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「Yohji Yamamoto」と「内田すずめ」のコラボ作品に魅入られてしまった話。


 フリーランスライターの狭井悠(Sai Haruka)です。

 今回は「これが好き!」という熱い気持ちを込めて、noteをがむしゃらに書いてみようと思う。

 このコラムで語りたいのは、ファッションブランドとして世界的に有名な「Yohji Yamamoto」と「内田すずめ」という画家のコラボ作品との出会いについて。

 一言で言えば、僕は作品に魂を射抜かれ、魅入られてしまったのだ。


はじまり

 2018年1月18日。

 いつものように、Twitterを開いてタイムラインを見ていた。

 たしか、お気に入りのファッションブランドである「FENDI(フェンディ)」の古くからのデザイナーであり、「CHANEL(シャネル)」も手がけるカール・ラガーフェルドについて調べていたときのことだ。

 カール・ラガーフェルドが、日本のファッションブランド「Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)」の服を敬愛していることを知り、どんなブランドなのか、インターネット上でいろいろと情報をかき集めていた。

 以下に、Yohji Yamamotoについての情報を簡単にまとめてみる。


「Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)」とは

 1972年、株式会社ワイズを設立し、1977年、東京コレクションにデビューした山本耀司氏は、1981年、パリ・プレタポルテコレクションにもデビューを果たす。この時、同時に立ち上げられたのが「Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)」というブランドだった。

 1994年にはフランス芸術文化勲章「シュバリエ」受章、2011年にフランス芸術文化勲章「コマンドゥール」を受賞するなど、輝かしい経歴を持っている。時代に迎合しない、メインストリームへの反骨精神を持った「黒」を基調とする力強いデザインが特徴である。

 Yohji Yamamotoの愛好家は世界的にも多く、冒頭にも紹介したとおり、シャネル(CHANEL)やフェンディ(FENDI)を手がけるデザイナーであるカール・ラガーフェルド、ドイツ人映画監督のヴィム・ヴェンダース、ダンサーのピナ・バウシュといった著名人がYohji Yamamotoを愛用している他、日本では北野武氏が愛好家として知られており、映画「DOLLS」「BROTHER」「アウトレイジ」などの衣装にも採用されている。最近ではロックバンドのAlexandros(アレキサンドロス)のヴォーカルである川上洋平氏、俳優の斎藤工氏、EXILE&三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEの小林直己氏など、ファンは多岐に渡る。メディアアーティストの落合陽一氏が着ている服としても有名。


 このように、Yohji Yamamotoについて調べていたとき、一枚の写真に出逢った。そして僕は、否応無しに、その写真に映る服と絵画に魅入られてしまったのである。


Yohji Yamamoto 2018年春夏パリコレの衝撃

 ゆらめくシルクのコートの上に、妖艶に浮かぶ、紅色の灯火に染められた女性の姿。手にはキャンドルを持ち、暗闇の中から意味深な視線を遠くに送っている。

 この絵画を見たときに、僕は、ジョルジュ・ド・ラトゥールが1642〜1644年頃に描いたとされる「マグダラのマリア」(ルーヴル美術館所蔵)を思い出した。

 ジョルジュ・ド・ラトゥールの絵画に刻まれている静寂と示唆に満ちた雰囲気。時間の洗礼を受けたからこそ与えられたものであると思っていた、それらの重厚な魅力を兼ね備えた未知の絵画が、Yohji Yamamotoの最新作の服にプリントされている。

 僕は、控えめに言って、かなり驚いた。

 この、服にプリントされている絵画は、いったい、いつ、誰が描いたものなのだろう? 歴史的な画家の誰かなのだろうか?

 そんな疑問を抱きながら、導かれるように、Yohji Yamamotoの2018年春夏パリコレクションの写真をひとつひとつ見ていく。

 プリントされたどの絵画も、まるで幽霊画のような強烈なインパクトと、心の奥底に訴えかけるようなエネルギーを発している。そして、それぞれに描かれた女性の姿には、深いカルマ(業)が刻まれているようにも思える。どこか報われない想いを染み込ませた瘴気を放ち、それでいて「私はここにいる」と知らしめようとする強い執念を感じる。

 また一方で、女性の持つ奥ゆかしさや、海のように広い包容力を感じさせる作品もあった。どの絵画の女性も、まるで服の中で生きているかのように生々しく、魂を帯びているように感じられた。(コレクションの写真はファッションプレスの記事より引用)

