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「後継者」のはじめに

まだ、夢を見る

先日、末娘の風邪をもらってしまったのか、体調を崩した。幼児2名を含む子供3人を抱える我が家で、私と妻のどちらかが体調を崩すとなかなかの大事になる。妻に対して申し訳ない気持ちを抱きながらも、強めの倦怠感には抗えず、ただひたすら寝続けた。

継いだ会社を経営していた時の社員の1人である、Mさんの夢を見た。Mさんは独立して和装関連の事業を個人で営んでおり、自宅に訪問して仕事場の様子を拝見したり、奥さんやお子さんと和やかに触れ合うという夢で、なかなかの長尺であった。

Mさんは私が入社して1年3ヶ月後にリストラで辞めてもらった社員だ。その時のリストラには面談を含めて直接的に関わっていないが、人員選定の会議には同席していたので、事実上後継者が選んだと思われていても仕方が無いだろう。実際、当時の私はその選定で良いと思っていた。
Mさんの奥さんと会ったことがあるかどうかの記憶は定かでは無い。当然だがMさんを含めてリストラの対象となった人、またはそのご家族から良く思われる要素は1ミリも無い。そのため、狭い京都の街中でふと出会った際に、何とも言えない目で見られることはそれなりにあった。そんな人の夢を何故今更見たのか。

その3日前、同じく私が継いだ会社から独立したBさんと食事に行った際に、Mさんの話が少し出たからであろう。特に印象的なエピソードが出たわけでも無く、私とMさんとの関わりに特別なことがあったわけではない。

今でも、8時間以上寝ると、継いだ会社を経営していた時の夢を見る。それも、それなりに達成感のあった瞬間では無く、誰かに憎まれ、嫌われていた時のことや、焦りや切迫感から社内で空回っていた時のことばかり、夢を見る。

後悔していることは無く、あの状況下であれ以上の結果を出せる人はそうそう居らんでしょ、とは今でも思う。もちろん、私より優秀な経営者は星の数ほど居るが、その人たちが私が継いだ2006年のあの会社にやってきたら、即、民事再生の申し立てというジャッジ以外には無いだろう。あまりにも未熟で、何の経験も無かったため、四苦八苦しながら12年間かけて辿り着いた結末が、祖業の売却と、その1年後の事業売却と特別清算であったのだ。

でも、まだ当時の夢を見る。自分で辞めていった人も、リストラで辞めてもらった人も、事業売却で転籍していった人も、酒の肴に昔話をすることはあっても、その当時のことをここまで夢にまで見る人は少ないだろう。
みんな、今を生きているはずだ。

全ての事業を売却して5年が経とうとしているのに、自分が次に賭ける何かを掴みきれていなかったこともある。ただ何よりも、勝ったのか、負けたのか、そのどちらでも無いのか。自分の中で結論が出せていないことが、一番の原因なのかもしれない。

実際、祖業を売却し、その後に会社自体も特別清算したことで周りに居た9割以上の人間は離れていった。その業種ではそこそこ大店の後継ぎであったから取り入る価値があると思われていただけで、自分自身に何があるわけではなかったし、逆に言えば残りの1割の人たちとは、そういうことを抜きに付き合える関係性が残ったとも言える。

一方、流れに身を任せる中でコンサル業を主として営むようになり、オファーをくださる方々からは、凄いことを成し遂げた後継ぎという扱いを受ける。自分の会社でも「それ」を是非再現して欲しいと、息子、もしくはその父親からオファーされるのだ。「それ」というのは借金は山盛りあるけど、どうにかそれを無かったことにして欲しいみたいな話で、再現性が全く無い話なのだが。

一方の人間からは負けて、終わった人間扱いをされ(「終わってる人たちに終わってるって言われてもええやんけ」って友人の清水君が言ってました。私じゃありません。)、もう一方には安くないフィーをもらってコンサルをするという、両極端の評価を受けたことで、一体自分がやったことは何だったのか、自分でもよく分からなくなっていたのだと思う。

ちょっと痛い人

約20年前にはSNSの走りであるmixiやGREEで、みんな匿名や実名で愚にもつかない文章を書き散らしていたものだが、時が経ち40歳を超えて周りを見渡すと、実名でブログを書いたりSNSで積極的に発信をしている人間はかなり減った。営む事業や活動によって、プライベートも含めて発信する必要がある人間はせっせと業務の一環として発信に努めているが、本当のプライベートでそれをやっている人は、私を含めてちょっと痛い人しか居ない。

