ローカル×ローカルvol.09 「まちづくりってなに?」 株式会社machimori市来広一郎さんを招いて〜
「地域おこし」「地方創生」って一体どういう状態だろう?
この企画は、そんな問いを持った僕が、さまざまなローカルで活躍する先輩たちを訪ねて、学んだことを報告するイベントです。共催は日本仕事百貨です。
このイベントをやろうと思ったきっかけは、こちらをご覧ください。
前回のvol.08では、キッチハイク代表 山本雅也さん・プロデューサー古屋達洋さんを招きました。話したテーマは「体験を、どう届ける?」
その時のレポートはこちらから
vol.09は、熱海のまちづくり会社 株式会社machimori代表の市来広一郎さんを招きました。
市来さんに尋ねた問いは、「まちづくりって、何?」です。
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まちづくりって何でしょう?
僕が東京で働いていた頃は、まったく気に留めない言葉でした。
しかし、南伊豆で暮らし始めてから “まちづくり” という言葉がいろんなところで聞こえてくるようになりました。
「子育てしやすいまちづくりを!」「介護が充実したまちづくりを!」 などなど。
でも、この言葉って「地方創生」の響きと似ていて、いまいち自分ごとにしにくい言葉だと思ったんです。
そこで、熱海で活動する市来さんにお話を聞いてみたいと思いました。
市来さんは 2007 年に熱海に U ターン。 当時「衰退した観光地」の代名詞と言われた熱海をさまざまな施策で盛り上げてきた方です。
市来さんたちの活動がまとめられた著書『熱海の奇跡(東洋経済新報社)』では、「まちづくり」という言葉がよく出てきます。
市来さんが考える「まちづくり」って何だろう。
いったい、市来さんたちはどんな風に熱海を再生していったのか。また、一個人でも関われるまちづくりの視点って何だろう。そんなことを伺いました。
一緒に学びを深めてくれる学び仲間は、九谷焼の複合型文化施設「CERABO KUTANI」ディレクターの緒方康浩さんです。
人選は日本仕事百貨の中川さん。石川県の伝統工芸品を通してまちのブランディング事業に関わる緒方さんの視点をお借りしました。
当日は中川さん、緒方さんと一緒にお話を伺いました。
※ここからがイベントレポートになります(2020年2月上旬に開催)。
観光客を呼ぶだけでは、まちはよくならない
市来 市来です、よろしくお願いします。僕は2007年に地元の熱海に帰ってきて、気づいたら13年が経ちました。
僕が熱海に帰った頃、「地域で何かやりたい」と言ったら、「お前はバカじゃないか」と言われた時代です。今、ようやく受け入れられています。
市来 熱海は高齢化率が47%のまちです。空き家率もめちゃくちゃ高くて、今の日本の空き家率は13%ですが、熱海は52.7%です。15年後には64%になると言われています。
他にも、熱海は静岡県内ワースト1のオンパレードです。生活保護者が多かったり、出生率は最下位。30代男性の未婚率も全国一位。課題先進地域です。ですが、最近ワースト記録から少しずつ脱却しつつあります。
落ち込んでいた観光客も、今は相当増えてきています。ですが、僕らは観光客だけでは、まちはよくならないと思っています。僕らが一貫して言っているのは、「100年後も豊かな暮らしができるまちをつくる」です。
地元の人が地元を知らない。楽しんでいない
市来 僕が熱海にUターンして思ったのは、地元の人は観光客を呼ぼうとするけど、来てくれた人たちが残念な気持ちで帰っていく。そんな印象でした。
ネットはクレームの嵐。観光客が地元の人に「おすすめの所はないですか?」と聞いても「ここには何もないね」と言っちゃう。タクシーのおじさんが言っていたくらいです。
僕はすごくショックで。そこが変わっていかないとダメだと思いました。つまり、観光客の満足度を上げることも必要だけど、まずは地元の人たちの満足度が上がらないといけないと思いました。
市来 そもそも、なんで地元の人が「ここには何もない」と思うか。それは、あまりにも地元の人が地元を知らない、楽しんでいない。もしくは、あたりまえ過ぎてその価値に気づいていない。僕自身も実感したことです。
例えば、熱海って温泉があたりまえ過ぎるんですね。僕は小さい頃から温泉に入って育ったんですが、僕は東京に出てきた時、風呂が温泉じゃないことに衝撃を受けたんです。こんなふうに、自分のまちの価値に気付いていない人ってけっこういると思います。
まちの中で小さく、活動している人たち
