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【連載小説】聖ポトロの巡礼(第20回)

はじまりの月6日

 俺は今、ものすごいものを目の前にしている。メロの言ったことは正しかった。コレを見落とすことは、まずありえないだろう。

 山道を進み続け、最後の尾根にさしかかった時、急に視界が開け、それは俺の目の前に現れた。想像していたような樹齢何千年かの巨木ではなく、「大きな木」は明らかに人工的なものだった。建造物というか、記念碑というか、オベリスクという言葉がきっと一番ぴったりだ。高さは優に100メートルを超えるだろう、巨大なオベリスクだ。

 色は赤みがかったこげ茶色、ちょうどさびた鉄のような色で、長方形のそれぞれのカドが少しずつかけたような、いびつな八角形の基部から、少しずつ細くなりながら上へ向かって伸び、真ん中辺を過ぎた少し先からなぜか二股に分かれ、そのまま頂点まで分かれたまま先細って、頂点付近で急に角度が変わって傾斜が緩やかになってる。先端の様子は、毛抜きの先を横から見たような感じと言えば分かってもらえるだろうか。なんかそんな感じだ。

 ま、コレは明らかに「木」ではない。が、おそらくコレに違いないだろう。ここが『王国』だ。今度こそ間違いない。

 とはいえ、もう夕暮れ時なので、今日は休んで明日にしようと思う。とりあえず山道を抜けて平坦な場所までは歩いた。あと半日も歩けば、きっとあのオベリスクのふもとまでたどり着けるだろう。

 あそこに何があるんだろう? ロヌーヌって、一体何者なんだろう? まだまだ分からないことだらけだ。そもそも、俺はあそこへなぜ向かっているんだろう? それすらも見失いそうになる。でも、元の世界に帰る方法はあそこにしかないってズモーが言ってたし、一応それが旅の目的ということになるんだろうか。

 でも、ズモーは元の世界には帰らなかった。彼は「行けば分かる」と何度も言ってた。何が分かるんだろう? 一体何が、ズモーをこの世界に留まらせたんだろう? 彼はスポーツ選手だった。二軍だったとはいえ、努力次第では有名にも、お金持ちにもなれたはずだ。それらをすべて捨てて、なぜ彼はこの世界に残ったんだろう? 帰るか、残るか、その選択肢を目の前にしたとき、俺はどっちを選ぶだろう? ・・・いや、ズモーの言う通りなのかもしれない。「行けば分かる」ってことか。

「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)