして次に会ったこうくんは、とても素直で最初とは別人でした。
いえ、これが本来のこうくんなんですね。
ピアノがスタートしました。
それから数ヶ月・・
ホントに同じ子?
時間をフルに使い、机とピアノの間を
何度も素直に移動できるようになりました。
しんどくても飽きてきても、がんばろうとしてる気持ちが
伝わってきます。順応性が芽生えてきています。
指示に従えないのか?従いたくないのか?
それはなぜか?
もしくは指示そのものが理解できないのか?
この辺を見極めることも大切です。
この当時、お母さんの書いてくださったレッスンノートです。
「ピアノに行き始めてから、しなくてはいけないことや、
ここではワガママもかんしゃくも通らないという事がわかってきた。
ピアノに行く日はかんしゃくが少ない。
親としても、短期でこれだけの成長が身近に見れてとてもうれしい。」
こんな風に書いてくださっていました。
大変大変、恐縮です。
帰りのお片づけもできます。
いろいろできるんだ。
やんなきゃボク。
見てるとそんな声が聞こえる気がします。
でも、これはおうちで、お母さんが何度もこうくんに話してくれた
その成果なのです。来る前も話してくれています。
ちゃんとがんばること。
それから、宿題も練習も、おうちでしっかりやってきてくれています。
なので、レッスンでは次へ進むことができます。
お母さんと、私と、子どもの、3者の連携が上手く行くと
進み始めます。
レッスン中は、私に丸ごと任せてくださっています。
お母さんの一生懸命さは、子どもの素直さにつながっています。
楽譜を覚えたり練習や宿題の習慣がつくまでは、
小さい時はおうちでのお母さんのサポートなしでは
なかなか順調に進みません。
ホントにホントにありがたく思っています。
こうくんはいい子だよ。
どんな子どもたちとの出会いでも、まずいい子
って決めてスタートする。
まず認めることからスタートする。
こんなとこあります、困ってます・・はよく伺いますが、
お母さんは子どもたちに、ちょっとでも良くなってほしいと願っています。
それは本来はいい子だと、心の奥深くで、
実は無意識にわかってるからだと私は思います。
いつもいつもこんな風に上手くいくとは限らないけれど、
山に登るルートがひとつではないように、
いろんな方法を試みて、なるべく早く、できればなるべく楽に
子どもたちに山を登ってもらえたらな~って願っています。
がんばります!
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