市来 まず、僕自身が熱海を知る必要があると思いました。そこで始めたのが、「あたみナビ」というウェブメディアです。熱海でユニークな活動をされている人のもとを訪ねて、その魅力を発信していました。
僕が取材でやっていたことは、「その人が根っこで何を求めているのか」、3時間くらいお話を聞いて、ひたすら探り当てることでした。それで僕らと接点がありそうだったら、「一緒に何かやりましょう」と投げかけてる。その流れで生まれたのが「オンたま」という体験サービスです。
市来 地元の人による、地元の人のための体験ツアーです。例えば、もともと遊郭だった所を地元の人が案内するまち歩きツアーや、農家さんと時間を過ごす農園体験など、3年間で約220種類の体験ツアーをやりました。
市来 これまで光が当たらなかっただけで、実はまちの中でほんとに小さく活動されている人たちがいたんです。イベントを重ねるごとに、「熱海には何もない」と言う人が減っていきました。熱海に20年以上住んでいる人も「熱海にこんな所があるなんて知らなかった」と。口コミも広がっていきました。
以前、住民アンケートを取ったら、「熱海にネガティブな感情を持っている人」が43%もいたんです。そういった人たちのイメージが、1個の体験に参加しただけで劇的に変わるんですよ。僕らは徹底的にまちの人を巻き込んでいきました。なんとなく、まちの空気がちょっと変わっていったんですね。
まちづくり会社を設立
市来 でも、大問題があって。これが全くお金になりませんでした(笑)。僕はこれで食っていこうと思っていたのに、です。どうしようと思ってまちを歩いていた時に、空き店舗がいっぱいあるなと気付いて。まちのど真ん中にサボテンが生えているような廃墟もあった。
それで僕らは空き店舗を活用して、まちを再生する会社「machimori(マチモリ)」を設立しました。最初に取り掛かったのが、かつてメインストリートだった熱海銀座という商店街に、1個ずつお店をつくることだったんです。
市来 当時は3分の1以上が空き店舗でした。ちなみに僕はお店をやるとか、サービス業は全く不向きな人間です。大学生の時にファミレスでバイトしていたんですが、ほぼクビに近い感じで辞めた人間なので(笑)。だから、自分の人生でそういうことはもう二度とやらないと思っていたんです。
市来 でも、誰もお店を出す人がいないから、自分たちでやるしかない(笑)。エリアを変える点を打とうと思って、「CAFE RoCA (カフェロカ)」というカフェを始めました。
市来 地元の人はほんとに善意で「ここで何をやったって無駄だからやめときな」って言ってくれたんですね(笑)。でもやっていると、だんだん人が集まってきてくれて。次の年からは、この通りで「海辺のあたみマルシェ」というマルシェを始めました。
市来 僕らの目的は、ここでお店をやりたい人を見つけることでした。だいたい、昔はいきなり店舗なんて借りなかったわけですよ。まずは屋台から始めて、いけるとなったらお店を借りていたわけです。
だから、そういうチャレンジの場は必要だと思ったんですね。「オンたま」で出会った人たちが関わってくれたり、東京から手伝いに来てくれる人もいました。ですが、このマルシェをやったら商店街の半分の人からは大絶賛、半分の人からは怒号が飛び交うほど、苦情が来ました。
市来 その時、僕はひたすら謝りまくっていました(笑)。でも、だんだん僕自身も商店街の人たちと関係性ができてきたり、商店街の人もだんだん外の人を受け入れるようになりました。
少しずつ、熱海に観光ではなく、主体的に地域と関わる人たちが増えてきたんです。ようやく、外の人たちが来れる土壌が整ってきました。次に僕らはこの通りにゲストハウスを作りました。
まちに泊まってもらう
市来 熱海って旅館に泊まると、その中で過ごすことが多いんですけど、実は熱海ってまちが面白いんです。路地裏に個性的な飲み屋、スナックもあって。いくらでもハシゴできるんですよ。
なので、僕らがやりたかったのは、まちに泊まってもらうことでした。まちを楽しんで、まち全体で過ごしてもらう時間をどれだけ増やすかを意識して、その入り口として、ゲストハウスを作ったんです。
これがだんだんうまくいったので、2019年11月に「ロマンス座カド」という宿をオープンさせました。ここもずっと空いていた空き家だったんですね。
市来 どちらもコンセプトは、とにかくまちを楽しんでもらう。まだ熱海には空き家がいっぱいあるので、こういった泊まれる場所をどんどん作るつもりです。
クリエイティブな30代に選ばれる
