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村崎懐炉短編小説集

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短編小説をまとめました。僕は不思議な話や甘い恋の話が好きなんです。
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2017年12月の記事一覧

短編小説「猫とパンク」

短編小説「猫とパンク」

僕の飼っている小さな黒猫たちが「パンクとは何ぞや」などと言い出したものだから、僕はパンクについて説明しなければならなかった。
パンクムーブメントとは権力への抵抗だ。抑圧された若者たちが大権力に対して音楽やライフスタイルを通じて抗弁したのだ。

そんな説明を猫達にしてみたが、彼らには難しくて分からないようだった。
確かにパンクスだってそんな思慮でファッションを選ぶわけではない。もっと思春期特有の言い

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短編小説「夜のプールと古代生物」

短編小説「夜のプールと古代生物」

「夜のプールと古代生物」村崎懐炉

高校の構内にあるプールに真夜中、僕たちは忍び込んだ。
防犯用の青いLEDライトが水面に反射して揺れていた。

「博物館に行くのが好きだったんだ。」
と僕は言った。
博物館の階段の下には人造池が造られていた。そこには水が張られて鯉が泳いでいた。もしかしたら水草も生えていたかもしれない。
僕の記憶が曖昧なのはその場所の照明がいつも消されていて、人造池は影の落ちた黒い

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短編小説「博物館にて」

短編小説「博物館にて」

「博物館にて」村崎懐炉

博物館に行ってブラキオサウルスの骨格標本を見上げていると、その年老いたブラキオサウルスは物静かに語るのであった。

昔は良かった。
こんなに狭々としていなかったし。
自由闊達としていたものだよ。

かつて彼にも同族の友人がいた。
彼らは午後の安らいだ時間を散歩や読書に充てて楽しんだ。時に詩論を討議し、熱を帯びて熱い紅茶の入ったソーサーを揺らした。

ブラキオサウルスたちは

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