 これらの写真を一目見た、その瞬間から、しっかりと間近で、これらの絵画を見てみたいと思った。

 まさに、魂を抜かれたような感じだった。

 そして、こんな壮絶な絵を大々的にプリントした服を世に出すYohji Yamamotoというファッションブランドは、なんとクリエイティブに貪欲なのだろう、とも思った。恐ろしい。ある種の畏怖に似た想いが溢れた。

 以下の動画で、2018年春夏のパリコレクションの発表風景を見ることができるので、ぜひとも参考にしていただきたい。

 これは、妙な表現だと思われるかもしれないけれど、2018年春夏のYohji Yamamotoパリコレクションで発表された服にプリントされた絵画群は、このような多くの人々の目に触れるような、光を浴びる場所に、本来であれば在ってはならないものであるような気もした。

 見るべき者だけが見ることを許される、森の奥深くの選ばれた場所に、厳かに、静かに、祀られるように鎮座されるべき絵画であるようにも思えた。それくらいに、これらの絵画に込められた想いの力は、軽々しい気持ちで扱うことの困難な、相当に強いものであるように感じられたのだ。

 しかし、この作品群はもうすでに、広くこの世に解き放たれてしまっている。運命の歯車は動き出し、もう誰にもその勢いを止めることはできないそのような、ある種の宿命的な何かの始まりを感じさせる絵画でもあった。


「内田すずめ」という画家の存在を知る

 これらの絵画を描いた人物を調べていて、さらなる驚きがあった。最初に絵画を見たとき、古い時代の名のある画家の作品なのではないかと思った。しかし、その作者は若く、美しい女性だったのである。

 「内田すずめ」さん。調べたときには、とにかく情報が少なかった。内田さんの母校である渋谷教育学園渋谷中学高等学校卒業生のインタビュー記事を載せたメディア「しぶしぶぶ」に記載されているプロフィール情報は以下のとおり。

画家。筑波大学芸術専門学群デザイン専攻を卒業後、広告会社を経て現職。画廊、百貨店、国外アートフェア、美術館など展示経験多数。複数の画家のモデルも務める。直近の展示情報はtwitterとfacebook、Instagramに掲載。

 なお、内田すずめさんは2015年に、グループ展「わたしの中の村上春樹展」へ出展されており、村上春樹氏の代表作「ノルウェイの森」からインスピレーションを得た、以下のような作品も描いている。

「 再会を探して 」紙本彩色 2015年 “ looking for reunion ” colored on paper, 2015(内田すずめ公式ホームページより引用)

 実は、僕は学生の頃から村上春樹氏の小説に魅了されていて、物書きとして強く影響を受けている。内田すずめさんの作品からシンパシーを感じたのも、どこか、村上春樹作品に登場する女性たちに通ずるような、儚げなイメージと重なったからなのかもしれない。

 なお、ここ数年、僕は狭井悠(さいはるか)という筆名で個人的に短編小説も書いている。書くのが好きであることが高じて、会社をやめて、昨年からフリーランスライターとして独立してしまったほどだ。

 僕が個人的に書く小説の中に出てくる主人公は女性であることが多い。都会の中で孤独に生き、暗いものを背負いながらも希望を見出そうとする女性たち。僭越ながら、僕が小説の中で書きたい女性像を具現化したような世界観を、内田すずめさんの作品は持っていらっしゃるように感じた。

 絵画に魅入られ、たまらず連続でツイートをする。以下に、当時つぶやいた内田すずめさんの関連ツイートを並べてみる。

 当時のつぶやきの中にもあるけれど、『美術を纏う』という発想に衝撃を受けた。

 メタルバンドなどのTシャツではアートワークが派手なものが多いし、絵がプリントされた服というのは世の中にすでにたくさん出回っており、特に珍しいものではない。

 しかし、Yohji Yamamotoと内田すずめさんのコラボ作品は、単なる絵柄のプリントではなく、シルクの服の質感と、絵画の放つオーラがひとつの作品として合体し、昇華されているように思えたのである。

 そして、集中して関連したツイートをしたからか、内田すずめさんご本人からTwitterでフォローバックもいただき、感激する。

 このような経緯があり、内田すずめさんの個展に、必ずお伺いしようと決意した。同時に、Yohji Yamamotoとのコラボ作品の服もできれば手に入れてみたいという想いが湧き出してきた。

 しかし、ヨウジヤマモト名古屋パルコ店に電話してみたところ、1月の時点では予約でいっぱいの状態で在庫がなく、キャンセル待ちとなっていて、服を確保できる約束はできないとのことだった。

