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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第2回)

前略

訓練生活にもおかげさんでだいぶ慣れたよ。
隊員がずらっと横向きに並べられて、教官の言うことにいちいち敬礼しながら「了解しました」と叫ばなきゃならんのを除いてはな。
こればっかりはいつまでも慣れない。
そもそも俺は、大きな声を出すようにできてないんだよ。
それでも、MP非保持者に比べると、肉体訓練が体育の授業程度なのがまだ救いだ。
スクワットジャンプなんか20回くらいで許してもらえるからね。
非保持者の皆さんは、毎日100回以上やってるみたいだ。
可愛そうに。

ここでは、俺たちの個性や思想、創造性なんてものは一切無価値だ。
必要なのは戦場において引き金を引くための肉体、ただそれだけだ。
そんなもの、ロボットにでもやらせればいいんだ。
俺たちはロボットじゃない。
だけど、ここでは俺たちがロボットになるように訓練される。
「自分」ってやつをしっかり持ってないと、俺だっていつ肉でできたロボットになってもおかしくないんだ。
そんなわけで、この手紙だけが心の支えだ。

最近は、戦闘区域においての戦闘用ワンドの実践的な使用方法についてやってる。
俺たちは基本的に、遠距離からの魔道力支援が任務なんだけど、それでも、対人戦における近接戦闘法は、万一のときに必須だからね。
このワンド、普通に街で魔道士が使ってる、木でできた小さな棒切れとは、ずいぶん違う。
まず、金属製だ。
普通の金属は魔道力を通しにくいんだけど、どうやら特殊なカーボンとのハイブリッド素材だそうで、木製の数十倍の導力性があるらしいんだ。
しかも、三段伸縮でコンパクトに持ち歩ける。
そして金属製だから、万一の直接戦闘では殴り武器のメイス代わりにもなってくれる優れものだ・・・とはいえ、使うのが非力な俺だったら、大して威力ないのかも知れんがね。
それはさておき、とにかくこのワンドは、今までの杖がオモチャに見えるくらい魔道力が通る。
つまり、俺の場合、より大きな炎が出せるってことだ。
ご存知のように、俺の魔力は火炎優位だからね。
しかも、火炎優位の俺でも、その他の水系や真空系の魔道でそこそこの物質構成ができちゃったりするから、いやはや軍事用ってのは恐ろしいもんだ。
コイツを街に持ち出せたら、俺きっとすごい会社に就職できるんだろうな。
ハハ、まずは自分の魔力を上げろってな。

おっと、魔術のことになるとつい熱くなっちまう。悪いクセだ。

話がそれたが、要は最近は、人形相手に物陰から魔力をぶつける練習ばっかりやってるんだ。
今は人形だからいいんだけど、これがいずれ本当の人間になったとき、俺はホントに呪文を口にできるだろうか?
恐ろしい話じゃないか?
ま、やらなきゃ自分が死ぬわけだから、やるしかないんだ、とは分かるんだけどな。

最近どうだい?
世の中ごたごたしてるけど、ちゃんとやってるか?
軍では飯が出るから、要はお前さんの税金で食わしてもらってるわけだ。
ありがたや、ありがたや・・・。
でもシャバじゃ、隣国の政情不安定の影響で、食いもんの値段がじわじわ上がってるそうじゃないか。
嫌な世の中だけど、お前だけは知恵と能力で生き残ってることを祈るぜ。
奥さんにもヨロシクな。

じゃ、また。

早々


「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)