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ピアノ伴奏者の心得 その1

アンサンブルで演奏するのは、ソロで演奏するのとは随分違う。どちらが好きかは人によると思うが、他の楽器と音を重ねることは、ピアノソロでは到達出来ない音楽の醍醐味を味わわせてくれる。

アンサンブルは、ソロで弾くときとは違ったアプローチをする必要があるので、今回は、伴奏で合わせる前の練習法や注意点について書いてみる。

1、運指

ピアノ伴奏譜には、運指が載っていないことが多い。古典的な楽曲ならそこまで苦労はないが、これが現代ものであったりすると大変だ。しっかり決めておかないと、後々余分な労力を使うことになるので、譜読みの段階で書き込んでしまった方が良い。ここを疎かにしないでやると、短時間で弾きこなせるようになる。

2、テンポ

楽譜を貰う段階で、ソリストからある程度のテンポ指定があれば、聞いておくと良い。in tempoで機械のような正確さが求められる曲の場合、メトロノーム必須となるので、出来るだけ完成テンポイメージを共有しておくと、合わせるときに楽だ。勝手なテンポで練習してしまうと、後々苦労する。一般的に、遅めのテンポから速くするよりも、一度速いテンポでやってしまったものを遅くする方が、やりにくい。
また、最初の個人練習のうちは、出来る限りニュートラルな弾き方をしておくべきで、変な癖を付けないよう、注意する必要がある。勝手なrubatoをかけたりしないことはもちろん、rit. accel. なども楽譜通りに入れ、ソリストの要望によって、いくらでも変更出来るよう、柔軟に弾けるようにしておく。
ピアノソロばかり弾いている場合、例えばフレーズの最後は無意識にrit. してしまうなど、癖がついてしまっている場合があるので、伴奏はピアノソロとは別物と考えた方が良い。ソリストが望んでいるのは、自分の演奏を支え引き立ててくれるピアノ演奏であって、自己主張の激しいピアノではないからだ。

3、強弱

強弱も出来る限り楽譜に忠実に、妙な解釈を加えずに付けた方が良い。合わせの段階で、ソリストとコミュニケーションを取りながら、楽器とピアノの音量バランスを整えていく。如何様にも変更できるよう、柔軟な対応が必要。ピアノ伴奏は、単にソロ楽器より控えめに弾けばいいというものではなく、主張するところは主張する。そのバランス感覚が上手いアンサンブルを作る。
ひとつ参考になることがあるとすれば、cresc.をかけるときはソロ楽器より遅めに、逆にdim.の場合は早めにかけると、音楽がより魅力的に聴こえる場合が多いということだ。

4、ピアノパートだけの部分

ピアノもソロ楽器と同等な役割を持つ、まさにアンサンブルといった曲の場合、長いピアノソロパートがあったりする。これは腕の見せどころなので、自由度が増す。ただし、極端にrubato をかけたりすると、曲全体のバランスが崩れてしまうこともあるので、その辺りは制御が必要。

5、リズムの取り方

アンサンブルの場合、僅かなズレで致命傷になったりするので、リズムは出来る限り正確に練習しておく。特に複雑なシンコペーションや、連符が混ざる部分など、適当に流れてしまわないよう注意。またソロ楽器のパートも確認し、重なる音など意識しておくと、合わせるときにスムーズに進む。リズムの正確さはアンサンブルの良し悪しを決める大事な要素。

6、参考音源を聴く場合

音源を探すことは簡単だが、ソリストが同様の解釈でその曲を演奏したいとは限らない。あまりひとつの演奏ばかり聴いていると、それが耳に残り、無意識に同様の間の取り方などしてしまうようになるので、あくまで参考程度に。大抵の場合、楽譜に忠実に仕上げておくのが、ソリストも一番やりやすい。最終的には派手に仕上げたい場合でも、それはソリストと調整しながらやる作業なので、ひとりで勝手な解釈は加えないように。

7、最も重要なこと

普通、伴奏者の予備は準備しない。つまり、休んだときの代役はいないのだ。本番は当然のことながら、リハーサルやレッスンの同行なども含め、事前に打ち合わせしたスケジュール分は時間を確保し、体調管理をし、例え少しぐらい調子が悪くても、普段同様のパフォーマンスが出来ないといけない。もし伴奏者が本番に出演出来ないような事態が生じたら、ソリストも、コンサートやコンクールで演奏出来なくなってしまうのだ。この責任重大さが理解出来なければ、引き受けない方が良い。



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