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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第6回)

前略

やばいことになってきたな。
世界大戦になりそうだって?
北の大国でもうドンパチが始まってるらしいじゃないか。
そっちだっていつまで安全だか分からないらしいぜ?
お前さんも、いつでもケツ捲って逃げ出せるように準備しといたほうがいいだろう。
いやいや、マジな話。
俺みたいに赤紙が来ないうちに、住所不定になっといたほうが身のためだ。

こっちじゃ、もうだいぶ戦線が南下してきてて、こないだみたいにのんびりと戦場のことを考えながら雑用って感じじゃなくなっちまった。
遠くにミサイルの着弾音と思しきドーンという大きな音がよく聞こえるようになったし、地平線の向こうが夜でも妙に明るい。
今この宿営地は、俺たち黒魔道が交代で幾重にも結界を張って守ってるから、少々の近代兵器の攻撃じゃびくともしないけど、もし結界ハッキングを受けたらと考えると、ゾッとしない。
このピリピリ感が戦場ってもんなんだろう。
でも幸い、昔見た映画みたいに、それで頭がイカレちまったやつはまだいないみたいだ。
ま、周りからすると、俺なんか最初からちょっとおかしいんだと思うけどね。
それでもまぁ表向きはちゃんとやってる。
人殺しの手伝いを、さ。

とは言え、コフィンから出てくる魔道士の中には、微妙に魔人化しかかってるやつもいるとウワサに聞く・・・恐ろしい話だ。
普段ではありえない話なんだけど、こういった形で魔力を軍事利用してたら、いつか絶対こうなるとは思ってた。

魔人化ってのは、俺たちMP保持者がギリギリまでMPを消耗し、そしてさらに消耗し続ける状況になると、肉体や精神がそれを補うために少しずつ変化していくことを言うんだけど、もし限界までMPを使い切ってしまったら、その時俺たちは完全な魔物になってしまって、もう人間には戻れなくなると伝承にある。
少し前まで、魔人化は伝説にしか登場しない架空の話だといわれてたけど、最近軍が魔法の軍事利用を実験してる最中に、魔道士がどうやら本当に魔人化してしまうらしいことが分かったそうで、だから一応コフィンの中の液体には魔人化を少しだけ防ぐ薬品が入ってるって聞く。
だけど、それでも耐えられなくなった魔道士は、もしかしたら魔人化してしまうのかもしれない。
魔人化を防ぐ唯一の方法は、魔道士が鍛錬によって自らの最大MPを高めることなんだけど、言ってしまえば俺たちプロ集団な訳だから、いくら頑張っても、もうそんなに上がりはしないだろ?
そんな中でも落ちこぼれの俺なんか、いつ魔人になってわけわかんなくなるやら。

でも、どうせ魔物になるならカッコいいのがいいな。少なくとも、ハムスター人間とかちみどろゾンビとか、弱そうだったり汚いのはやだなぁ。
ま、こればっかりはなってしまわないと分かんないんだけど。
だけどもしそうなったら、きっともう手紙書いてる場合じゃないと思うから、お前に伝える術もないんだけどね。

こうしてヤバい場所に身を置いていると、何気に昔のことを思い出すことが多くなる。
例えば、お前と奥さんを取り合いしてたこととかさ。
はは、ホントもうずいぶん昔の話みたいな気がするよ。
まだほんの3年くらい前の話なんだけどさ。
冷静に考えてみたら、単純で子供じみたバカな諍いだった訳だけど、それでもあの頃はあの頃で、俺たちはそれぞれみんな一生懸命だったんだと、今なら分かる。
結局、それぞれが自ら決めたことを、今でもちゃんと大事にできていること、それが今、俺の支えになっている気がするんだ。
事実だけ見ると俺は敗者だったかもしれないけど、今の俺にとって、お前たちの幸せが、本当に俺自身の幸せなんだ。
だから絶対、こんなしょうもない戦争でそれを壊させることはしない。
逃げられるもんなら、二人でどこか遠くへ逃げてくれ。
もしそれが無理だったら・・・死ぬな。
少なくとも俺が帰るまで。
約束だぜ?

早々


「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)