市来 こういう事業が生まれる前の熱海って、年配の移住者が多かったんです。ですが、次第にここで活動したい、仕事したい、起業したいといった40、30、20代が現れてきたんです。
僕らは、そういう人たちに向けたコワーキングスペースを作りました。57年間も空き家だった所があったので、格安で借りることができました。
市来 こんな風に、僕らは使われなくなった空き家に投資をして、リノベーションしています。これらは基本的に補助金や税金は使わず、民間から資金調達しました。
僕らがこういうことをやってきたのは、クリエイティブな30代に選ばれるサードプレイスになるためです。
僕は今40代になりましたけど、30代だった時、同世代がまちに入ってくれたんですね。その時にこういうビジョンを掲げて、その流れをより加速させたいと思ってやってきました。
僕が熱海に戻った頃、新しくお店をやろうなんて人はいませんでした。でも、それから5年が経って、だんだんおいしいコーヒーを出すカフェだったり、ジェラート屋さんだったり、空き店舗にお店が入るようになりました。
200メートルしかない小さい狭い商店街ですが、もうすぐこの通りの空き家は全て埋まります。
伊集院 すごい!
市来 ずっとこの通りは土地の価値が下がっていたんです。でも、最近は土地の価値が上がり始めて、住む人も増えてきている。今、この熱海銀座では80名くらいの雇用が生まれています。
経済もコミュニティも再生が必要
市来 いわゆる「地方創生」とか「地域活性化」って、イベントをやってお客さんをただ集めるものが多い気がします。僕らは、ただイベントに人が来て、通行量が増えただけでは意味がないと思っています。
マーケットを可視化したり、エリアの価値を上げたり、ファンが増えたり、住む人が増えたり。ただ経済の再生だけではなく、地域コミュニティの再生も大事です。つまり、全部が良くなっていく必要がある。
市来 最近、すごく嬉しいのは、地元のお祭りが再生してきたことです。だんだんお祭りに参加する人たちが増えてきました。しかも、住んでいる人だけじゃなくて、このまちに関わりたいという人もお祭りに参加しています。それに対して、地元の人もウェルカムになってきています。
僕らは、ただの観光地にならない。そこを目指しています。観光と定住の間のグラデーションをつくって、いろんな暮らし方、関わり方ができるまちになれば、熱海はいくらでも再生できると思っています。
まずは自分の足元から、できることを
市来 最後に、なんで僕がこんなことを始めたかというと、僕が高校生から大学生くらいの時に、本当に数年で熱海が廃墟のようになったんです。
「誰々さんちが潰れた」「夜逃げした」「自殺した」みたいな話がすごく聞こえてきました。あれは忘れられない。だから、当時からなんとかしたいというのは、あったんです。
でも、もともと僕は物理学者になろうと思っていた人間です。就職はコンサルティングの会社に勤めていたんですが、その前にバックパッカーで27か国くらい旅したことがあるんです。その経験が強くて。
海外から帰って来た時、東京の電車に乗ったら日本人の目は死んでいるなと思いました。それがすごくショックで。こんな国で暮らしたくないと思って海外に逃げ出そうと思ったくらいです。でも、いずれアジアの国もこんな風になるかもしれないと思って。
市来 だから、まずは自分の足元から、自分のできることで、大きなことはできないかもしれないけど、自分の生まれ育った熱海で、都会の人たちの暮らしを変えていけたらいいなって。そういう役割があるんじゃないかなと思ったんです。これは熱海だけじゃなくて、他のまちでもそういった人だったり、活動が増えていけばいいなと思っています。
市来さんのもとを訪ねて、学んだこと
伊集院 では、ここで市来さんのもとを訪ねて、僕がグッときたこと(パンチライン)を発表したいと思います。
この時は、③人のファンから、まちのファンへでした。
伊集院 ③人のファンから、まちのファンへについて、詳しく聞かせてください。以前、お話を伺った時、「まちづくりは、道路や施設を作る公共事業だけじゃなくて、まちのファンを増やすことも、まちづくりです」って話をしてくれて。
伊集院 「まずは、じわじわ人のファンをつくることから始めないといけない」と。その部分をもう少し聞きたいです。
市来 人がファンになるためには、まずは自分からその人のファンになって、自分と同じようなファンをいかに増やしていくか、だと思います。
例えば、『オンたま』で出会った農家さんであれば、僕はそこの農園に行くだけですごく癒やされたんですよ。その人の人柄や、そこでみかんを食べることも含めて、きっと他の人も喜んでくれるはずだと。
