【連載小説】聖ポトロの巡礼(第7回)

おしまいの月2日

道が少しずつ険しくなってきたと思ったら、もうすっかり山道になってしまった。道自体はよく踏み固められてて歩きやすいんだけど、急な坂道がこうも続くと気がめいる。

もちろん、ずっと上りなわけじゃなくて、尾根の先(なんだろうと思うけど)からは当然下りなんだけど、下りの道も急だと楽じゃないね。階段でもあればいいんだけど、きっと俺みたいに徒歩でここを行き来する人も少ないんだろう、ずっとただ土と石ころの道が続く。

その周囲は、背の高い木の茂る森だ。杉だか松だか、そういう感じの木がびっしり生えてて、不思議なことに木の種類自体は少ないみたい。材木を取るために植林したのかな? 木の生え方も規則正しい感じがする。

でも、ここいらで木こりやその他林業者っぽいのを見たことはない。もしこの森が自然にできたとしたら、きっとこの世界の創造主たる神様はA型に違いない。



道から少し外れた場所に、飲めそうな水の流れるきれいな小川を見つけて、そこで1日キャンプをすることにした。水筒の水をいっぱいにし、顔を洗って疲れを癒す。森の下草に変な虫なんかいたらいやだから、苔むした岩の上に布を広げ、そこで体を休める。遠くから小鳥だろうか、羽音と共にピピピ、という声が聞こえる。

はぁ、リラックスするなぁ。

森の空気にはなんとかっていうリラックス成分がいっぱい溶けてるって聞いたけど、そんなことよりも、ひんやりした岩の上に寝そべって、水の音や鳥の声を聞いて、澄んだ空気を吸っているだけで、十分体が伸びる。ただ、朝は冷え込むかもしれないから、なにかかけて寝たほうがよさそうだ。普段道で野宿してるときは、何もかけずに寝るんだけど。



こうしてありえない世界でぼんやりしてると、以前俺がいた世界のことを忘れてしまいそうになる。

金を払って酸素を買わなきゃならないような、薄汚れた都会の町。

金持ちはこぞって海上都市にある高級リゾート型マンションに引っ越し、汚染物質を下層階級に押し付けながらリッチに暮らしてる。

俺が住んでた地上の町は、まぁそこまでひどい町じゃなかったけど、生活するのにやっとの毎日から抜け出す方法なんて、はっきり言ってゼロだ。夢とか希望とか、そういうのは金持ちが下層をうまくコントロールするための幻想だ。

現実ってやつはいつの世も厳しいもんで、貧富格差のない明るい社会なんてやつは夢物語だ。そもそも誰もそんなもん作る気なんてねぇ。自分が面白おかしく暮らすことが最優先だからな。昔ARAで見た「囚人のジレンマ」ってやつだ。見えない敵を相手に、モラルに反することをしないと自分がやられる戦争を、生まれてから死ぬまでやり続けるのが人生だ。そう思ってた。

でも・・・ここには、それがない。俺の社会観、人生観が根本から覆される世界。ここは人類の理想郷なのか、それとも最果ての黄昏なのか。ま、そんなことはどうでもいいとして、大事なのは俺がどっちの世界を気に入るかってことだ。俺は・・・

もし王国に、ハンバーガーショップがあったら、こっちだな。



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)