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お稽古ごととしてのバイオリンとピアノとの違い

私は小さい頃ピアノを習っていて、私の娘は現在バイオリンを習っている。

子どもが生まれてから、何か楽器を習わせたいとぼんやり思っていたが、現実的な選択肢としてはピアノとバイオリン位しか思いつかなかった。

子どもが然るべき年齢になったので、コンサートに連れてゆき、バイオリンとピアノのデュオを聞かせた上で「ステージのお姉さんたちの、あっちとこっちと、どちらの楽器がやりたい?」と聞いたところ、「こっち」と指差したのがバイオリンだった。

そのため、バイオリンを始めさせた。これを「娘主体」と言うのかは不明だが、とにかく始めさせた。

親はバイオリンド素人だ。だから練習に付き合っていても苦労はする。苦労話を書けば記事3つ分はゆうに超えると思われるので今回は書かないが、色々あっても娘はまだ弾き続けているのでよしとする。

さて、バイオリンを一つのお稽古ごととして眺めてみると、ピアノのそれとの違いに驚くこともある。今回はそれを書いてみたい。

あらかじめ断っておくと、これから述べることはあくまでお稽古ごととしてのピアノとバイオリンの違いである。プロを目指す、音楽家になるという人はまた全然別次元の話になるだろう。

目標とする曲の種類が違う

ピアノの場合、ある程度上達してくると最終的にみんなが目指すのはピアノ単体の名曲だろうと思う。もちろん私の知らない名曲がたくさんあるだろうが、ピアノの発表会で上手な子の定番曲はショパンのポロネーズのたぐいとか、ベートーベンのソナタとか、そういう曲のはずだ。

対してバイオリンの場合、ある程度弾けるようになってくると必ず「バイオリン協奏曲」と向き合うことになる。発表会などではオーケストラ部分がピアノ版に編曲されたものをバックに弾くのだ。

はじめは驚いた。バイオリン曲に協奏曲しか無いのならば話はわかるが、バイオリンにはれっきとした「バイオリンソナタ」というバイオリンとピアノの二重奏の曲があるのに、発表会で弾く曲を選定するにあたり最終的に目指すところとされるのは『チャイコン(チャイコフスキー)』とか『メンコン(メンデルスゾーン)』と略されるコンチェルト(協奏曲)である。

オーケストラをバックに弾ける人などバイオリン人口の数%にも満たないはずなのに、それでも協奏曲をやる。

もちろん例外はある。タルティーニの『悪魔のトリル』とかヴィエニャフスキの『スケルツォ・タランテラ』とか、ピアノとバイオリン二重奏の「映える」系の華やかな曲はみんな弾きたい。バッハの無伴奏バイオリンソナタとパルティータ集も深すぎて「人生かけての目標」って感じがするし、パガニーニのカプリスも言わずもがなバイオリン独奏曲。

それでも誰でも協奏曲はやるのだ。理由はよくわからない。

ピアノだとこうはならないだろう。お稽古ごととしてピアノを習っている友人がいくら上手でも、「アタシ次の発表会に向けて『ラフマニノフのピアノ協奏曲』を練習してるの」という人は、少なくともこれまで友人のピアノ発表会では見たことがない。ピアノ教室の発表会にオーケストラを呼んでくる状況はまずありえないから。(あったらスネ夫的ブルジョワ感満載で面白いけれど)

だから「今回はショパンの『木枯らし』を弾くわ」「やっぱリストの『愛の夢』弾いてナンボ」という流れになる。協奏曲はソリストとして選ばれし者がやるべきことなんだろう、と推測する。

いろんな演奏形態がある

ピアノの場合、前述のようにピアノ協奏曲を人様の前で弾く人は限られているから、多くがピアノのソロ曲、加えて連弾などを弾くことになるだろう。発表会ではまずソロ曲、その後親子で、兄弟で、友達同士で連弾、という形態が多い、ように記憶している。

バイオリンの場合、演奏形態がいろいろある。まずソロ。次に、アンサンブルと呼ばれる少人数の編成。それからオーケストラ。

よほどの教室でない限り管楽器を発表会で揃えることはないけれど、ビオラ、チェロ、コントラバスの方々をゲストに迎え、弦楽オーケストラの編成で曲を披露することもある。

だから発表会はちょっと忙しい。緊張の面持ちでソロ曲を弾いた後、アンサンブルでバッハの『2つのバイオリンのための協奏曲』などの曲を弾き、最後にモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』のような曲を弾く。「アンサンブル」というものの定義は私は明るくないので、多少の違いはあると思うが。

なのでバイオリンを弾く人はソロの他に誰かと一緒に弾く機会が非常に多い、というのが習い事の範疇で子どもにバイオリンをやらせている親からみた見解である。

そう言えば室内楽をやるときってどうやって人を集めるのだろう。「バンドやろうぜ」的なノリで「ドボルザークのピアノ・クインテットやろうぜ」みたいな感じで人集めをするんだろうか。うむ、素人にはわからない。でもそれぞれ楽器ができる人が集まって一つの曲を仕上げるのって、楽しいんだろうなあ。

それぞれ違ってそれぞれいい

以上のようにお稽古ごとにおけるピアノとバイオリンはそれぞれの楽器の特性を生かした違いがある。

バイオリンはソロでも合奏でも出番があるので、「ソリストでバリバリやったるぜ」というタイプでも、「みんなと一緒が好き」というタイプでも受け入れてくれる楽器だと思う。

そして、単独でもオーケストラのように幅広くダイナミックな演奏が成立するというピアノの強みも捨てがたく良い。

それぞれが面白い。そして音楽は深い。

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