 2018年春夏のYohji Yamamotoと内田すずめさんのコラボ作品は13万円〜25万円ほど、レザージャケットに至っては50万円と、相当な高級品である。それでもすでに予約がいっぱいという話を聞き、如何に人気が高いかを実感した。

 僕個人としても、この金額の服を購入するのはなかなかの冒険だ。普段着ている服はだいたい1着1万円〜3万円前後(僕が普段着る服はY-3やアルマーニEA7などのスポーツラインが多かった)のものばかりだったから、1着10万円以上というのは、服にかけるお金としてはかなり高額である。

 しかし、このYohji Yamamotoと内田すずめさんのコラボ作品には、単なる衣料としての用途を超えた魅力があるように感じられたのだ。服として着るという楽しみ方はもちろんのこと、部屋に飾って絵画としても楽しむことができる。さらに、限定された希少価値の高いものを手に入れることによって、人とのつながりや出会いも広がる気がした。

 そのため、服についてはご縁があるタイミングで手に入れられればと思い、内田すずめさんの個展の情報を楽しみに待つことにした。


ヨウジヤマモト青山本店にて、内田すずめさんの絵画との初対面、そして、念願の服との出会い

 そして、数ヶ月の時が経ち、ついに内田すずめさんの作品展示に足を運ぶチャンスがやってきた。東京で取材の仕事を終わらせて、表参道にあるヨウジヤマモト青山本店へ足を踏み入れる。展示終了が数日後に迫った4月8日、ようやく原画を間近で見ることができた。

 どの絵画にも、生命の息吹を感じた。女性の髪が生きているように絵画の中で靡き、光を蓄えた瞳とはっきり目が合う。単に美しい女性が描かれているだけでなく、その向こう側にある感情や心、そして人生までも映し出されているような、深みを感じる絵画だった。

 特に強烈だったのが、「拒食と自爆」「業火」の2枚。どちらも、内田すずめさんご本人をモデルとしているように見える。その瞳は闇に包まれており、妖気を持って、見るものをその場に釘付けにする。

「拒食と自爆」に添えられた言葉も壮絶である。

拒食症。死ぬほど食べたいのに太ることが怖くて食べられない。 ならば小腸を食いちぎって栄養を吸収できない肉体にしよう。 私があの頃死んでいたら、そんな幽霊になっていたはずだ。(内田すずめ公式ホームページより引用

 「美人画ボーダレス(芸術新聞社)」のコメントによれば、内田すずめさんは自画像とモデル像の2つのモチーフをメインとしており、自画像には怒り、憎悪、絶望を塗り込め、一方のモデル像には優しさ、穏やかさ、幸せを描くことを心がけているという。

 内田すずめさんのコメントの中で、特に素敵だなと思った一節があったので、こちらに引用させていただきたい。

 「黒い絵と白い絵、どちらが本当のあなたなの?」と尋ねられるが、どちらも本当の私である。絶望してきたからこそ、生への欲望を解き放ちたい。私は女性を描くことで、過去の自分を抱きしめられる。失った声を取り戻しに行く。生きながらにして生まれ変わることができるのだ。(美人画ボーダレスより引用)

 生きながらにして生まれ変わることができる——輪廻転生(りんねてんせい)。

 これは、ヨウジヤマモト青山本店の店員さんからお聞きした話だが、Yohji Yamamotoの2018年春夏コレクションでは「輪廻転生」「宗教」といったテーマがあり、そうした深いテーマ性に合うような作品を探していたところ、内田すずめさんの絵画を山本耀司氏が見初め、抜擢することになったのだという。

 確かに、内田すずめさんの絵は、単なる美人画や自画像とは一線を画する迫力がある。目に見えるものだけでなく、目に見えないものも含めて、細部まで描かれているように感じられる。

 そして、ひとりの女性像と目があった。

 「今宵椿」と題された絵画。

 ほとんど、一目惚れという感じであった。

 ちょうど一着、「今宵椿」がプリントされた服が現場に運良くあったので、その場で試着して、即購入を決めた。「着て帰るべきだ」と直感的に思う、吸い寄せられるような魅力があった。

 しかも、店員さんから話を聞いたところ、この「今宵椿」の原型を山本耀司氏が見たことによって、内田すずめさんの起用が決まったとのことだった。この作品は、Yohji Yamamotoと内田すずめさんが出会うきっかけにもなった絵画だったのだ。運命を感じたこともあり、迷いなく即決に至ることになった。