例えば子供の立場に立って考えてみると、自分の親が実名であれやこれやと発信していると知った時、あまり良い気はしないであろう。それが仕事のことならまだしも、家族のことや、ましては自分のことを全世界に向けて発信していたら、何しとんねん、おっさんとなるのは間違いない。
例:それでもぼくらが子供を育てる理由
(ちなみにこの投稿は本人の許可を得ており、本人も読んでおります。)

私の父方の祖父母は本を読むことが好きで、文章を書くことも好きだった。祖父母が金婚式を迎えた際に父と叔母はハワイ旅行をプレゼントしようとしたが、自費出版で孫たちを含めた家族の手記を出したいという要望を出したぐらいだ。

母親も本の虫で、病気がちではあったがよく本を読んでいた。手紙を書くことも好きで、病気になる前も、なった後も、自分の姉や家族に向けて手紙を書いていた。

父親はこの文脈で言うと完全にちょっと痛い人で、義父から会社を継いでから毎月25日の給料日に合わせて「今月のことば」という社内向けのメッセージを出していた。父が経営していた10年間は、社内外問わず色々な事象が起こっていた時代なので、それらの意味や背景、時にはかなり踏み込んだ事象への説明も記述されていた。父が亡くなってしばらく後に、自費出版で発行しようと試みたが、父が懇意にしていた取引先からいくつかのエピソードは抜いた方が良いというアドバイスを受けたこともあり(端的に言うとそれは虚偽の記述であった)、立ち消えとなってしまった。

恐らく今生きていれば、会社のブログで発信したいと、秘書的な役割の人に手書きの原稿を渡して、アップロードさせていた可能性が高い。私は、そういうちょっと痛い人の息子なのだ。

書きたいことを書きたいように

誰かと比べて幸せなのか、不幸せなのか、恵まれているのか、恵まれていないのか、そういうことはどうでも良くて、自分は何を考えて、何が好きで、何が嫌いなのかを好きなように発信することを自分の趣味としてやっていくことにした。

会社を継いでから特別清算で吹っ飛ばすまでの顛末を、コロナの時期に結構なボリュームで一度書き上げ、その後に中身をかなり削ぎ落としたものを掲載していたのだが(今日、非公開にしました。)、自分の中でこれをコンサルの集客に使おうという下心があったのが良くなかった。そもそも今までに関わった会社で世襲でも中小企業でもない会社の比率は10%も無かったし、その時に契約を獲得していこうとしていた会社はどう考えても世襲の中小企業であった。そんな中で、世襲はクソだとか、そもそも斜陽産業の中小企業に勝ち目は少ないとか公に向かって言えるはずがない。今、書いちゃってるけど。

資産がある金持ち会社は相続対策もあるので好きにすれば良いと思うが、清算出来ない、つまりは実質的に債務超過の会社を世襲させるなどという愚策はこの世から一切無くさなければならない。私怨の話ではなく、どこよりも能力が求められる場で、世襲という選択肢を取ってはいけないし、世襲という後継指名の選択肢しか取れない経営を続けてきた経営者を許すべきでは無い。

アトツギベンチャー?

自分で事業を立ち上げる気概と能力があるなら、親のリソースを使わずに自分でやった方が良い。中途半端にゾンビ企業を延命させようとするな。企業の新陳代謝促進のために、解雇の金銭解決制度の導入による雇用の流動化と、国による異常な延命策で生き延びているゾンビ企業を全て潰すことが重要なのだ!
異常な延命策と国の温情 of 温情の施策で自己破産を免れた私が、それらを声を大にして発信していこうと思う。全ての世襲はクソであると言いたいところだが、全てと言うと問題があるので、債務超過の会社は世襲するな、させるな!以上!

というようなテンションを持ちつつ、クライアントを獲得しようという下心も一切無くなった状態で、全てを成仏させるために月1ぐらいのペースで「後継者」を2回目のリライトをした上でいくつかのエピソードを出していきたいと思います。次に賭けるものも軌道に乗ってきたしね。

あと、特別清算に関連する話は、手続きが完了して3年が経つまでは外に出してはいけないという秘密保持契約もあったのです。今年、ようやく3年が経ちましたので、そこら辺は新しい話として出していこうかなと。

お付き合いくださいませ。

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