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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第11回)

28日目

地震に警戒しながら探索を進めることにする。

ここから先、山がちな地形が多いようだが、前任者の本にある記述と照らし合わせると、もしかするとこれは人工知能ロヌーヌのある、山奥の場所が近いことを示しているのかもしれない。
山がちと言っても、もちろん植物の生い茂った緑濃き山並みではなく、土と砂と石のハゲ山ばかりなのだが。

そういったハゲ山をいくつか越えることができたところで、もうあたりはすっかり夜になってしまった。ここのところ、明るかったほうの月も光量が減少し、過ごし易い夜になってきた。
だが、あの大地震を体験してから昨日の今日だから、明るくないからといって、良く眠れるかどうかは分からない。地震といえば、今日は朝のうちに2度か3度、弱い余震を感じただけだったように思う。事態は収束に向かっていると信じたい。

地震のとき、周辺探査を何度もさせたことが仇となったらしく、コムログの電池がもう切れそうになっている。これから先、充電が完了するまで何日かは、探索の記録ができないだろう。
だが願わくば、この場所からロヌーヌまで、もう少しの距離であって欲しい。圧縮水分も、今日の分は食べてしまったので、もうあと8個しか残っていないのだ。

じわじわと追い詰められていく感覚。学者仲間の内ではタフなほうだと自負していた私だが、正直に告白しよう、最近はかなり参っている。
常に飢えと乾きに対する不安や恐怖と戦っている、と言っても言い過ぎではない。あと8日しかないのだ。
このXデーを過ぎた後、もし何も見つかっていなければ・・・考えないようにしようと思うたびに、それでも考えずにはいられない自分に気づく。少しずつ、少しずつ、足元からじわじわと恐怖に蝕まれていくような・・・ありえないと信じてはいるが、黒い妄想がいつも頭から離れない。

そんな折に、昨日の大地震だ。パニックになるな、と言う方が無理な話ではないか。

いや、こんな無機質の機械に、一人でくだらない不安をクヨクヨぶちまけても、なんの得にもなりはしない。今日はもう寝て、明日明るくなったら早速歩き始めよう。まだ終わったわけではないのだ。まだ。

【記録終了】



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)