 それまで、恥ずかしながら10万円を超えるような上質な服に袖を通したことがなかったので、試着した瞬間の着用感の素晴らしさは、想像以上のものがあった。

 シルクの生地がなめらかに肌を包む、繊細な着心地。

 まるで、空気を纏っているような軽さ。

 それでいて、女性が描かれた絵画の放つ重厚な存在感が胸元にあって、特別な服を所有する喜びを存分に味わうことができる。

 購入した服をその場で纏って、帰路についたとき、僕は自分自身が何か、生まれ変わったような高揚を感じていることに気づいた。洗練されたファッションを身に纏う楽しさ、アートと触れ合う喜び、人生を豊かにするものを手に入れるためにお金を使うという充足感。

 これまでの暮らしの中では味わったことのない多幸感を、Yohji Yamamotoと内田すずめさんのコラボ作品は教えてくれたのだ。


ヨウジヤマモト名古屋パルコ展にて、内田すずめさんご本人にお会いし、さらなる不思議が訪れる

 2018年4月28日。

 月末で締め切りが迫ったいくつかの原稿仕事を抱えたまま、名古屋にホテルをとって、ヨウジヤマモト名古屋パルコ店へ向かう。

 この日は、仕事と並行してでも、何としても内田すずめさんの展示に足を運びたかった。ご本人が会場にいらっしゃるという情報を、Twitterで拝見したからだ。「今宵椿」の服をヨウジヤマモト青山本店で購入して興奮冷めやらぬ中、ご本人にまでお会いできる機会があるというのは千載一遇のチャンスである。

 仕事は納期に間に合うようにやれば良い!ということで、フリーランスならではのフットワークの軽さを利用して、業務をいったん横に置いて、会場に潜入した。

 二度目の対面となる、内田すずめさんの原画たち。

 今回は「今宵椿」を纏って会場を訪れたので、絵の前に立つとやはり誇らしい気分になった。他にも、2018ssの内田すずめさんのコレクションを着用されている方がたくさんいらっしゃっていて、服となった絵画が幾度もすれ違う、不思議な空間となっていた。

 なお、ヨウジヤマモト青山本店でも「指切り」という作品が壁画になっていたが、名古屋パルコ店は店内が白基調であるために、より一層迫力が出ていた印象がある。

 今回の原画展では、内田すずめさんの過去作品をまとめて見ることができるファイルが複数置かれており、「美人画ボーダレス」の販売も行っていた。

 そして、ここで嬉しい出来事があった。なんと、内田すずめさんのコレクションの服をその場で購入した人、または既に購入している人は、服に直接サインを頂けるというのだ。お話をする機会にもなると思い、サインを希望して列に並ぶ。

 内田すずめさんご本人からサインをいただき、見事、一点物に昇華した「今宵椿」。

 画家に直接お会いするという機会は、本当に初めての経験だったため、とにかく緊張して、せっかく会話するチャンスなのに、そそくさと会場を後にしてしまい、もっとお話すればよかったと後悔(笑)。

 ただ、Yohji Yamamotoについて、内田すずめさんをきっかけにして知ることができたということを直接お伝えできたので、よかったと思った。

 インターネット上で内田すずめさんとYohji Yamamotoのコラボ作品の写真を偶然見たこと、Twitterをフォローいただいたこと、ヨウジヤマモト青山本店の展示会場に足を運んだこと、青山本店に偶然一点だけ「今宵椿」の在庫があったこと、そしてサインを頂ける名古屋のイベントに参加できたこと。

 これら、ひとつひとつのきっかけがうまく繋がらなければ、内田すずめさんの絵画との出会いや、サイン入りの「今宵椿」は手元になかったのだろうと思うと、とても不思議だ。服と絵画の存在を知ることをきっかけとして、これだけの体験が生まれるという事実に、改めて驚かされる。

 Twitterでは、内田すずめさんとお会いした皆さんの喜びの声を見ることができた。以下、Yohji Yamamoto公式アカウントにリツイートされていたツイートをいくつか引用。


 そして、絵画と服を通じた不思議な体験はまだ、これで終わりではなかった。それから数日たったある日、Twitterを見ていると、リツイートの通知が来た。そこで何気なくアカウントを辿って、とても驚いた。なんと、リツイートをくださったのは「今宵椿」「赤い果実」のモデルさんだったのである。

 リプライでご挨拶をさせていただいたところ、気さくにご返信をくださり、良い服と絵画との出会いを頂けたことの感謝を直接お伝えすることができた。

 しかも、驚いたことに、僕が初めて見て衝撃を受けた「赤い果実」と、実際に購入することになった「今宵椿」、双方のモデルをあめ日和さんがしていらっしゃることを知って、点と点が線で結ばれるような感覚を受けた。