それで、やっぱり参加者を連れていったら喜んでくれるんですね。農家さんもやる気になって、おもてなしをしてくれる。しかも、自分が一番輝けるフィールドだから饒舌にもなる。お互いに相乗効果が生まれて、熱烈なファンになっていく。それがオンたまの各現場で起こっていました。
外と内を混ぜる
伊集院 僕も「南伊豆くらし図鑑」という体験サービスをやっているんですけど、オンたまみたいに地元の人同士が繋がったり、そこからまちのファンになっていくまでは、全然できていないです。
市来 さっき「地元向けにやった」と言いましたけど、どちらかというと移住してきた人や、別荘を持っている二拠点居住者に向けて企画しました。昔から住んでいる地元の人たちはどちらかというと、ガイド役、講師役です。
伊集院 そうなんですか。
市来 地元の人では気づかない価値を、二拠点居住している人や移住者たちが見つけてくれるんですね。そこで「これは熱海の価値ですよ」と地元の人に教えてくれる。すると、外の人が媒介になって、地元の人たちも繋がっていくんですね。
伊集院 体験をつくる上で、工夫したことってありましたか?
市来 事前に自己紹介をして知り合ってもらうくらいです。でも、それだけで体験の満足度が全然変わるんですよね。
体験ツアーの中で、「一番良かったのは何か?」ってアンケートをとると、「お友だちができて良かった」と。あれ、ガイドは関係ないのか、みたいな(笑)。後日、参加者同士で旅行に行っている人もいました。
伊集院 でも収益化はむずかしかった。
市来 そうですね(笑)。でも、オンたまの3年間があったから、マルシェとか、次の展開ができたんだと思います。
自分たちの市場を知る
緒方 まちのファンをつくるために、先ほど市来さんがおっしゃった、「マーケットを可視化した」ことも関係があるんですか?
市来 まちのファンになってもらうために、自分たちがやろうとしていることが果たして需要があるのか、「市場を見える化する」って大事で。例えば、オンたまだったら、イベントの規模を徐々に大きくして、一気にやりました。
伊集院 一気にやる。
市来 小さくやっていると、数人にしか伝わらないんですよね。でも一気に何十プログラムもやると、短期間に千人くらいが参加してくれるわけです。そうすると、地元のメディアにもどんどん載っていく。そして、これからの熱海にとって、何が必要なのか、何がウケるか、わかるわけです。
体験ツアーの中には、参加者が集まらなかったり、失敗もいっぱいあって。だけど僕はむしろ、「どんどん失敗してください」と言いました。そこでお互いに学びがあって、お客さんは熱海の何を求めているのか知る機会になればいいじゃないかと。それがマーケットを可視化するという意味です。
市来 これまでの熱海のアプローチは、温泉と旅館と海水浴場があればいいと思ってたんです。でも、それは完全に間違っていたわけです。移住者や別荘を持つ人が増えてきて、その人たちは別に海鮮丼を食べたいわけじゃないし、旅館も泊まらない。ただ熱海で自然を感じたり、人と繋がりたい。
だけど、それを僕らが言っても、ピンとこない。来てくれた人たちがそう言えば「そっちの方が求められているのか」とわかってもらえる。なので、オンたまではそういう出会いの場を一気につくっていきました。
伊集院 熱海で何が求められているかを可視化して、規模を広げたことで、まちのファンにつながっていったんですね。実際に形にしてみせるって大事ですね。
市来 そうです。とにかく形にして見せないと地元の人はわからない。地域の中で合意形成からやろうとすると、何も始められない。それに、多数決を始めたら、もうアウト。何もできないです。マルシェなんて、ほぼゲリラのようなもんです(笑)。
あ、でも、もちろん押さえるべき人は押さえないとやれないですよ。ちゃんと商店街の役員に「これはまちに必要だから」と理解してもらうのは大事です。やはりその人たちが説明してくれるので。
伊集院 その人たちが説明してくれる。
市来 僕の10歳くらい上、今の50歳くらいの人たちです。年配の人たちに説明してくれたり、反発があったときに守ってくれる防波堤のような人たちがいるんです。そういう人をつくっておかないと、そもそもまちで何かを変えるってむずかしいです。
エリアの価値を上げる
伊集院 ②エリアの価値を上げるを聞きたいです。これは僕が以前、南伊豆で子育てをしている女性に「南伊豆の商店街って、どうやったら賑わいますかね?」って質問したら、「スタバができたら、まちは活性化するよ!」って答えたんですね。僕はちょっと複雑な気持ちになって。本当にそれなのかなって?
