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むるめ辞典

■風景

[読]ふうけい

風の景

[例文]
広島の祖父の家からは、鉄工所の高い煙突が見える。

「はだしのゲン」を読みながら、その煙突をよく見ていた。

もし原爆が落ちてくるなら、あの煙突を目がけて落ちてくるかもしれないと。

戦争と原爆と孤児の想像の景に震えながら、ぼんやり見ていた。

夢の中で落ちてきた原子爆弾は、鉄工所の煙突より上の方で爆発した。重たい煙のような光がスローモーションでこっちに向かってくる。僕たちはそのビカビカに光る空が落ちてくるのを見て、裏手の川めがけて逃げだした。

その川はいつの間にかダムのような作りになっていて、滑り落ちた水底はシェルターに繋がっていた。それで無事に逃げ切ったのは私と弟だけだった。

祖父の家に来て、この煙突を見るたびに、当時よく見ていたこの夢を思い出す。

被爆者である祖父は、これまで一度も戦争の話をしてくれたことはない。きっとこれからもしないだろうと、今ならわかる。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。