不運ではあるが、不幸ではない
東日本大震災での外国人の犠牲者数は、
41人(厚生労働省)と33人(警察庁)とふたつの数字があり、
復興庁は、どちらの数字も正しい、としている。
日本は、発災直後から世界各国から救援隊での支援をしてもらい、
日本赤十字社を通じて3700億円を超える義援金を海外から受け取っている。
それにもかかわらず、日本に来て働いていた外国人の犠牲者の数を、正確に把握しようとせず、弔いもしていない。
『涙にも国籍はあるのでしょうか』では、
明らかになっていない事実を、丁寧に掘り起こしていく。
・一時帰国からもどってきた直後に津波にのまれ、
外国人故に火葬の許可がなかなか下りず、
母国に残された家族のへの義援金も出なかったフィリピン女性。
・母を津波で亡くした中国人。滞在資格まで取り上げられそうになり、
職場の仲間たちの尽力で滞在は許された。
その後の彼の人生を支えたものは何だったのか。
・石巻の小学校の英語教師。24歳のアメリカ女性は生前、
どんなに慕われていたのか。
・武士道を研究し、「太平洋の架け橋になりたい」と日本に来たアメリカ男性。
彼もまた教員だった。そのときの校長から、司馬遼太郎の
「世のためにつくした人の一生ほど、美しいものはない」
を英訳してくれと頼まれ、
その直後に犠牲になった。
・カナダからきた牧師は、信者のために教会に戻る途中に亡くなった。
・犠牲になった妻が生前望んでいた、彼女の母国への訪問。
被災後しばらくして渡航し、お墓を訪れたときに風が吹いた。
・本棚を贖罪のように作り続ける、子どもを3人亡くした職人。
子どもたちを死なせてしまったのは自分だと、自責の念に苦しむ。
本棚にどんな思いを込めていたのか。
犠牲者の友人はいう。
「夢の途中で死ぬというのは、人間にとって無念ではあるけれども、
決して不幸なことではない」
ひとつの章ごとに、不運で無念な人生が記される。
短編小説集のようなノンフィクション。
『涙にも国籍はあるのでしょうか 津波で亡くなった外国人をたどって』 三浦英之 新潮社 2024年