伊集院 その話を市来さんにぶつけたら、「雇用が生まれたり、一瞬は盛り上がるけど、エリアの価値は下がる」とおっしゃっていて。市来さんにとって、エリアの価値ってなんだろうなって。
市来 熱海も10年前は、「熱海にショッピングモールを誘致したら、まちは再生する」って、驚くほど全員が言っていたんですよ。それを聞いて、僕はどうしようかなと思ったんですね。
なんで僕が2007年に熱海に帰ったかというと、当時、熱海にはリゾートマンションとか箱物がどんどん建って、すごく危機感を感じたんです。自分の田舎が東京のニュータウンと変わらない、どこにでもあるようなまちになるって、一番最悪ですよ。
スタバを別に否定しないですよ。一時的にはいいかもしれません。でも、スタバができたところで、その地域のファンは増えないですよ。結局、外の資本に頼っていることには変わりません。
市来 90年代半ば、僕が衰退していく熱海を見て思ったのは、とにかく他所のもの、デカイ資本に頼っていると、まちは一瞬で廃墟みたいになるってことです。うちの実家は企業の保養所だったんですけど、540軒あった保養所が、数年で130軒になったんです。
だから何か悪くなった時に、他所のものって一気にいなくなるんです。なのでやはり地域に根ざしたもの、人、事業をちゃんと育てていかないと、まちの経済、コミュニティ、全てが一気に崩れる。
だから、スタバはきっかけとしてはいいかもしれない。だけど、スタバに来た人たちをまちに定着させるためにはどうするのか、地元の人たちが考える必要があります。それを考えないと、ただ単にスタバに持っていかれるだけ。
伊集院 同じように、チェーン店は全てそうですよね。何かあったら、一気に撤退して、箱だけが残る。
市来 今も熱海はその危機感がありますよ。この20年の間に、いろいろなまちの人たちが、本当に血の滲むような努力をして、やっと熱海は再生してきたんです。
市来 でも、その再生してきた果実を、外の資本がどんどん持っていってしまうのは、まちにとっては不幸です。だから、もっとまちが力をつけないといけない。
伊集院 まちが力をつける。
だから、僕は『オンたま』をやったんです。外からいきなりよそ者を連れてきて解決させるわけでもなく、いきなりリノベーションみたいなことをするわけじゃなく、外の人と混ざりながら熱海にあるいいものを掘り起こす。
そして、外にも地元の人にも「これいいでしょ」って伝える。それに共鳴した人が入って来てくれると、まちにとって幸せだと思います。
それをメディアがどう評価するかも大事だと思います。今、熱海が再生している、盛り上がっているみたいになった時、メディアはチェーン店なんて取り上げないじゃないですか。
伊集院 たしかに。
市来 熱海プリンがいいとか、僕らのやっているゲストハウスがいいとか、そういうのをメディアは取り上げてくれるんです。
外の人が評価してくれると、地元の人たちは変わっていく。ちゃんと本質的なことをやっていることが、実は一番の近道だと思います。
伊集院 言われてみれば、確かに・・。チェーンの地方支店がメディアで紹介されることって、ないかも。
市来 ないですよ。熱海でマクドナルドができましたって、20年前は画期的だったんですけどね(笑)。
真似される点を打つ
伊集院 市来さんが本で語られている「エリアを変える点を打つ」って話も詳しく聞きたいです。②エリアの価値を上げると似ている気がして。どうやったら、いい点は打てますか?
