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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第13回)

前略

勝利だ。
大勝利だ。
戦線をぐんと北の方へ押し返した。
以前宿営地だった地方都市も一気に攻略、さらに首都奪取も視野に入ってきた。
だが、そのためにはもっとたくさんの魔道アーマーが必要になるだろう。
敵もかなり疲弊しているらしく、しばらくはにらみ合いの状態になるんじゃなかろうか。

周りの連中はビールの泡をかけ合ってこの勝利を喜んでいるが、俺はとてもそんな気分にはなれない。
神経質すぎるんだろうか。
もっと素直になればいいんだろうか。
分からない。

物資も不足し、兵数でも劣勢に立たされていた俺たちの軍は、一か八かの賭けに出た。
その作戦の鍵を握っていたのが、俺たち魔道部隊なわけ。
アントライオン1号作戦と名付けられたその作戦の概要はこうだ。
まず、玉砕覚悟の最後のあがきと見せかけて、ほとんどの兵力をもって最前線に特攻をかける。
で、敵さんが出てきたところでいったん引き、あらかじめ俺たちが張っておいた結界の上に敵軍をおびき出す。
敵の部隊が集結したところで、一気に結界を逆転させ、うまく時空のひずみに落とし込んでしまうことで敵の兵力を端からそぎ落とし、さらに侵攻する。
これを繰り返して、どんどん戦線を押し返すわけだ。

なんつって、言葉で説明すると単純なように見えるが、どこに罠を仕掛けるか、どういうルートで敵をおびき出すかを綿密に計算して、タイミングを見計らって巧く結界を逆転しないと効果が薄い作戦なわけで、そこら辺魔道部隊に対する負担はかなり大きかった。
度重なる作戦の失敗で、MOG隊員数も開戦前の約半分まで減ってたし、おのおの得意分野とかもかなり違うから、どの結界に誰を配置するかとか、細かい構成にかなり苦労したんだぜ。
ま、作戦そのものは隊長が考えるんだけど、その横で色々、俺から意見させてもらったのさ。
効果的に結界を反転させるためには、炎系優位の術者の割合が多い方が簡単なんだけど、人数と結界数の都合上なかなかそうもいかないし、あと白魔道の皆さんにも結界張りのMP供給くらいは手伝ってもらわないといけないし、だからといってけが人をほったらかしにするわけにもいかんし・・・ある意味パズルみたいなもんさ。

そのパズルの結果・・・俺たちの軍はことごとく敵を翻弄し、敵の戦力はガタガタになり、そしてたくさんの兵士が死んだ。
俺たちだって無傷だったわけじゃないけど(いくつかの結界は、逆転する前に敵に発見され、術兵は無惨にも殺された)、多分今回の戦死者はほとんどが向こうの人間だと思う。
そして、殺したのは、俺だ。
俺は結界の管理任務に当たってたから、今回直接結界を張ってたわけじゃないけど、こんなのに直接も間接も関係ないだろ。
勝利だなんだって喜んでられるか?
これが戦争なのは分かってる。
でも、そういった言葉で納得できるほど俺は大人になれてないし、なりたいとも思わない。

・・・ここまで書いて気づいた。
そうだよ、怖かったんだなみんな。
俺は最前線じゃなかったから、あいつらほど実感なかったかも知れないけど、実際何人も術兵が殺されてるんだ。
そして、次は自分かも知れないわけだ。
今この瞬間も、きっと怖くてたまらないんだろう。
俺だって、いつ死ぬか分からないこんな狂った場所でこうやってちまちま文章をつづってるわけだが、最前線の術兵たちはもっと・・・。

その恐怖をぬぐい去るために、無理にああやって明るくはしゃいでるんだろうな。
あいつらの気持ちに、もっと早く気づくべきだった。
ああ、やっぱり俺はいつまでも大人になれないな。
自分の一番嫌いなところは、こういうところだ。

お前は学生の頃からすごく大人だった。
何って、分別があった。
俺は、物事の善し悪しが分かるっていうのは、そいつが大人かどうかを判断する重要な基準だと思ってる。
何かトラブルがあったとき、一番にお前に相談してたのは、その辺をすごく信頼してたからだ。
タクシー相手にオカマ掘ったときも、教授の機嫌を損ねて単位を落としそうになったときも、お前のアドバイスはマジで効いた。
できれば、今、お前の助言を仰ぎたいことがどっさりあるんだが、それが無理なのも重々承知だ。
だから俺はいつも『お前ならこんな時、なんて言うかな』って考えながら、何とかやってるんだ。
ハハ、笑ってくれても構わないぜ。
だって、そのおかげでこうして、まだ生きてる。

早々



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)