 村上春樹氏の小説には「全ては繋がっているのだ」というフレーズが良く登場するが、まさにその通りだなと思った。全ては繋がっている。ひとつひとつの点を辿っていくことで、線が繋がっていき、絵画を通じ、服を通じ、会うべく人に会い、言葉を交わすべく人と言葉を交わして、手元に宝物が残る。

 今回、僕は2018年春夏Yohji Yamamoto×内田すずめさんのパリコレクション作品を購入することによって、非常に小説的な、不可思議な体験をすることになった。

 これからも、服と絵画を通じて頂いた、素晴らしいインスピレーションを糧に、自らもクリエイティブに邁進し、単に商業的な文章を書くフリーランスライターとしての活動のみならず、創作の深い森の中に足を踏み入れていく挑戦を続けていきたい。


 ちなみに、その後も「今宵椿」は、日々楽しく着用している。

 お伊勢参りと「今宵椿」。日本の伝統的な風景とも、相性は抜群だった。

 着るだけでなく、家に飾ることでも楽しめる。やはり、Yohji Yamamotoと内田すずめさんのコラボ作品は「着ることのできる絵画」なのである。

 ヨウジヤマモト名古屋パルコ店には、ゴールデンウィーク中も足を運んだ。店員さんが、28日の展示に足を運んだことを覚えていてくださり、今後のイベントにもご招待いただけるということだった。とても優しくて、Yohji Yamamotoでまた買い物がしたいという気持ちになった。

 Yohji愛好家の方が常連化していく理由も、何となくわかるような気がした。良い服と良い接客があるからこそ、皆、Yohjiが多少高価であっても購入するのだろう。

 やはり、良い物は良い。手に取る理由がある。ファストファッションにはない、古き良きクラフツマンシップが、Yohji Yamamotoには息づいているのだ。


 最後に、山本耀司氏のVOGUEインタビューの一節を引用して、このコラムを終わりにしたい。

──メンズの春夏でアーティストのサイトウユウスケさんや内田すずめさんとコラボレートしていましたが、コラボレーションとはどういう意味を持つのでしょう?
山本耀司氏 ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、20世紀の終わりに感じなかった世紀末を今すごく自分の中で感じているんです。19世紀の作家たちが夜な夜なカフェに集まり、絵画や音楽は20世紀に成り立つのかと相談し悩み合っていた終末観のようなものを。彼らは一人の仕事では次の世紀は持たないという結果にたどり着いてコラボレーションを盛んにやったわけですが、それと似た気分を感じているんです。服だけでは何も変えられない。でも人格も作風も違う人がぶつかり合って生まれるバイブレーションで何かが起こせるかもしれない。その興奮やハプニングの危険性を求めているのかもしれません。なので、慣れ合いになるコラボレーションはしません。

 つまり、2018年春夏Yohji Yamamoto×内田すずめさんのパリコレクション作品の根底には、音楽家、絵描き、物書きなどがサロンに集まって施策を練った、19世紀のパリの世界観が反映されているということだ。

 例えば19世紀、オノレ・ド・バルザックは自らを「文学的画家」と呼び、絵筆の代わりに言葉を使って画家と競おうとしていた。アメデオ・モディリアーニやパブロ・ピカソなどの画家が集まるサロンには、ジャン・コクトーなどの文学者も盛んに参加して、夜な夜な議論を繰り返していた。

 さまざまなジャンルの若い芸術家たちが分野を超えて連帯し、互いに影響を与え合った時代の空気。それに似たものが現代において生まれようとしているならば、絵画と服とのコラボレーション作品を手に取り、名もなき物書きである僕が感銘を受け、こうして人知れず長い文章を書き残すこともまた、必然であるような気がしてならない。

 さらに、今回の2018年春夏Yohji Yamamoto×内田すずめさんのパリコレクション作品は、価格的に高価なものであるにも関わらず、10代〜20代の若いファンにも多く愛されているという。

 この事実もまた、Yohji Yamamotoの持つクリエイティブの威力であるように思える。世代を超えて支持されるYohji Yamamotoが放つ強烈なファッションの底力が、次の時代のムーブメントを作る、文化的な土台となるのかもしれない。

《完》


狭井悠(Sai Haruka)

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補足

 なお、これは補足だけれど、Yohji Yamamoto×内田すずめのコラボレーションの偽物が出回り始めているとのこと。

 決して購入されないように、注意してください。偽物を手にしてしまう可能性もあると思うので、購入を検討されている方はオークションなどではなく、ヨウジヤマモト正規店で購入の相談をすることをおすすめします。

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