市来 エリアを変える点を打つって、結局はそのビジネスが真似されるかどうかなんですよね。
伊集院 真似されるかどうか。
市来 カフェロカは真似されなかったんですよ。商売的に上手くいっていないし、儲かってそうだと思われてなかった。でもゲストハウスをやったら、これまで熱海にゲストハウスなんて一軒も無かったのに、今では7軒くらいあるわけですよ。
なので、これはもう、真似されるまでひたすら試行錯誤して失敗しまくるしかないんです。これだと思ったものを毎回やり続けて、失敗したとしても繰り返してやる。だから小さくやったほうがいいです。
伊集院 失敗を繰り返すって、辛いなぁ(笑)。
市来 辛くないようにやればいいんですよ。先にお金も集めて、とりあえず3年やって、最悪お金が尽きたら辞めたらいいじゃないですか。そんな借金を抱える必要もない。僕はまあ、抱えてますけど。(笑)
伊集院 ですよね。本で読みました。
市来 でも、大丈夫です。事業を始める前って、普通に生活していると、お金を借りるってすごいハードルが高いんですよね。でもお金って、借りたら手元にお金ができるので、それを使って次を生み出せばいいんです。だけど人生を捨ててでもやる必要はない。ただ、ちょっと自分のリスクをとってやってみるのはすごく大事なことだと思いますね。
一番インパクトを出せて、自分が一番できることは何か
伊集院 もしこれから地域で何か活動しようとしている人にアドバイスするとしたら、なんて声をかけますか?
市来 軒先を借りるのが一番いいですよって言います。既にやっている人がいるなら、そこでやるのが一番いい。いないんだったら、他の地域で探すとか、かな。
とにかくやれる形で、週末から始めてみるのはいいかもしれません。でも、中途半端な関わり方だと地域で何を始めるべきかは、わからないと思います。
なので、僕らは最初に地域の人たちの話を聞くことをやっていました。でも気をつけないといけないのが、「この人のためになんとかしたい」と思っても、グッと我慢することです。
「本当にこの地域に必要なことは何だろう」「本当にこの地域の課題って何だろう」って考えながらやっていかないと。自分ができることって限られているので、全部できるわけじゃないから。
一番インパクトを出せて、自分が一番できることは何か、常に考え続けることは必要だと思います。困っている人の話を聞くと、なんとかしたいと思っちゃうじゃないですか。
伊集院 そうですよね。
市来 そこはある種、ドライに考えないと何もできないし、誰も救えなくなってしまう。
①常に100年先
伊集院 ここまできたら最後、、①常に100年先の話を聞きたいです。市来さんに「まちづくりってなんですか?」って最初に尋ねた時、「100年後も豊かな暮らしができるまちをつくる。以上!」って言って。すごい衝撃だったんですね。常に100年先か!って。
伊集院 市来さんの中で「これは100年先につながる」という判断基準を知りたいです。
市来 僕らが掲げるまちづくりの大きな軸は、大きく2つです。「100年後も豊かな暮らしができるまちをつくる」。「人材育成を通して、経済、社会、自然、文化資本を再生し、持続可能な地域社会をつくる」。
これはつまり、自分たちにしかできないことを、どう見出すかってことです。これをやらないと、まちの価値は下がって、どこにでもあるまちになっていくと思います。
観光スポットのここがすごいとか、そういうキャッチーなことだけじゃなくて、その土地ならではの生活文化がすごく魅力的だと思うんですね。それをどれだけ見出すか、伝えるか、追求していくかだと思います。
緒方 市来さんみたいに、まちがどうなるべきかのビジョンを持っているから、反発があってもやるべきことを進めていける。その力ってすごいな、と。ビジョンを持ち続けて、やり続けられる秘訣を聞きたいです。
市来 温泉です(笑)。いや、何でこんなことを言ってるかというと、根を詰め過ぎてもダメってことです。自分が、いかに気持ちよく続けられるかは大事です。
もうひとつが、誰のためにやっているかを考えることなんですよね。例えばマルシェの話でいったら、これからまちに入って来る人たちのためにやらないといけない。
その人たちは徹底的に支えるべきだけど、それ以外の文句を言ってくる人の話は、適当に聞き流すか受け止める(笑)。1回目のマルシェの時、商店街の人から「なんで私たちのためになっていないことをやるんだ?」ってすごく言われたんです。
でも、その人たちの言うことを素直に聞いたからって、まちが再生するのか?って話なんですよ。
市来 それよりも新しい人たちが入って来て、その人たちがお店を借りてくれたら、その文句を言っている人たちに家賃収入が入るわけです。それは、そのほうが幸せじゃないかと。
