マガジンのカバー画像

風をあつめて

34
エッセイ
運営しているクリエイター

#ショートショート

目と耳の間、人間の行為について

タレスという人をご存知ですか? 記録にある限りでは、世界最古の哲学者、つまり人類で最初の…

7

気を引き締めた貝

本当は先週終わらせておきたかったですよね、と私は言った。 それでカチッと音がした。 地雷…

8

アンガー・マネジメント

久しぶりに会った友人が二人、我が家に遊びに来て、ダラダラと昼から酒をのんでいた。テレビで…

10

最大の弱点

人には弱点がある。 柔道のオリンピックメダリストの谷亮子さんは相手を一目見ただけで相手の…

12

早く夏が終わればいい

毎朝の通勤で自転車を漕ぎながら道ゆく建物を眺めるのが好きで、ある空き地に新しい一軒家が建…

14

そのときだけのもの

いつも明るく笑う女性に、太陽みたいな匂いがするから好き、と言われた。私からみたら彼女こそ…

11

むるめ辞典

■望郷 [読]ぼうきょう 望む郷 [例文] 祖父の船で無人島へ行った。 浜では子供たちが焼けた砂の上に散らばった貝の殻に足を刺されて喜んでいて、海辺では水と戯れる大人が心を洗っている。 素潜りに出て海中で一匹の亀になったような無心の目で牡蠣を見つける。銛ではぎ取る。漂う蛸を追いかける。とうとう捕まえる。エイには気をつけろ、と祖父は言う。岩肌の付近にいれば安全だからと子供は沖に出られない。 はるかに砕ける磯波を超えて、緑と青に彩られた瀬戸内の平坦な海面に美しく生い茂る

あとでいいや

外は雨がシトシト降ってアスファルトを黒く濡らしている。雨用の靴を買おうといつも思っている…

19

習慣の教師なり

暇ができたらあれをやろう、これもやろうとひそかに浮かんでいた思いつきなんて、時間を持て余…

22

走ることの本質

ランニングしてますか?私はしてます。この時期の朝夕は気持ちの良い時間が続きますね。 最近…

20

ステイホーム・ライオン

ゴリラに両手で絞り上げられたみたいに胸をしめつけられている。 妻が娘に勉強を教えるのを横…

7

鯉のぼり

風のない日だった。 娘とサイクリングの帰り道。 太陽が西の空を淡い色調に燃やしながら山際…

10

スマートにフェンスを越す

太陽は限りなく金に近い橙の柔らかい色に空を染めながら川の上流に向かって沈みつつあった。 …

9

美人の恥じらい

風呂桶に足を突っ込んで、冷たさのあまり「小さくなる〜」と言った娘の、成長して大きくなった足をみた。 細く伸びた白い脚の先端にさりげない添え物みたいな爪が生えていた。そろそろ切りどきといえる長さだった。爪というのは果物みたいなものできちんと時期というものを持っている。 妻がその爪を切った。 二人は何も言わなかったのでパチンパチンという音だけが聞こえた。 それをみていると細雪という小説の中で妙子が雪子の爪を切っているシーンを思い出した。 私はこの一瞬、姉妹の美しさに感じ入