見出し画像

京都大学と街の酒屋のスクラム #プロップマガジン

奇跡かもしれない。

これまでも、酔って記憶がないまま帰宅したことは何度もあった。
何度も。

しかしそれは、渋谷から自宅(当時の)だったり銀座から、新宿から、
つまり23区内から自宅までとか、
釜石市内から自室(現在の)までとか、
いってみれば日常生活の範囲内だった。

昨日は、京都から東京の田端駅まで、
さらにそこからクルマで5分、歩いて20分のシェアハウスまで。

しかも、予約していた列車よりもずいぶん早い「のぞみ」の、
3両しかない自由席に乗って帰ってきてる。

わからない……。

大柄な新人現れる

京都で何をしていたのかというと、
元ラグビー日本代表プロップの親友ナオト(中村直人)と二人忘年会。
なんで京都までいってかというと、
ナオトの経営する酒販売会社「なおかつ商店」に
大型新人が入社した、というメッセージをもらったから。

大型新人の名前は、ダイチ(志村大智)という。
大型新人のポジションは、プロップだ。
大型新人の出身校は、京都大学、しかも大学院卒だ。
京大院卒がなぜ、街の小さな酒屋さんに?

ナオトとダイチの出会いは6年前。
京都大学と同志社大学とのラグビー定期戦。
アタマの差は京都大学に圧倒的な分があり、
ラグビーでは同志社大学に圧倒的な分がある。
でもこの定期戦は、100年続いている(らしい)。

そのエキジビションで、OB戦があった。
京大OBチームの左プロップ(背番号1)がダイチ、
同大OBチームの右プロップ(背番号3)がナオト。

「京大のスクラムやから、運動靴でいいやん」
とスパイクも履かずになめきっていたナオト。
それもそうかもしれない。
6年前だからまだ40代。
現役時代はサントリーサンゴリアスで活躍し、
日本代表としても、世界の強豪相手に試合では負けても
スクラムでは負けてなかった。

現役を引退しても、コーチとしてチームに残ったり、
サントリーを退社して実家の「なおかつ商店」(京都)を継いでも、
同志社大学などのスクラムコーチなどを経験してきている。
(いまは、釜石シーウェイブスの非常勤コーチもしている)

というほどの強いプロップなので、
スパイクも履かずに運動靴で、と。

そうしたら、押されてしまった。
京都大学のスクラムに同志社大学がスクラムが負けてしまった。
押したのはダイチ、押されたのは直人。
「まさかやー」(ちむどんどん)である。

スクラムで転職を勧める

「そんなに負けてへんけど……」
とナオトはいうが、
それは同大左プロップ(1番)にザッキン(尾崎章、元サンゴリアス)がいたからであって、
ザッキンがいなければ、同志社スクラムがずるずる後ずさりをしたことは間違いない。

ともかく、それがナオトとダイチの出会いで、
試合後のBBQパーティで、
「自分、スクラム強いな。うち(なおかつ商店)来ない?」
とスクラムを理由に転職を勧めている直人。
なおかつ商店にスクラムは必要なく、
ダイチはキリンビールの技術者として、
生ビールの家庭用サーバーなどを開発していた。

京大院卒で一流会社のトップエリートのダイチ。
ナオトもまだそのときは、冗談でしかなかった。

本気になったのは、2020年、コロナが蔓延してから。

なおかつ商店の社員が一人退職した。
それでなくてもギリギリで仕事を回していて、
一人掛けたら大変なことになってしまった。

そこで、ナオトはダイチを思いだした。
「シムラくんに声かけてみようかな」
と社員にいうと、
「やめといたほうがいいですよ」
「やめときましょう」
「絶対ムリ」
と大反対。

でも、ナオトはダイチを誘ってみた。
もちろんダイチは断った。

当たり前だった。
でも、ダイチはちょくちょくなおかつ商店に買い物に来るようになった。
なおかつ商店の公式オリジナルグッズを買って使うようになった。
なおかつ商店になにかと顔を出すようになった。

そのたびに、ナオトはダイチを口説く。

それが1年がたち2年がたって、
「もう待てない」
とナオトのココロがポッキリと音を立てて折れたとき、
ダイチはキリンビールを辞めて、なおかつ商店に転職した。

そして奇跡は起こった

理由のひとつは、なんと給料だった。

ダイチは横浜の工場に勤務していた。
そして、京大ラグビー部のコーチもしていた。
横浜から京都まで、毎週のように新幹線で通っていた。
自腹で。

ダイチは、
「なおかつ勤めたら、その交通費いらなくなりますから」
と。

ええ! コーチ辞めたらいいやん。
会社辞めないでコーチ辞めるやろ、ふつう。
どんだけスクラム好きなん?

「それに、キリンビールで給料よくても、
自分がこの先30年、どんな仕事をするか先が読めましたから」

ええ! なおかつ商店30年先にもあるかどうかわからんよ。

「でも、おもしろいことできそうじゃないですか」

ええ! おもしろいのは仕事じゃなくて、
社長のナオトと、会長のなおかっちゃん(中村直勝)やん。

やばいわ、京都大学。
なにを考えてるのか。
スクラムのことしか考えてないのか。

でもダイチは、転職した。

ナオトはわたしに問う。
「入社する条件、なにゆーたかわかります?」

わかるわけない。

「すぐ有給休暇くれますか?
いうて。こっちはもう、入社してくれるだけありがたくて、
休む? どうぞどうぞってなもんでした」
「でも、なんでやすむねん? って聞いたら、
なんて答えたかわかります?」

わかるわけない。

「新婚旅行いきます〜、って。
こんなところに転職すんのに、そんなときに結婚しますか?」

「京都大学やばいわww」
と、なおかつ商店内ではひと盛り上がりした

ダイチは、
「ムズカシイことはいっぺんにやっといたほうがいい、と思いまして」

京大院卒はとんでもないことを考えて、
とんでもないことをしれ〜っとやってのける。

こうして、奇跡は起こった。