まちづくりをやる上で、「みんなのために」となるのは一番ダメです。ちゃんと誰のためにやるかを決めて、ちゃんとその人のためにやるって大事です。
顔を合わせて、それにちゃんと僕らが応えていれば、いつの間にか応援されるようになっていくんです。
緒方 ちゃんと言い続けて、やり続けていけば、変わるのか。
市来 今思うと「お前は本当にやり続けるのか」と、周りから見られてたんだなと思います。逆に言うと、最近評価されるようになったのは、なんだかんだずっとやり続けているからだと思います。
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※ここからは質問を受けました。
参加者1 熱海って新幹線が停まりますよね。土地の利として、熱海は交通の便がいいし、まちもコンパクトだからすごくいいなと思ったんです。でも私の田舎だと、本当に広過ぎて、どうすればいいかなと考えています。
市来 そこですよ。熱海はコンパクトにならざるを得なかった。熱海なんて坂しかない。地元の人は「不便なまち」と言うんですよ。もう、歩くのも嫌だと(笑)。
だから、ひらけた田舎なら、そこの何がいいところなのかを、見出すしかない。どう自分たちが良さを見出すか、ですよ。
参加者2 もし、市来さんがこれまでの経験やスキルがあった状態で、もう一回熱海の再生に関わるとしたら、何から始めますか?
市来 金儲けからやります(笑)。やはりお金がないとすごくしんどかったので。今も「オンたまは今年はやらないですか?」って連絡がくるんです。でも、やはりお金がついていかないと、事業を広げていくことはできないし、続けることができないので。1円でもちゃんと黒字になることをやっていくと思います。
中川 市来さんがやってきたことって、体験サービス、カフェ、ゲストハウス、コワーキングスペース、マルシェとか、業態という意味で別々のことをやっていらっしゃるじゃないですか。
中川 人それぞれにバックグラウンドや経験があるわけですけど、じゃあそれを活かして何ができるかという発想だと、そんなに多岐に広がっていかない気がして。
市来 僕には何の専門性もないからです。そういう具体的なスキルとか資格を持っているわけじゃない。一応、もともとコンサルティングの職歴はありますけど、具体的に何か称号を持っているわけじゃないので。
ただ目の前の課題とか変化を感じて、解決したり、進めていくことが僕の一番の強みだと思っていて。そういう意味でいうと、一番の強みを活かすべきなんです。
みんなが僕のようになる必要もないし、中川くんの場合、編集というスキルを持っているのであれば、そこを強みにするのがいいと思う。逆に、僕はその何も専門性がないというのが、一番のよりどころだと思っています。
※今回は3つのパンチラインが全て詰まっていたので補足は入れません。
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vol.10は、グッドネイバーズジャンボリー代表の坂口修一郎さんを訪ねて学んだことを報告します。※こちらは延期になりました。いつか、必ず。
坂口さんにぶつける問いは、「ローカルの強み(弱み)ってなに?」です。
それでは、また次回のローカル×ローカルで会いましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
vol.10はこちらから(Coming soon)
<<ローカル×ローカル バックナンバー>>
vol.0 「はじめに」〜先輩たちを訪ねて、学んだことを報告します〜
vol.01 「人が増えるってほんとに豊かなの?神山つなぐ公社理事 西村佳哲さん
vol.02 「効率化ってほんとにいいの?」真鶴出版の川口瞬さん・來住友美さん
vol.03 「文化ってどうつくられる?」群言堂広報誌 三浦編集室 三浦類さん
vol.04 「好きと稼ぎを考える」 株式会社BASE TRES代表の松本潤一郎さん
vol.05 「地域のしがらみ、どう超える?」長野県塩尻市市役所職員 山田崇さん
vol.06 「いいものって、何だろう?」デザイン事務所TSUGI代表 新山直広さん
vol.07 「事業ってどうつくるの?」greenzビジネスアドバイザー 小野裕之さん
vol.08 「 体験を、どう届ける?」キッチハイク代表 山本雅也さん・プロデューサー古屋達洋さん
vol.9は、「まちづくりってなに?」株式会社machimori代表 市来広一郎さん(commingsoon)
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