消しゴムで消した嘘

仕様もない嘘をつく大人っていますよね。うちは父親がそういう人だった。

「昨日食べたバッタがお腹の中で動いてる」とか「あそこの川を渡る大きな橋はうちの親父(私の祖父)が1人で作った」とか。

ちょっと真に受けてしまいそうなことをサラッと言ってしまう父親。初めて花火を見たときに「あれは空の上で大きな花が焼かれてるんだ」と言った。

町の大人が、大きな花を作っては投げ、作っては投げて。あ、あれは俺が作った花だ!きれーだなー、なんて言っていた。

翌年の夏休み。

花火大会を見にいけなかった私は想像の中でその様子を絵日記に書いた。

上手にかけたので、母に褒めてもらおうと思って夏休み最後の日に見せた。もしかしたら、先生にも気に入られて作文コンクールなんかに出されてしまうかもしれない出来だわどうしよう。ドキドキする。

でもそれを読んだ母は「日記に嘘を書くんじゃない」と私を厳しく叱った。なぜ怒られているのか分からなかった。

その絵日記のページは、消しゴムで全部消した。色鉛筆がなかなか消えなくて、紙がしわくちゃになるまでこすった。涙がポタポタこぼれてとまらなかった。

今でも覚えているんだもの、ショックだった。それで私は父親になんとなく不信感を抱き、母に褒められたいと思った自分を恥じた。

自分を恥ずかしく思うことが積み重なると、考えとか気持ちを率直に表現することができなくなっていった。そういうのを隠すことを少しずつ学んだ。

成長するにつれて覚えたテクニックもあった。上手に振る舞えず体と心が離れていく感じがしたが、なんとか現実に踏みとどまった。

大人になった。

どんな大人になったかというと、なんと、仕様もない嘘をつく大人になった。自分の子供に、いつかの父と同じようなことを言っている。

くだらない事を考えたり、ダジャレを言ったり、これが遺伝なのか。

それとも離れていった心と体を冗談で繋ぎとめようとしているのか、自分でわからない。

とにかく楽しめるだけ、思いつく限りのくだらない話を家族にしている。そういう話をここにも書くつもりでいる。

もう消しゴムで消す必要はないはずだから。




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