むるめ辞典
■取手
[読]とって
ティファールのような余生
[例文]
手にフライパンを持って、口の端が片一方だけ大きく広がった、特徴のある笑顔で台所にたつ母の写真があった。
写真の中では、赤いセーターを着た母を陽の光がよい加減で明るく健康的に写していて、取手がとれるティファール社製のオレンジ色の大ぶりなフライパンが火加減よく魚を煮ていた。
離婚だなんだと普段言っていても、必要なときに手をとっていれば、それだけでいいのになと、この写真を見て私は思う。
父がこれからの人生、自分のことをフライパンの取手だと思って生きていけば、いろんなことが随分楽になるんじゃないかと考えてみる。くっついたり離れたりしていく人生だ。夫婦円満のためには悪くないかもしれない。
でも、うまい言い回しも思いつかないし、本人が納得する姿も想像つかないし、きっと余計なお世話だろうから父には何も言わないでおく。それにもし私だったら、ちょっとその余生は嫌だもんな。
サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。